ルーカスが断わった相手
「な、なにしてるんですか!」
見ると、女装子のルーカスが目を見開いてこっちを凝視。その横に立っているのは黒いマントに骸骨の顔、手にはご丁寧に大きな鎌まで持っている人? なのかしら。
「ひゃああ」
ホラー映画から出てきたようなその姿に、男性陣が叫んで、女性陣は目が点。
「あの、その方どなたです?」
とベシーがおずおずと聞いた。
「あ、えーと」
と言いにくそうなルーカスに、私たちの後ろから、
「マーガレッタ、様?」
という声とともにカロリーナが部屋の入ってきた。その後ろからはランドルフが「このドア……」と言いつつ入ってきた。
「マーガレッタ? まさか」
というロザリンに、ベシーやアンも「コールダー侯爵家の?」
「コールダー……、コールダー侯爵令嬢!」
思わず指さして叫んでしまった。
母様が言っていた、ルーカスのお相手候補の一人。あ、でも、ルーカス断ったんだっけ?
どういうこと?
皆に詰め寄られて、マーガレッタ嬢はうつむいたままだったが、静かにマスクを取った。
中からは綺麗なお顔がのぞいている。
「マーガレッタ様、ルーカス様にお話があるんでしょう?」
カロリーナがうながすと、マーガレッタは小さくうなづいた。
振り返ったカロリーナは、
「皆さん、会場に戻りますよ」
と先頭切ってランドルフの腕をつかんで廊下をすすんで行った。
そのあとをベシーやノア、みんながついていく。
「じゃあ、私も」
と言いかけた私を、
「待ってください」
と小さな声が止めた。鈴が鳴るような声だ。お顔も綺麗な上にかわいらしい感じで、この世界のレベルは高すぎだわ、とつくづく。
「お話、お姉さまにも一緒に」
「え? お姉さま?」
こんなかわいい人からお姉さまって、嬉しいんですけど。
「声出てます」
「え? また?」
どうも心の声が駄々洩れのようで、見ると、ご令嬢はポッと頬を赤らめている。
「それにしても、よくルーカスだとわかりましたね。私もですけど」
すっかり倒錯姉弟のような姿だ。さっきもランドルフが目を見張ってルーカスを上から下まで見ていたし。今頃、カロリーナに怒られてるに違いない。
目を見開き、すっとうつむいた令嬢は、
「前にお二人のその姿をお見かけしたので」
「前?」
というとダンスパーティしかない。
「ダンスパーティにいらしたんですか?」
と聞くとうつむいてふるふると首を横に振る。
あれ? これどっかで見たことない?
「私、ルーカス様が気になってましたの。それを父に言ったらすっかりその気になってしまって」
すみませんでした、と謝るご令嬢。
「謝らなくても、ていうか、謝るのはうちのルーカスですよ」
「僕ですか」
「そうよ、こんなかわいい人の申し出を断るなんて」
「はあ?」
「はあ? じゃないわよ」
「あ、あ、あの、あの」
思わず喧嘩になる私たちの間に鎌をおろしたご令嬢。作り物と分かってても怖いんですけど。
「喧嘩はダメです」
「は、はい」
ルーカスと視線を合わせた私は、
「ごめんなさいね、うちのルーカスはまだ結婚とか考えられない状態みたいで」
またもや首を振るご令嬢は、
「いいんです。それも聞きました。今はお仕事の方が大事です。それに」
「それに?」
「先ほど言ったように私の父が先走ってしまって。それで勝手に行動を起こしたんです」
「てことは、結婚話はお父様の独断でってことですか?」
マーガレッタはこくりとうなづいた。
あらまあ、じゃああの話はあってないようなものかあ。
ちらりと見るとルーカスも微妙な顔してる。
だけど、気になったのは確かよね。
そろそろ二人っきりにしようかしら、とも思ったが、聞きたいことがひとつある。いや、ふたつかな。
「あのちょっと聞いていいですか?」
「ええ」
「そのお姿は」
黒マントに、今は外しているが骸骨のマスク、大きな手作りの鎌。どう見ても死神か妖怪か、なんだけど。それと令嬢が結びつかない。
うふっと笑ったマーガレッタは恥ずかしそうに、
「私、怖いお話が好きなんです」
「怖い話ですか。あれですよね、吸血鬼貴族とか、妖怪公爵とか」
「まあ、そうですわ。お姉さま、よく知っていらっしゃるんですのね」
嬉しそうに顔をほころばせた。
この世界にはアンが書いているような恋愛小説のほかにも、怖い話や子供向きの絵本も存在する。
伝承的な怖い話から始まって、今は創作の話もある。
もともとお話は好きなのであれこれ読み漁っている私。深窓の令嬢がまさかのホラー好きとは思わなかったが。
「なるほど、だから死神男爵ですね、それ」
指さす私に令嬢はますますうれしそうだ。
「はい」と小さく答えている。




