モテモテな弟
「またですか」
と誰よりも呆れた顔をするかと思ったルーカスだが。
「まあ仕方ないですね」
となぜか肯定的だ。
「デリクとは踊らないんですよね」
「さすがに男装してるしねえ」
本来なら、見合い相手ということになっているのだから卒業パーティでは踊る相手ということになるのだが。
どうせ偽の相手だし、デリクだってどなたか踊りたい方がいるのでは? と思うのだ。
「ねえ、ルーカスは誰と踊るの? もう申し込んでいるの?」
卒業パーティの最後は、みんなでダンスをするのが恒例になっている。
何か目新しい催しをすべきではという意見も出たのだが、何をしたらいいものか結局いい案は出ず、いつも通りのダンスパーティになりそうだ。
これも通例だが、ダンスパーティでは既に婚約者や彼、彼女の相手がいる人はその人と最後に踊る。相手がいない人は誰かを卒業までに誘うか、ペアを組んでくれるように頼んだりするものらしい。
何だか海外ドラマのダンスパーティみたいだ。
その場で踊ってくれる相手を見つけてもいいのだが。断られるのは相当にきつそうだ。
うちの弟はどうなのかしら。その場で頼むなんてできそうにない、こともないのかなあ。
ちらりとルーカスを見ると、
「そうですね、頼んではないですが。ダンスなんて別にしないといけないわけでもないでしょう」
ルーカスはああいうが、意外に一緒に踊りたいと言っている女子は多いらしい。
そうなのだ、この子、自覚はないみたいだが「モテ男子ですのよ」ってロザリン情報だ。
なんせ決まった相手もいないし、就職先は魔法省だし。お顔もいいし、モテないわけがないのよね。
さすがうちの親戚。だから魔法力も強いのかもなあ、と思ったりもするが、じゃあ私は? と考えるのが嫌になって考えるのをやめた。
「ねえ、お手紙も山のように来ているんだし、どなたかと踊ってみたら?」
こちらをみて視線を上げたルーカスは、
「その気はないです」
と冷たい返事。
まさか、この子。
「ねえ、まさかと思うけど」
いきなりびしりと手をつきだしたルーカスは、
「違います!」
と一言。
「でも」
「姉さんが思うようなことはありません」
「そおおお? でもヘイウッドとか」
「ったく、違いますから。アン嬢と言い、そういう変な勘繰りはやめてください!」
むっとされてしまった。アンはその手の話を書き進めているらしく、ルーカスに情報を得ようとしたのかもしれない。
「ごめん。ついさあ。ねえ、せっかくなんだし、誰かと踊ったらいいじゃない。別に結婚を申し込むわけではないんだし」
「それはわかってますが」
それが縁でってことはありだが。
と、いきなりドアが開き、母様が顔を出した。焦った顔は何かあったに違いない。また怒られるかと身構えたが、ルーカスに向かった母様は、
「ルーカス!」
「はい、何でしょうか」
「あなた、コールダー侯爵令嬢のお誘いをお断りしたって本当なの?!」
口をわなわなとさせている。
「はあ、どなたか知りませんし」
「待って待って コールダー侯爵令嬢!?」
これには私の方が驚いた。
「あら、エマ、そうよ、うちにはもったいないぐらいのお相手なのよ、なのに」
「しかし、僕は魔法省での仕事に力を入れたいので、まだ結婚は」
「それはわかりますけど、まずはお付き合いだけでも
「すみません、お母様」
「ルーカス……」
母様を見つめ返したルーカスは目をうるうるとさせ、まるで愛玩動物のようだ。
あんな顔されたら母様も強く言えないんだ。さすがというかうらやましいぞルーカスめ。私なんていまだあたりがきついのに。
「少しだけでも考えてみてちょうだい。一応、あなたのお気持ちはお伝えしておきますけど」
母様がすごすごと部屋を出ていくと私はルーカスに、
「コールダー侯爵令嬢って、カロリーナ様と並ぶぐらい地位のあるお家じゃないの」
と詰め寄った。
「知ってます」
さっきの愛玩動物はどこへやら、そんなチベットスナギツネみたいな目しなくてもな返しだ。
「だからさっきも言いましたが、僕は仕事に力を入れたいんです。魔法省に就職が決まったんですから」
「はあ、まあねえ」
その向上心は偉いとは思うけど。あのコールダー侯爵令嬢よ。深窓の令嬢と噂され、噂では飛び切りの美人だとか、いやとろけそうなほどにかわいい人だとか。ほとんど人付き合いはないし学園にも来ていない。だからこそミステリアスなのよ。そんな人と会えるのに。
と私の顔に出ていたのか、ルーカスは一層目を細めると、
「この話はおわりです」
ぴしりと言った。
だけど、ルーカスが断った話はあっという間にひろまったらしく、あちこちの令嬢から手紙やお話が今まで以上に届いた。
さすがの侯爵令嬢では太刀打ちできないと遠慮していたんだろう。
「ったく」
「何、そんなモテ男みたいなため息ついちゃって」
にやにやする私に、ルーカスは、テーブルからあふれんばかりの手紙をつまんで息を吐きだした。
まあ、確かに、全部にお返事するのも大変そうだ。
「向こうから断ってくれたら楽なのにねえ、あっ、私みたいに嫌われ薬でも飲む?」
「まじでそうしようかな」
と上を見つつつぶやいている。冗談で言ったんだけど。
「やめときなよ、ろくなことないわよ」
「知ってます」
またもやぴしりと返される。
「はい、そうでしょうとも」
「ですが」
「ですが?」
「姉さん、僕もシャンダに特殊メイクとやらをしてもらいます」
「へ?」
にやりとするルーカスに私は目が点なまま見つめていた。




