デートの距離
花祭りは卒業式より前にある街のお祭りだ。
ちょうど、冬が終わりかけの頃、街を花で飾り、多くの出店がある。いわゆるお祭りの春版って感じだ。
「デリクとですか」
眉根を寄せたルーカスが部屋に入ってきた。
デートと言うことで、一応それらしく着替えを済ませた私は、
「そうなのよ。お見合いをしなくてすむようにカロリーナ様が手配してくれたんだけどね。でもお礼がデートって。ねえ、ルーカス、小銭ある?」
「はあ? どういう三段論法なんですか」
しわを深くするルーカスに、
「だって、出店が多いでしょう? デリクにお礼をするのに、いっぱい奢ってあげないとだし。ああいうお店は大きなお金より、小銭の方が喜ばれるじゃない」
「お礼って、お菓子でも奢るんですか?」
「ん? 食べ物や飲み物よ。デリクはたくさん食べるらしいし、ああいうお祭りの屋台は美味しいものが多いじゃない。私も食べるし」
目を瞬いていたルーカスはぷっと吹きだした。
「何」
「いや、貸しますよ、小銭。ちょっと待って下さい」
なぜか笑いつつもかなりたくさんの小銭を出してくれた。
「うわ、貯めてたのねえ、ありがと」
笑いをひっこめたルーカスは「両替ですからね」と手を差し出した。
「あ、はい」
財布からお札を出して、もらった小銭をきんちゃく袋に入れた。
「エマ様、では行きましょうか」
ちょっと緊張しているような。いつもより硬い表情のデリクが迎えに来た。
「はい」
と、普通なら寄り添ってデートなんだろうが1メートルは空いている2人の距離。
「デリク様」
横を向いた私はデリクに声をかけた。
「はい」
「何でも食べたいものおっしゃってくださいね。資金はたくさん持ってきましたから」
バッグから出した小銭が入った巾着袋を掲げて見せる。
「ははっ、おごってもらえるんてすか?」
吹き出すデリクに私は眉を下げた。
「もちろんです! こんなことお願いしてしまって申し訳ないって思ってるんです」
「それは」
ちょっと思案顔したデリクは、
「全然大丈夫、気にしないでください」
とにこり。
少しは緊張取れたかな。それにしても本当に笑顔が癒される人だなあ。
なんで攻略対象じゃなかったのか不思議なくらい。
ふたりして距離を取りつつ街を進む。道沿いに並んだ屋台からは美味しそうな匂いが漂ってくるし、貴族も庶民も関係なく楽しそうに屋台に並んでいる。
まるで前の世界のお祭りのようだ。
屋台も色々だが、こちらも見たことあるような商品が多くみられる。
果物のチョコレートかけはバナナチョコだし、飴でコーティングしてるのはりんご飴だろう。
惣菜パンのようなハンバーガーなようなものもあり、色とりどりの果物ジュース、魚や野菜のフライ、スパゲッティやらケーキやら、美味しそうなものでごった返している。
あ、あれはりんご飴ならぬイチゴ飴? 串刺しイチゴに飴が……と見ていると、デリクがその屋台で2本購入しそうになっている。
「あ、デリク様。私が」
とあわててたが、
「エマ様、ここだけは」とさっさと買って私に一本手渡してくれた。
「どうぞ」
「いいんですか?ありがとうございます」
かじったイチゴはちょっと酸っぱめででも飴の甘さとちょうどよくて、
「おいし〜〜」
「よかった」
見ると1メートル離れた横でデリクがぱくりといちごを頬張っている。
「さあて、次は何にしようかな」
「あれはどうです?」
デリクが指差した先にはいか焼き。うーん、よくわかっていらっしゃる。
さあ行きましょうと次々に屋台を制覇していった私たち。だけど、調子に乗って近づいていた事に気がついていなかった。
突然、顔色が悪くなるデリクに私はあわててそばを離れた。
「すみません! 近づいちゃってました」
「いや、自分も修行が足らないんです」
と手を横に振るデリク。
「修行?」
「ロザリン様とデートしたりアン様とダンスされたりしたんですよね。お二人は大丈夫たったのでしょう?」
「それは、まあ」
「つまり、自分の修行が足りていないと」
なんて言って厳しい顔つきになる。
「そんな、それは違います!」
「はい?」
「あれは、私が。そうだ!」
手を叩いた私は、
「デリク様、ちょっとごいっしょしていただいてもいいですか?」
「え?」
デリクをともなって私は街外れにむかった。そこは同じ街でもちょっとあやしげな場所で。
「エマ嬢、こんなところには」
騎士のデリクにはどういう場所かは説明せずともわかっているのだろう。眉根を寄せてあたりを警戒している。
さすがに貴族令嬢がくるにはやばめな場所だもんね。
だけど私は「さあさあ」と先頭きってシャンダのところへと向かった。




