本当のヘイウッド
シャノン家の息子はチャックという名前だと父様が教えてくれた。
「ヘイウッドがチャックの子供だと言うのか?」
父様は渋い顔で「それは違うと思うが」と言う。
てっきり、跡継ぎのいないシャノン伯がヘイウッドを引き取ったのだろうと思っていたらしい。
「違うって言いきれないのではないですか? 他所で作ったということもあるでしょうし。ヘイウッドの母親は盛り場で働いていたそうなんです」
ヘイウッドから聞いたと言う話をするルーカスに、父様は、
「いや、なんというか、シャノンは女性に興味がないんだよ」
母様も聞いていたのか「秘密ですよ」と口に人差し指を当てる。
「だから、ひとり息子だと言うのに勘当されて出ていったんだ」
「じゃあ、ヘイウッドの父親は」
「そのお母さんが何と言ったのかは知らないが、シャノン家のことを言ったとすると、知り合いの一人かもしれないなあ」
「お友達のケンデル様か、シュナイダー様か」
頭をよせた二人は、
「ヘイウッドの容姿からすると、もしかして、と思われる人物がいるんだが」
父様の渋面がますますひどくなる。
「チャックのお付きの人間にそれは綺麗な男がいたんだ」
「メイドたちも貴族の奥様も大騒ぎしてたわねえ」
母様が「でもね、人間としてはよくはなかったわ」と嫌そうな顔をする。
いわゆる小悪党。女性にもてるのをいいことに多くの女性に手を出したそうだ。ギャンブルに酒も強く、チャックやスコット叔父たちの遊び仲間として重宝されていたらしい。
「そいつかしら」
「ヘイウッドの顔を見て、どこかで見た顔だと思ってはいたんだが」
結局、女性問題で刃傷沙汰を起こし亡くなったらしい。
「まさか、その悪党が俺の」
「これは仮説だけどね。スコット叔父は違うし、他の遊び仲間はあなたとはだいぶ面容が違うらしいし。よく似てるらしいわ、その人とあなた。目の色も髪の色も、顔立ち、背の高さもね」
首を横に振るヘイウッドに、
「でもあなたも薄々気が付いていたんじゃないの? シャノン家の人間ではないって。だからでしょう? お二人の命を奪うまではしなかったのは」
ヘイウッドの目が大きく見開かれる。
「パレユロ村で楽しく過ごしておられるわ」
「見つけたのか」
私は大きくうなづいた。
と言っても、私ではなく、カロリーナの手配で見つけたのだが。
パレユロ村にいたシャノン伯爵とその奥様は、小ぶりな屋敷で楽しそうに暮らしていた。
「ヘイウッド様、手を貸していただけます?」
「ん? いきなりなんだよ。今更、俺に気があるなんていわないよな」
イケメン面でいわれるとむずむずするわね。
ふたりを遮る網のようなフェンスの真ん中には手が通るぐらいの穴がある。そこに手を入れた私。ヘイウッドも不審げな顔をしたが、手をテーブルに置く。
苦笑した私はヘイウッドの手をぎゅっと握った。
「何だよ、まじで告白でもするつもりか」
私は黙ったまま、ヘイウッドの手に意識を集中した。こちらを面白そうな顔で見ていたヘイウッドの眉根がよる。
「熱い! 離せよ、おまえの手、熱いぞ」
後ろに下がり手を引き抜こうとする。だけど、無視した私は更に意識を集中した。
ルーカスにとってヘイウッドは優しいお兄さんだった。村には年寄りが多く、子供も少なかったそうだ。そんなときに現れたヘイウッドは憧れる存在だったのだろう。ヘイウッドも弟のような存在のルーカスをかわいがってくれたらしい。
ふたりは本当の兄弟のようだった。
「父さんは忙しかったし、まわりに同じような年ごろの男の子はいないし、ヘイウッドはよく一緒に遊んでくれました。木登りも川遊びも、小さい僕ははっきり言って足手まといだったと思いますが、気にかけてくれて」
「ヘイウッドのお母さんは早くに病にかかってしまい、寝込みがちだったんです。ヘイウッドはお母さんを医者に診せるためになんでもやってましたよ。家のことも仕事も」
「もともとは悪い人間ではないんです」
「だから」とルーカスは言った。
「エマ姉さんのその力でヘイウッドの心をらくにしてやってほしいんです」
ルーカスが頭を下げて頼んできた。
私にできるかどうかはわからない。わからないけど、できるだけのことはするつもりよ。
本当のヘイウッドを、ルーカスの知っていたヘイウッドを表に引っ張り出さなきゃあ。
手が熱い。でもわかる、何かが向こうからやってきてる。私の手に吸い取られるように、それを拒むように。
私は力を手に込めた。
「うわああ」
ヘイウッドの声と私の声が重なる。
ドンっと後ろにはじけ飛ばされる。
「エマ嬢」
「あ、すみません」
デリクが後ろから支えてくれた。
見ると、ヘイウッドも椅子から転げ落ち、ドアにいた騎士が助け起こしている。
「ごめんなさい、ヘイウッドさん、ケガしてない?」
「いててて、ったく。あんた、どんな力を持ってるんだ」
椅子に座りなおしたヘイウッドの顔色は明るく、すっきりとしているように見える。
「俺も魔法力は強い方だが、あんた、不思議だな」
騎士に支えられ、起き上がったヘイウッドに、私は「あなたに伝えることがあるのよ」と言った。
「シャノン伯爵さまと奥様、あなたのことを心配してる。できたらまた一緒に暮らしてほしいって」
瞬間、ヘイウッドがうろたえたように目を泳がせる。
「何を」
「息子に悪いことをしたってずっと悔やんでらしたの。だからあなたが現れてくれて、嬉しかったのよ。お二人のためにも戻ってあげたら?」
「そ、そんなこと許されないだろ」
シャノン伯爵と奥様は二人そろって、田舎で楽し気に暮らしていた。
やってきたカロリーナの使いが事情を説明したが、ヘイウッドは何もしていない、自分たちで田舎に引っ込んだんだと言うばかり。帰り際に「よかったらまた一緒に住まないか?」と伝えてほしいと言われたそうだ。
「そんな……」
「本当の息子になってほしいって」
「馬鹿だよな」
そう言ったヘイウッドは立ち上がった。
「もう戻る」
騎士がドアを開け、進んだヘイウッドはぴたりと止まると、
「あんたに謝ってなかったな。悪かった」
そう言って、少しだけ振り返った。
「エマ嬢、ありがとう」
「ううん」
私は首を横に振った。




