面会
ヘイウッド自身は、村を出てから働きつつ勉強を続け、とある老夫婦の家に住み込みで働くことになった。だが二人ともなくなり、息子としてあとを継ぐことになった。と言ったそうだが、実際はどうだったのやら。
「もしかしたら向こうで会えるかもな。楽しみにしてるよ」とほくそ笑みながら話すヘイウッドは小さな頃のお兄ちゃんのような存在だったヘイウッドとは違っていた。
だが、自分にもそんな過去があったなんて。
ヘイウッドの言う通り、本来の地位を取り戻すべきなんじゃないのか。そう思いサザランド家にやってきた。しばらくはおとなしくしていよう。チャンスはきっとやってくるはずだ。
と思っていたらしい。
のだが。
「何もかも姉さんと会ってからめちゃくちゃですよ」
いきなりムッとした顔を向けられた。
何それ。
「小さい姉さんはかわいかったといいましたけど」
ぎゅっと手に力を込めたルーカスは「本当に」と上を向くと、
「それはそれはかわいらしい女の子だったんです。大きなリボンにクマのぬいぐるみを抱えて」
ああ、それは私であって私じゃないエマだもんなあ、かわいいわよね。
まあねえ、と頭に手をやる私をちらりと見たルーカスは「それが」と首を横に振る。
「へらへら笑うし、変な薬は飲んでるし、目の前で着替えようとするし」
何よ、そのとおりだけどさ。
「あの頃の面影なんて微塵もない」
そりゃ、すいません。
「なのに」
と言って横を向いた。
「なのに、姉さんと過ごす学園生活は楽しくて」
「え?」
こちらに顔を向けたルーカスは、
「姉さん、結婚が嫌ならここにいればいいんですよ。僕はもう出ていきますから」
「はあ? なんで?」
「だってこの家を自分のものにしようと企てていたんですよ。罪に問われてもいいくらいなのに」
「何言ってんの、父様も母様もそんな風に思ってないわよ」
それにね、とつづけた私は、
「ルーカスの悪いものはぜーんぶ私が取り除いんたんだから、もう大丈夫よ」
と胸をドンと叩いた。
「はい?」
「色んなもの、あなたの中からでてきたもの。ねえ、すっきりしてない?」
ルーカスは自分の身体を見下ろした。
「そう言われたら」
「でしょう?」
私は鼻高々に上を向く。
「どうよ、このお姉さまの癒し魔法。上達してるでしょ」
うーん、というルーカスに、
「それに父様も母様もルーカスに本当のことが伝えられてホッとしていたわ」
と言った。
「ルーカスは叔父様の血をひいているのよ。正真正銘サザランド家の人間なのよ。たとえ、そうじゃなくても、養子として引き取っていたと思うの。ふたりのホッとした顔はそれを物語っていたもの」
「そうなんでしょうか」
納得していないのか、うつむきがちなルーカスに、
「そうよ」
と言い切った。
「いいじゃない。もう家族なんだから」
こちらを見て眉を下げたルーカスは、
「家族ですか」
「そうよ」
にっこりとした私を見上げたルーカスは、
「わかりました」
と口角を上げた。
そして、
「サザランド様から出て行けと言われない限りはここにいます。その代わり、姉さんに頼みごとがあるんです」
と真剣な顔を向けてきた。
「ん?」
「姉さんの力を貸してほしいんです」
ヘイウッドのというかシャノン伯爵のお屋敷での一件後、ヘイウッドは牢屋に入れられている。
「おやおや誰かと思えば、妻になる予定だったエマ嬢じゃないか」
ロープで作られたフェンスのようなもので遮られた部屋の中、テーブルを挟んで椅子に座った。
ヘイウッドが入ってきたドアの付近には騎士が立っている。前の世界のドラマで見た刑務所での面会のような状態だ。
こちらも、デリクがついてきていて、ドアのところに立っていた。カロリーナにヘイウッドとの面会を頼むと、デリクが一緒ならとこの場を作ってくれた。
ヘイウッドはどかりと椅子に座ると、
「今日は? ルーカスは?」
「連れてこなかったわ」
と私はテーブルに手を置くと、
「あなた、ルーカスと同じ村にいたんでしょう?」
と言った。
ふんと鼻を鳴らすヘイウッド。
「お母さんとふたりで移り住んできたんですってね。お母さんからお父さんが貴族のシャノン伯爵家の一人息子だと聞いたのよね。だからシャノン家に入り込んだんでしょう?」
横を向いていたヘイウッドがこちらに視線を向ける。
「でもその人はあなたのお父さんじゃない」
その視線が左右に動く。
「ねえ、うすうす気づいてたんじゃないの?」




