叔父の存在
「大丈夫なのですか、ルーカスは」
「はい、肩のお怪我は治っておりますよ。身体の方の異常はありません。今は疲れて眠っておられるだけです」
父様に呼ばれたお医者が一応診察してくれた。
さすがに私の魔法治療だけでは私自身も心配だし。
「あなたの魔法も使えるのねえ」
いまだ仮面舞踏会仕様の母様が部屋の端にいる私に感心したように言ってくれる。
「ありがとうございます」
お礼を言った私はこれを機に聞いてみることにした。
「母様、ルーカスはメイドの子だと聞いたんですが、本当ですか」
「え? そうよ。本人が言ったのね」
母様は部屋のソファに座り込む。
「うちにいたシェリーっていうかわいいメイドさんよ」
「田舎に帰ったって、そこで結婚したんでしょう?」
「そうね」
と言いつつも妙に歯切れが悪そうだ。
「ルーカスは私たちの家族に怒っているのかもしれません。なぜです?」
「怒ってる?」
振り返ると父様が自分の声に蓋をするように口元をおさえていた。
「それはルーカスが言ったのか」
「いえ、ヘイウッドです」
「ヘイウッド」
今回のことはすでにカロリーナ様から説明が伝わっているらしい。父様も母様もさすがに申し訳なさそうな顔だ。
「ヘイウッドとルーカスは昔からの知り合いのようでしたわ」
「昔と言うと、ルーカスがいたシナイズ村か」
父様も母様の向かい側のソファに座った。
「ヘイウッドは、シャノン家を乗っ取ったのかもしれません」
「シャノン」
とこれまた父様は唸るようにつぶやいた。
「シャノンの家にはチャックという息子がいたんだ。うちの弟と仲が良かった」
「あら、あなた、スコット様が仲良くしてたのはケンデル様では?」
「いや、みんなグループで仲良くしてたんだ」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください」
スコットやらケンデルやら知らない名前のオンパレードだ。
「あの、その方たちは」
顔を見合わせた夫婦二人は、
「お前が小さいころに亡くなったからなあ」
「はい?」
「私の弟だよ。スコット・サザランド」
「弟? 叔父様と言うことですか」
ふたりしてうなづく。つまり、私にはスコットと言う叔父、父様の弟が存在していた。
「今はそうでもないが、私の代ぐらいまでは長男があとをつぐのが常識で、弟たちは自分で道を探すしかなかったんだ。それ相応の爵位や金がある家はいいが、そうでもなければなかなかに難しい問題でね」
なるほどね、日本の江戸時代もそんなふうじゃなかったっけか。
「それで弟たちで仲良くしてたんですね」
うーんと唸った父様は、
「仲良しぐらいならよかったんだが、ギャンブルや遊びに精を出すものもいてね」
つまりは遊び人だ。スコット叔父も例にもれずだったらしいのだが。
「ルーカスのお母さん、シェリーと恋に落ちたの」
昔のことだ、特に父様の父親が許すわけもなく、それでメイドのシェリーさんは田舎に帰されたということらしい。
「実はその時、お腹に子供がいたらしい」
声を低める父様に、私は大声を出しそうになる。
「嘘でしょう?」
「本当よ。私がシェリーから聞いたの。でもね、スコット様には言わないでほしい、今の主人は納得して私と結婚してこの子を育ててくれるからって」
つまり、ルーカスは、叔父の子という……
「待ってください!」
いきなりルーカスが起き上がった。
「ルーカス」
「大丈夫なの?」
「寝てないと」
ベッドから起き上がったルーカスは、
「今はそんなことどうでも、それより、僕の父は、サザランド男爵様ではないのですか」
飲み物でも飲んでたら吹き出したであろう父様が目を白黒。
「あなた、まさか」
なんて母様までが疑りだす。
「ちちちち、違う!」
ルーカスに顔を向けた父様は「申し訳なかった」と頭を下げた。
「スコットが君の父だ。だが本当に君の母さんを愛していたんだよ。うちの父親をずっと説得しつつけてね。村にまでシェリーを迎えに行ったんだ。だが、その時は既に結婚をしていた。赤ちゃんを抱っこしてそれは幸せそうだったらしい」
そしてスコット叔父は戦争に志願兵として出兵、帰ってはこなかった。
「ルーカス、君に本当のことを言おうかとも思ったが、自分の父親を信じているであろう君にこんな話をするのはと、せずにいたんだ。こんなことになるなら早く話しておけばよかった。本当にすまない」
じっと聞いていたルーカスは静かに首を横に振る。
「君の父は、血のつながりでいえばスコットかもしれないが、本当の父親は村でシェリーと結婚したトマスだよ。なにもかもまるごと受け入れてくれる度量の大きな優しい男だったんだ」
父様の言葉にルーカスはうなづくように下を向いた。




