危機一髪
「君は家から追い出されるんだろ? たいそうな薬を飲んで親からも嫌われているんだから。家がどうなろうと関係ないじゃないか」
「な……」
「ヘイウッド!」
ルーカスがしかりつけるようにヘイウッドを止めるが。
「なんだ、文句か? 本当のことだろ。それより、その女に心でも奪われてるのか」
口を開けたルーカスの顔が赤くなる。
「何を」
「おや、それはそれは妬けるなあ」
「黙ってくれ」
「ルーカス坊やも大きくなったんだなあ」
いつも余裕のルーカスが顔をゆがめ、苦しそうにすら見える。
なんだ、こいつ。
私の大事な弟を傷つけるようなことは許せない。
アンやみんなの目がこちらを驚いて見つめてくる。ルーカスもまじまじとこちらを見てるし、ヘイウッドは目が点だ。
「あれ、また声に出ちゃってた?」
どうも声に出やすいのよね。頭をかいた私は「まあいいか」と言うと、ヘイウッドに向き直る。
「あんたねえ、何者か知らないけど、どういう人なわけ? まじで性格最悪なんだけど」
ヘイウッドが眉根を寄せる。私はびしりと指を突き付けた。
「魔法省で勤めてるって聞いたけど、どうせ本当の友達なんていないんでしょ。確かに私は家から追い出されてあんたの言う通りなら家もなくなるかもしれないけど、私には友達がいるのよ。心配してくれて一緒に笑ってくれる友達がね。あんたにそんな相手もいないんでしょ。だから、昔の知り合いのルーカスに執着してるんだわ」
ヘイウッドの顔色がすうっと蒼くなり赤くなる。
「な、な、なんて奴なんだ」
「ごあいさつね、こういう奴よ」
ちっと舌打ちしたヘイウッドは、
「ルーカス、お前の代わりにやってやる、感謝しろよ」
いきなり呪文を唱え、手を前方に私の方に突き出した。
ヘイウッドの手に光が集まり、まぶしいくらいの光の玉が大きくなる。
それが手の動きとともにこちらに向かってぶん投げられた。
「ひえっ!」
「危ない!」
「姉さん!!!」
すべての声が重なった。近づく光の奥にせせら笑うヘイウッドの顔が見える。
私は後ろにいるベシー達を庇うように両手を開いた。巻き添えにさせるわけにいかない。
なのに、ルーカスはその私を庇うように同じように両手を広げ覆いかぶさった。
ドンっ!
目を開けると、ルーカスが私の腕の中に崩れ落ちている。
「ルーカス!」
「大丈夫ですか?」
誰? 驚いて顔を上げると、デリクが剣を持って私たちを庇うように立っている。その横にはカロリーナが厳しい顔で立っていた。その手は轟轟と音が聞こえるほどの光が集まっている。その手をぶんっと降ると、光はすっと消えた。
「お二人とも」
「もう大丈夫ですわ。遅くなってごめんなさい」
何が何やらわからないがヒーローが助けに来てくれたみたい。見ると、ヘイウッドは数人の騎士、私が癒し魔法をかけさせてくれた騎士に取り押さえられていた。
「なぜ」
顔をゆがめるヘイウッドに、カロリーナは、
「あなたのことを詳しく調べましたの。ヘイウッドさん、あなた、この家のものをどうしたんです? ここにはご高齢のご夫婦が住まわれていたはずですが」
「父と母は死んだよ」
「そのご夫婦がご両親ということですか」
「ああ」
「それはおかしいですわね」
カロリーナは、
「こちらにお住いのシャノン伯爵には息子さんがいらしたはずですが、その方はお家を出られてもう30年以上なりますのよ。今は50代のはずですわ」
「それは」
言い淀んだヘイウッドは視線を床に落とす。
「お二人をどうされましたの?」
ヘイウッドは下を向いたまま、何も話そうとはしなかった。
すぐにルーカスを屋敷まで運んでもらった。
部屋のベッドに横たわるルーカスは気を失ったままだ。父様と母様に魔法をかけさせてほしいと頼んで部屋に入れてもらった。
「ルーカス」
私をかばって、こんな傷を作って。
本当に申し訳なかった。ついつい我慢できずに言ってしまうのよね。
今回は本当にもう少し考えて言葉を口に出せばよかった。
あんな光の攻撃魔法を使うなんて。
デリクが剣で庇い、カロリーナがさらに上回る強い魔法で応戦してくれたおかげで、このぐらいの傷ですんだけど。
あんなふうに言わなければ、こんな傷をおうこともなかったのに。
「ルーカス、ごめんね。すぐに治るからね」
肩に置いた手が熱くなる。
赤くなった皮膚が綺麗な肌へと戻っていく。それとともに、もっと大きな何かが流れてくるような。この気配、覚えてる。
あれはランドルフ王太子の手から出てきた何か。黒く大きなもの。
あれはランドルフが抱え込んでいたストレスや重圧だったんじゃないか、と思っている。
なら今の、これは?
私は肩から腕、手のひらへと自分の手を移動させた。
その間も気をそらさないように集中し、何かを取り除こうと気持ちを込めた。
ルーカス、あなたは大事な家族よ。
無理せずに抱え込まないで。
大丈夫、きっと、わたしたちは本当の家族になれる。
パンっ!
「うっ!」
ふたりの声が重なった。
「エマ! ルーカス!」
父様と母様があわてて寄ってくる。
手をぎゅっと握ったままの私はつぶった目をそっと開けた。
手の熱はすうっと消えている。
「……姉さん」
「ルーカス? ルーカス! 大丈夫?」
にこりと微笑んだルーカスは、
「ごめんね、姉さん」
と言って、また眠り始めた。




