ヘイウッドは何者?
「な、何で」
「何でって、あなたこそ」
と指を突き刺す私。私の後ろで「うわあああ」とわなないてるアン。ベシーとロザリンは声も出ないみたい。
アンが「こんな、これはネタに……」なんてつぶやいて。振り返った私は、
「もしかしてアン様、そういったお話にも着手されてますの?」
「さすがエマ様、このジャンルを知っていらっしゃるなんて。婦女子の間でひそやかに流行っていたお話のジャンルですのよ。最近、読まれる方も多くなって、私も出版の方に書いてみてはと言われているんですの」
「えーっ! それは素敵」
ついついあっちの世界では何でも来い! だった私はこの世界でもその手の作品が読めるなんてとボルテージが上がる。
「ぜひぜひ、書かれてみるべきですわ。アン様には文才も才能もおありなんだから」
「まあ、エマ様ったら」
と頬を両手で押さえ頭を横にフルフルさせるアン。
「ちょっと」
と声がかかるのにも気が付かなかった。
「姉さん」
「エマ嬢……」
え? 誰よ、うるさいなあ。
「あっ! すみません。ちょっと夢中になっちゃって」
振り返ると、ルーカスの肩を抱いたままのヘイウッドの呆れ顔。
「あ~、もしかしてお邪魔だった?」
ハッとしたルーカスがヘイウッドの腕を振りほどく。こちらにすたすたと来ると、
「姉さん、帰りましょう」
と腕を引っ張る。
「え? 待って待って。これはどういうことなの?」
「これって」
と言い淀むルーカスに「あなたはいいから」と前に出るとヘイウッドにずいっと向かっていった。
「聞きたいのは、あなたよ。ヘイウッドさん」
「おや」と目を見開くヘイウッド。下手にイケメンだから余裕な顔つきが余計腹立たしい。
「どうかされましたか」
「どうかじゃありません。あなた、何か薬を使いましたよね。薪に使ったんでしょう? 変な感じがしたもの」
「ほう、薪のことを」
本当は話してるのを聞いてたからわかったんだけどね。変な感じがしたのは本当だし。
「あ、空気入れ替えに窓は全開にしましたから」
雨が降りこんでるだろうが知ったこっちゃない。にっこりとした私はふと違和感を感じた。
「そうか、肖像画よ!」
「何です?」
というルーカスに、私は、
「肖像画が1枚もなかった」
と言った。途端に、ベシーやロザリンも「あっ」と声を上げる。
「確かに1枚もどこにもありませんでしたわ」
「部屋に飾られることが多いですけど、廊下にもお部屋にも」
どういうこと? てな目つきでヘイウッドを見ているようだ。
だがヘイウッドは苦笑すると、
「油絵が苦手でしてね。父や母が亡くなった時に片付けたんです」
「そうですの?」
ご両親がいないということを出されては強くは言えない。お嬢様3人は視線を落とす。
だけど、私は納得いっていない。ヘイウッドの顔を見つめると、
「あなた、ここの人なの?」
ド直球で聞いてみた。瞬間、ヘイウッドが喉に物がつまったような顔をする。
「な、何を」
「あなたの家ではないのでしょう?」
「な、ここは、私の」
「どこから来たの? ルーカスの古くからの知り合いなんでしょう? ルーカスはこの辺りの出身ではないし、貴族でもないわ。あなたがこの家の息子なら貴族よね。どこでルーカスとの接点があるというの」
たたみかけるように言ってやった。一度、探偵みたいに言ってみたかったのよね。
ヘイウッドは無言でこちらを凝視。ベシーにロザリン、アン、それにルーカスまでが私とヘイウッドのやり取りを目を見開いて見つめてる。
凝視していた視線を床に落としたヘイウッドの肩が揺れ始める。
「クククク」
と笑ってる?
「何か変だったかしら」
「いえ、変ではないが、貴族のお嬢様だとみくびったのがよくなかったか」
とぶつぶつ言いだした。
「だいたい、どうしてそんなに早く目が覚めるんだ。あの薬はもう2時間ぐらい寝ててもいいはずなのに」
「あら、まあ、自白かしら」
と肩をすくめた私だが、薬の効き目なんてわかるわけない。
「それはもしかすると」
と言い出したのはルーカスだ。
「嫌われ薬はかなり強力だし、それを飲んだ姉さんも、日々、薬の影響を受けてるベシー様たちも薬の抵抗力が強くなっているのかもしれません」
なるほどねえ。感心してルーカスを見やった私は、
「さすが、私の弟ね」
鼻高々にふんぞり返りそうになったが、ヘイウッドがいきなり、
「何が弟だ。ただの養子だろ!」
と吠えるように言った。
「しかも、ルーカスに家も家財も何もかも奪われることになるっていうのに」
ん? 奪われる?
「何も知らないとは幸せなもんだ」
ヘイウッドは鼻でせせら笑う。
ムッとしつつも、ルーカスに振り返った。
「どういうこと?」
息をのみこんだルーカスは、
「姉さんは知らなくてもいい」
「は? あの男が言ってる、家も何もかも奪われるってどういうことなの。私も関係があるでしょ」
「それは」
面白そうにこちらを見ていたヘイウッドがでかい声で笑いだした。




