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何だか変……

「エマ様?」

「え? あ、はい」

「大丈夫ですか?」

 ベシーがカップに入った紅茶を手渡してくれる。


 結局、台所にお茶の用意はしてあり、3人は運んでくるだけでよかった、と言っていた。

 今は部屋でソファに座り、お茶を飲みつつ談笑中だ。

 ヘイウッドは始終にこやかにおしゃべりを展開し、お嬢様方も楽しそうに相槌をうっている。


 少し寒い今日は暖炉に火がはいっていて、部屋はほのかに暖かい。

 外は薄暗く感じるのは朝から曇り空のせいだ。今にも雨が降り出しそうだし。ルーカス、迎えに来るって息巻いていたけど、そろそろ来るかしら。


 窓からは庭に植わった木々が見えるだけだ。

 部屋の中は薄暗く、暖炉の火が部屋をオレンジ色にしている。ソファは座り心地がよくて体が沈んでいくようななんとも眠気を誘う。

 

 眠いなあ。結婚するかもしれない相手の家で、友達も一緒にいるのに寝てはまずいわよ。寝てはダメだって。眠い。眠い。瞼が重い。眠ってしまいそう。暖炉を囲んだソファに座るロザリンやアンの頭が揺れているような。肩に重みを感じてみると、ベシーの頭が肩に触れる。


 ベシー?

 私の頭もぐらりと揺れて、目の端に笑顔のヘイウッドがこちらを見てる。その笑顔の中、口角がきゅっと上に上がるのがわかった。




 あれは誰?


 誰かが言い合いをしてる。


 母様と父様の夫婦喧嘩? そんな喧嘩は見たことないぐらい仲のいい夫婦だと思うんだけど。どうかしたのかしら。視界のずっと奥で言い合う二人。


 ねえ、そんな喧嘩しなくても。

 近寄ろうとするけど、なかなか距離が縮まらない。

 私が近寄ったら嫌悪感で喧嘩どこじゃないんじゃない?

 ねえ、聞こえる? おーい、もしもーし。


 あれ? 母様と父様じゃない?

 ルーカス?

 迎えに来てくれたの?

 待って、私、どこにいるの?

 帰らなきゃ。

 ルーカス、誰と喧嘩してるのよ。いいから帰りましょう?


 ルーカス?

 聞こえる?


 おーい!

 おーい!


「おーい!」


 え!?

 がばっと起き上がった私。

 ここ、ここってどこ?

 暖炉の火は消えている。

 部屋の中はまだ暖かいけど。


 何か変。


 ソファで眠りこけてるベシーにロザリンにアン。


 まさか。


 私はこけそうになりながらソファをまたぎ、窓に飛びついた。

 5つも6つも並ぶ窓を次々と開けていく。

 いつのまにか雨が降っていて、風と共に雨が入り込む。

 反対側のドアに取って返して、思い切り開け放した。

 風が部屋を通り抜ける。


 一体、どういうこと?


 ソファのみんなは、うーん、と言って、眠っているだけとわかって少しだけホッとする。

 ここで話していたヘイウッドは?

 あいつ、私たちに何をしたの?


 怒りとともにドアから顔を出し廊下を見回すと奥の方から声がする。

 何か言い争ってる?

 誰かが、怒ってるような声がする。

 夢の続きのような。いや、声が聞こえて変な夢を見たのかも。

 今はともかく声の方に行ってみるしかない。

 あの声はたぶん。


「どうしてこんなことを」

「どうして?」

 クスクス笑う声は間違いなくヘイウッドだ。

 私は声が聞こえてくる部屋のドアの隙間からそっと中をうかがった。


「それは話がしたかったからだよ。久しぶりに会ったのに冷たいなあ」

「話なら普通にすればいいでしょう」

「会って驚かせたかっただけなんだけど」

 ヘイウッドの姿が奥に行く。隙間からは部屋の全体が見えるわけではない。小ぶりな部屋は暖炉とベッド、奥にあるのは箪笥? ヘイウッドの寝室かも。

 ヘイウッドがいるであろう場所からコップのカランと言う音がする。


「飲まないのかい?」

 飲み物を勧めているようだ。

「いりませんよ。何が入っているかわかったもんじゃない」

 ふふふと笑う声とともに、

「大丈夫だよ。紅茶には別に変なものは入れてない。薪に薬を垂らしただけさ」


 まじか、あいつ。


「やっぱり。そんなことをしなくても」

「えー」

 と不満げな返事をしたヘイウッドは、

「ふたりっきりで話がしたかったんだ。わかるだろう? あんなに女性陣がいては話ひとつできやしない」

「あなたってこんな人でしたか?」

「そうだよ。あの頃は君はまだ小さくて、僕を崇拝してたからわからなかったんだろう」

「崇拝だなんて」

「違うなんて言わせないよ。離れるときにはあんなに泣いて、本当にかわいかったなあ」

「やめてください」


 すたすたと足音がして部屋を横切るヘイウッド。ってことは反対側の奥にルーカスがいるのだろう。というか、ルーカスに近づいてる?


「今もかわいいままだ」

 ひええ、これって聞いてちゃやばい奴?


 その瞬間、誰かの手が肩にかかり驚いてドアに手をついた私は、そのまま部屋になだれ込んだ。

 後ろからは私と一緒に、アン、ロザリン、ベシーまで。

 部屋の中で団子状態になった私たちを、ルーカスの肩を抱いたヘイウッドが目を真ん丸にして見下ろしていた。

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