仕事とお見合い
「じゃあ、癒し魔法の勉強になっているんですのね」
と言うベシーに、アンが、
「それを仕事にされますの?」
「なら魔法省にいらしたらいいのに」
とロザリン。ベシーが「先生もいいですわよ」と言い、アンが「ずるいですわ、それなら私、えっと、そうだ! 漫画の編集してくださいな」
「え?! あの漫画、出版されますの?」
「ええ、考えてますの」
「それはぜひ、できることがあれば」
つい2人でオタクのように盛り上がり、今度はベシーとロザリンに「ずるいですわ!」「私も!」と怒られた。
横ではカロリーナも笑っている。
まわりがこんなふうだったら就職も考えられるんだがなあ。
今は本当に個人で癒し魔法の仕事を始めようかと考えている。治安が悪いかもしれないがシャンダのとこで仕事させてもらえないかなあ。
シャンダのとこに寄ろうかとも思ったが、今日も早々に帰らないといけない。
母様も父様もまだ私のお見合いをあきらめてはいないのだ。
「今日は、ヘイウッド・シャノン伯爵様ですよ」
と出がけに言われた。
家に帰ると、メリーベルが仮面をつけ、マスクをし、重装備で待っている。
私と会うとなると、全員重装備なのだ。何もつけていないのはルーカスのみ。
父様に仮面を渡されたが断ったらしい。
そのルーカスが、少し遅れて帰宅すると、着替えて出てきた私を見て眉根を寄せた。
「今日もお見合いですか」
「まあ、そうみたい」
ルーカスは何か言いたげな顔でこちらを見てる。
「どうかした?」
眉間にしわを寄せたルーカスは、
「姉さん、結婚したいの?」
「へ?」
「いや、したくないならしなくても、と」
口角を上げた私は、
「いい弟ねえ」
とばしばしとルーカスの肩を叩いた。
「何!?」
「うん? 気使ってくれてるんでしょう? 無理やり見合いさせられてるから」
母様に聞かれたら大変とこっそりと言った。
ルーカスも「まあね」と小声で答えてる。
「男爵様には言ったんだよ。姉さんがここにずっといてもいいんじゃないかって」
「そうなの?」
「だけど」
私ははーんと言うと、上を向く。
「エマがいたら、お前の結婚相手が嫌がるだろう。小姑の存在はそれじゃなくとも面倒なものだ、なのにエマはダメだ。あれがいたら、結婚相手自体、現れないかもしれん。てなことを言ったんでしょ?」
目を丸くしたルーカスは、
「まあそんなとこ」
と一言。だよねえ。
「エマ様、お客様がおみえになりました」
廊下の奥からメイベリンの声がする。
「はい」
と答えた私は、
「ルーカス、ありがと」
とドアから中庭に出た。
お見合いはいつも、居間か、中庭に置かれたお茶用のテーブルで行われる。
今日のお客様はお庭で、花を愛でながらをご要望のようだ。といっても、花を愛でるまでもなく帰っちゃうんだろうけど。
「お待たせしました」
「エマ様、今日はお会いできて光栄です」
すらりとした体躯に濃い青系統のコートがよく似合っている。髪は銀髪で目はきれいな緑色。
わざわざお見合いしなくてもいいのでは? てな風貌なんですけど。
まさにゲームの攻略対象に出てきそうなキャラクターだ。
さあ、と椅子をひいてくれる。
「あ、すみません。ありがとうございます」
テーブルにはお茶がセッティングしてあり、プチケーキも載っている。
いつもはお茶を飲むどこではなく、目の前からいなくなるのよね。この人もそろそろやばいのでは。
じっと目の前に座るヘイウッドさんを見ていた。
カウントダウンを始めちゃう私。
まじでそろそろよね。6,5,4,3,2,1……
つぶった目を開けるが、そこにはにこにことしたままのヘイウッド。
「あれ?」
「どうかしましたか」
「あ、いえ、何というか、ご気分はどうですか?」
「ご気分と言うと」
首をかしげるヘイウッドに、
「気持ち悪いとか、嫌悪感があるとか、帰りたいとか」
黙ってこちらを見つめたヘイウッドは、
「エマ様、飲まれたのは何の薬ですか」
と言い出した。
「あ、え?」
口をぱくつかせる私に、ヘイウッドはにやっとすると、
「怪しげな薬ですね、あまり褒められたことではないが何か事情がおありなんでしょう?」
ますます目が丸くなる。何なのこの人。あ、そうかもしかして。
「あのヘイウッド様は魔力がお強いんですのね?」
今度はヘイウッドが少しばかり目を見開き、すぐに細める。
「自慢するほどではないですが、多少、他の方よりはできるようです」
やっぱり。
カテリーナもルーカスも、私の異変に気が付いた。二人とも魔力の使い手だ。
目の前に座るこの人も。
だが。
「事情はあるんですが、私が適量を間違ってしまって。私が悪いんです」
ですから、と続けた私に、ヘイウッドは、
「私は大丈夫ですよ。もっとお話ししましょう」
と笑顔を浮かべた




