そして卒業まであと数か月
「つまり~、カロリーナ様の小さな頃はかわいらしくて守ってあげたくなるようなタイプだったってことよね」
「でしょうね」
ルーカスは家に帰りつくと濃いお茶を用意させてソファに座り込んで飲んでいる。
「お疲れ様、もうランドルフ様に言い寄られないと思うから大丈夫よ」
「勘弁してください」
ランドルフを生徒会室に呼び出すのに、女装したルーカスを利用したのは言うまでもない。
私も濃い紅茶に砂糖をどさどさ入れると、フーフー言いながらカップに口をつけた。
「だからそういうタイプの子に惹かれてた、というか、小さな頃のカロリーナ様に重ねてみてたんでしょうねえ」
「たぶん」
そういうタイプに見られたルーカス女装子と以前のエマ。
何にしてもうまくいってよかったが。
「こじらせカップルだったのねえ」
甘い紅茶が身体にしみわたって美味しい。
「姉さんもお疲れ様です。こんなことうまくいくかわからなくて心配でしたよ」
「あら、そお?」
「下手すれば、不敬罪ですから」
「え? まじ? うまくいって、うまくいったのよね?」
思わず首をかしげる私にルーカスは、
「あの時、どうだったんですか?」
「あの時?」
「ランドルフ様と姉さんが倒れたときですよ。本当に大丈夫なんですか?」
「ああ、あれね」
あればっかりは私にもよくわからない。気持ちを込めて、相手の気持ちがラクになるように、ひたすら祈るように。握った手を通して気持ちを伝えるような、気を入れていくような、そんなイメージをしていたのだけど。
カロリーナの手があたたかくなっていくのはわかったし顔つきも柔らかいものになった、ランドルフもそうだったけど、急激に熱くなり、はじけ飛んだようになったのよね。
息をついた私は紅茶のカップをテーブルに置いて大きく伸びをした。
「なんだか、わかんないけど、とても疲れたのはわかるわ」
そのあと、私はソファで寝てしまい、なんだかふわふわとしたまま、気付いたらベッドに寝かされていた。
あれから、ランドルフは何かと生徒会室に顔を出すようになった。
それもお菓子やら、お花やら、役員である生徒のためと言うより、カロリーナのためだろう。
「あら、素敵なお花」
「このクッキーとてもおいしいですわ」
「街で人気のですわよ。なかなか手に入らないって」
ちらちらとカロリーナに目をやるうちの役員女子3人。
カロリーナは眉根を寄せると、
「さあさあ、学園祭も終わったのですから、気を引き締めて。卒業ももうすぐですわよ」
厳しい顔つきで言ってのける。
だけど、バンっとドアが開くと、ランドルフが顔をだした。
「カロリーナ」
「な、なんですか」
さっさと部屋に入ってくると、
「さあ、今日はドレスを見に行く約束だっただろう」
カロリーナの手を引いた。
「え? え? 今日でした?」
「約束しただろう? デザイナーの夫人にも約束してあるんだから、行くよ」
あわあわするカロリーナの腰を取ると、こちらに顔を向け、
「ちょっと借りていくよ。今日はそうすることもないだろう、早めに終わらせて帰っていいから」
「はい!」
いっせいに答える私たちに、カロリーナが「ちょっ、ちょっと」と焦りまくりだ。
いってらっしゃーい、と手を振って二人を見送った。
「もう、熱々なんだから」
「本当に」
「どうします?」
言い合う3人に私は資料室から顔を出したまま手を上げた。いまだ距離はなるべく取ろうと努力中である。
「あのお、学園祭もすんで、あと4か月もないですよね。他に行事や催しというか何かあるんですか?」
「エマ様、こちらにいらしてクッキー召し上がれ」
「いえ、とんでもない。あまり調子に乗るといいことないですから」
ベシーの誘いに私はぶんぶんと手を横に振る。
薬の影響はいまだかわらず。
生徒会の面々は私の状況を知ってくれているので助かってはいるものの、いい気になって近づきすぎるとよくはない。
お茶とクッキーをお盆に載せて運んでくれたアンは、
「一応、卒業前のテストと、あとは卒業式とその後にパーティがありますわ。その前に生徒会の引継ぎもありますわね」
と言った。ロザリンもお茶を飲みつつ、
「これだけって感じですけど、卒業生はそれぞれ進む道に向けて進み始める5か月ともいえますわね」
とアンに顔を向けた。
「アン様は小説家の道を進まれますものね」
「一応、そのつもりですけど」
アンは小説を出版社に送り、本にしましょうと言う話になっているらしい。
ロザリンは「私、魔法省に行くつもりです」
土魔法の上位成績者のロザリンならさもありなんな道だ。
「さすがですわね。ロザリン様の教え方とても上手で、あの時はありがとうございました」
と言う私に、ロザリンは、
「私こそですわ。私、魔法省でもっと学んでから教師になろうと思っていますの」
私に褒められてからずっと考えていたらしい。ベシーも「私もですわ」と目をきらきらとさせる。
「私、子供たちに裁縫や刺繍、それにお勉強も教えられたらいいなって思っているんです」
知らなかった。
が、思い当たることがふと浮かぶ。




