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作戦決行その2

「ここに、あれ、君……」

 ランドルフがドアから顔を出した。


「どうぞ、そこにお座りください」

「いや、え?」

 不審げな表情のランドルフに、

「あの少女はもうすぐこちらにまいります」

 と手を椅子に指し示す。


 首をひねりつつも椅子に座ったランドルフに、私は、

「あの少女はまがいものですよ」

「何を」

「ランドルフ様、手を出してください」

「……」

「悪いことはしません。私です、エマです」

「え!?」

 今の今までエマだとは気づいていなかったらしい。


「エマ、君は何を」

「カロリーナ様も私の癒し魔法を試していただいたんです」

「カロリーナが?」

 頷いた私は、

「カロリーナ様は、ランドルフ様のために頑張っていらっしゃって、無理なさって、いえ、本当に頑張っておられるから。わかっていますよね?」


 少しばかり眉根を寄せたランドルフは、

「そんなことは。カロリーナは王太子妃になる役目がある。だから」

「だから?」

 ついムッとしてしまう。

 息を吸って吐いてして気持ちを落ち着かせた私は、テーブルに置かれたランドルフの手をとった。


「な、なに」

「大丈夫です。変なことはしません。ランドルフ様、さあ、深呼吸してください」

 私が吸って吐いてする様子をなんとも微妙な顔で見ていたが、仕方ないと思ったのか、ランドルフも深呼吸を始める。

 カロリーナにしたように私は手を包み込むように握ると、ランドルフに話しかけた。


「小さな頃にカロリーナ様とお会いしたんですよね」

「ああ、まだ5歳だったかな」

「カロリーナ様は、一緒に遊べるのが楽しかったそうですよ」

「そんなこと言っていたのか?」

「はい。だけど、王太子妃になるためにはいろいろと我慢をしないといけなかったんでしょう?」

 ランドルフは少し眉を下げ、

「そういうものなんだ。カロリーナも私もそういうものだと育ってきたし」

 大きく息を吐きだした。


「カロリーナは才能があるんだよ。なんでもすぐに吸収して自分のものにしていく。誰もが見本にするような淑女に成長していった。自分ですら負けていることも多いと思う」

「才能でしょうか」

「そうだろう? 君も側でみていれば、あれのすごさはわかるだろう」

 私は握っている手に少しだけ力を入れる。


「カロリーナ様は確かに素敵で素晴らしい方です。同じようにあなたも素晴らしい王太子だと思います」

 大きな気が私の中から手に向かって流れていくような気がした。

「ですが、お互いに仮面をかぶりすぎです」

「え?」

「重圧でストレスが大きいんですね。もっと素直にカロリーナ様やお友達に自分を出してもいいんじゃないですか?」

 手が熱くなる。ランドルフの手はカロリーナと同じで冷たかったが、水が沸くように熱くなっていく。


「うっ」

 瞬間、手を離した。

 バンっという音とともにランドルフは椅子から転げ落ち、床に倒れた。


「嘘っ!?」

 私も反動で椅子からずり落ちたが、机に手をかけてみると、倒れているランドルフの足が見える。


「王太子様!」

「ランドルフ!」

 駆け寄ろうとした私より先に、カロリーナが飛び出してきた。


「ランドルフ?! ねえ起きて、しっかりして」

 いつもにないカロリーナがランドルフの頬に手をやる。


「大丈夫ですか?」

「ランドルフ様は?」

 私の側に来たアンとベシーが心配げにランドルフに目をやる。

「それが、いきなり電気が走ったみたいになって」

 私にも訳が分からなかった。手から何かが伝わっていくそんな感じはしていた。だけど、ランドルフからも大きな黒い塊が手を伝って来たようなそんな感じがして、気付いたら磁石が反発するように手をはねのけていた。


「どうしました?」

 ドアからルーカスとロザリンも入ってくる。

「姉さん、大丈夫なんですか」

「う、うん。ちょっとお医者様を呼んでこないと」

 さすがに意識を失っていてはまずい。

 立ち上がってドアに向かおうとする私たちに後ろから声がかかった。


「待って、気が付いたみたいだよ」

 ルーカスの声に見ると、ランドルフが身体を起こし、カロリーナが泣いている。

 思わず目を見張って見てしまう。

 私もベシーもアンも、みんなたぶん目が丸くなってるはず。


 だけど、シクシクと泣いているカロリーナをランドルフは優しげな顔で見つめ、

「もう大丈夫だよ」

 と声をかけ、そっと抱きしめた。


 キャーっ、と声に出そうな私たちは口を押えお互いに視線を交わしあう。

 ランドルフの肩で泣き続けるカロリーナの背中が震えてる。

 なんてかわいいんだろう。

 カロリーナの背中越しにランドルフが目を上げ、こちらに気づいてウインクをしてきた。

 まだまだ見ていたかった女性陣だが、ルーカスに背中を押され、生徒会室からそっと外に出た。


「よかったですわね」

「ええ、本当に」

 嬉しそうな声を出す私たち、誰もが笑顔で安堵した顔だ。

 だ・け・ど、顔を見合わせた私たち女子4人は、一斉に肩を組んでサークルになるとキャーキャー言いながらぐるぐる回りだした。

 すぐそばでルーカスが呆れ顔で見ていたが、私たちが笑いだすのにつられて笑いだしていた。


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