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作戦決行その1

 学園はありがたいことに2日続けてのお休みだった。

 私たちは、カロリーナに連絡を取ると、学園に来てもらうことにした。

 生徒会室、といういつもの場所だが、この際仕方ない。


「あら、どうしましたの?」

 カロリーナが時間ぴったりに部屋に入ってきた。

 部屋の中には私だけ。


「エマ様? ですわよね?」

 頷いた私は、

「今日はちょっとお付き合いしていただきたくて」

 口元を覆っていた布をとるとにっこりとした。

「さあさあ、こちらに座ってください」

 ちょっと苦笑したカロリーナは、

「何が始まりますの?」

 とおもしろそうな、半分緊張しているような。


 それもそのはずで、私の姿は、学園祭でブースを借りて行った癒しの魔法のときの姿をもう少し占い師寄りにしたような姿なのだ。


「変ですかね」

「いえ、でもどうされましたの? 学園祭でされた姿とは少し違いますわよね」

 あの時は黒マントを被ってマスクをしただけだったが、今日は、頭からキラキラのベールをかぶり、口元を布で覆い、ともするとベリーダンスでも踊りだしそうな姿だ。


「学園祭では、勉強になったので、またできたらなって思ってるんです。それをアン様たちに話したら衣装を考えてくださって」

 これは半分本当、半分適当な作り話だ。

 学園祭では、多くの騎士の傷を治し、なぜかエスタのような相談も何人かやってきたのだ。

 姿と言い、テントと言い、占い師と思われたのかもしれない。ならば、半分、占い師と言うか相談に乗りつつ、癒し魔法を駆使できないか、と考えていたのだ。いっそ、街中でしようかな、なんて家族には内緒だが考えているのだ。


「じゃあ、私は新生したエマ様の癒し魔法の最初の相手ってことですのね」

「そういうことです。お付き合いさせてしまってごめんなさい」

 ありがとうございます、とお礼を言った私は、

「カロリーナ様、先日の後輩の話を聞かれたんじゃないですか?」

 少しびくりとするカロリーナ。

「あれは彼女の思ったことで確かなことではないですよ」


 ランドルフの好きなタイプ。ああいわれるとそうかもしれないが。カロリーナのことを好きなのはダンスの時の話で確かだと思う。カロリーナが他の男、わたしのことだが、と踊るのを見て苦虫をかみつぶしたような顔になっていたという話。いつも穏やかな表情のランドルフからはなかなか想像つかないことだ。


「いいのよ、気にしないで」

 息をついたカロリーナは、

「あなたもルーカスもかわいらしいもの、好きになって当然よ」

 と笑みを浮かべた。

 彼女も表情をなかなか崩さない。が今回の話ではそのマスクが取れかかっている。それだけ好きなんじゃないのかしら、王太子のことが。


「カロリーナ様」

 私はテーブル越しに手を差し出すと、

「カロリーナ様、手を握っていいですか? 手袋はしていますから大丈夫と思いますが、もし気分が悪くなったら言ってくださいね」

 うなづいたカロリーナはおとなしく手をテーブルの上に置き、私はその手を自分の手でそっと包んだ。

 手袋をしているが、カロリーナのひんやりとした手の冷たさが伝わってくる。私の体温を移すように手に気を込めていく。


「不思議ね、何だかホッとするわ」

 目をつぶったカロリーナがふうっと息を吐きだした。

「いつもみんなのために学園のために頑張っていらっしゃるから」

「そんなことはないわ」

「王太子妃になるからですか」

「それは」

 手に力が入るのがわかる。その力が緩むように私も息を吐きだした。


「今は頑張らなくていいですよ」

「そうね」

「カロリーナ様は私を助けてくださいました。行き場のない私に生徒会室の場所を与えてくださいましたよね。本当にありがたかったんです。それからは夢のような時間がすぎましたわ。嫌われ薬を飲んでしまってみんなから嫌われて終わりだなって思ってましたのに。素敵な友達もできました。それはカロリーナ様もなんです」

 友達の言葉に反応するように目を開いたカロリーナに私は小さくうなづいた。 


「お友達が苦しんでるのに何とかしたいってみんな思ってるんです」

「みんな?」

 私ももちろんだが、

「ベシーにロザリン、アン、もちろんうちのルーカスも」

「幻の美少女ね」

 クスッと笑顔を見合わせた。


「カロリーナ様、今は小さな頃を思い出して」

 ちょっと目を見開いたカロリーナに私は続けた。

「まだ4歳や5歳の頃」

 王太子妃も何も関係ない頃。

 地位も立場も何も関係なかった頃。

 目を閉じたカロリーナ。


「その頃ですか? ランドルフ様とお会いしたのは」

 うなづいたカロリーナは、

「ええ、その頃は婚約者なんてよくわからなくて。一緒に遊べて楽しくて。でも」

 あなたは王太子妃になるのよ。

 ゆくゆくは王妃となって王となるランドルフ様をを支えていくんです。

 きちんとしないといけませんよ。


「心構えを教え込まれたわ。ちょっとでもだらけていたら怒られたの。どこで誰が見てるかわからないから」

 漫画にあるような王妃教育はないらしい。

 が、日常の動作、外国語、他国との状態、外交、国のために勉強以外でも習うことは多い。


「私、小さな頃は怖がりで、今は全然違いますけどね」

 くすりと笑ったカロリーナに、私は立ち上がると、

「カロリーナ様、資料室にいてください」

「はい?」

「そこで、聞いていてください」

「な、何を?」


 不安げになるカロリーナを立ち上がらせると、無理やり資料室へと連れて行った。

 ドアを薄く開けたままにして、私は部屋に戻った


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