ダンスがすんだ
あんなふうにダンスかあ。
ぼんやりと見ていたが。
「エマ様」
小声で声をかけられ驚いた。
「あ、デリク様」
デリクはいつも剣の稽古姿をよく見るが、今日は騎士の制服なのか礼服なのか、黒一色で、長めのマント、肩にかかるファーも刺繍がしてある薄水色の襟もおしゃれでかっこいい。
「私だってよくわかりましたね。誰も気づかないのに」
化粧が剥げてるとか? 顔に手をやる私を見つつデリクは、
「そうなんですか?」と首をかしげつつも、
「それにしてもかっこいいですね。女の子たちがこちらをチラチラ見てますよ」
いやいやそれはあなたでしょ。
「そんな、それはデリク様ですよ。かっこいいもの」
思わず顔を凝視していたみたいで。
「え?」
「ん?」
デリクの顔が一瞬赤くなる。
「あ、あのすみません、何言ってんだろ、私。あ、でもかっこいいのは本当で、女子生徒が見つめてるのも本当で」
わたわたと訳の分からない説明に必死になる。
デリクはくすくすと笑うと、
「ありがとう、こんなイケメンに言われたら嬉しいなあ」
なんて言われてしまった。
「ほんと、いい人だよなあ。男なら親友に立候補する、絶対。ねえ、そう思わない?」
ルーカスは、横に並んで「そうですね」とデリクの背中を見送っていた。
実はダンスは苦手なんだ、と言ったデリクは騎士の着替える部屋へと逃げていった。どうやらいとこのカロリーヌにちゃんと出なさいと言われたらしい。
「私たちももういいよね、元の姿に戻る?」
「そうですね」
2人そろっては目立つので、ひとりずつしかもこっそりと生徒会室に向かうことにした。
「じゃあ先に行くね」
私が先に生徒会室に行き、そのあとルーカスが来ることになった。もう夕方から夜に向かう時間帯。
ダンスパーティもそろそろ終わる。さっさと着替えて、みんなの中に戻らないと。
生徒会室の中、資料室で着替えていた。
そろそろルーカスも来るはずだ。メイク落としを手伝わないと、と思っていると、いきなり資料室のドアが開き、かわいい姿のままのルーカスが飛び込んできた。
「どうしたの」
シッと指を口にやったルーカスは、資料室の中、整理棚の後ろに飛び込んでいった。
何事? 目を瞬いて様子を見ていた私は、またもや資料室のドアが開いて飛び上がった。
「誰!?」
「あ、すまない、ここに、女性が」
と顔を出したのは、誰あろう、ランドルフ王太子だ。
「ランドルフ様?」
「あれ、ああ、君はエマ……」
いきなり顔がゆがむ。
この薬って、王太子には特に強く効いているような。
「何の御用ですか」
「えーっと、すまない、君がいるとは思わなくて」
目をそらしつつも部屋の中を気にして見ているようだ。
「ランドルフ様?」
「うん、すまない、ここに誰か来たと思うんだが」
誰かって、ルーカスしか来てないし。
さっきの慌てふためいたルーカスの様子を思い出し、ハッとする。
まさか、王太子、そんな趣味が!?
「だ、誰も来てません!」
「ん? エマ嬢?」
「はい?」
「誰か来たんじゃないかい?」
うっ。嘘ってバレてる?
私はぐいっと顔を上げ、既にメイクを落としててよかったわ、足を一歩踏み出した。
瞬間、後退する王太子。
「エマ嬢?」
私は黙ったままにやりとした。そしてずんずんと前進したのだ。
「うわっ!」
王太子らしからぬ声を上げたランドルフ様は、飛び上がると資料室から飛び出した。
「いないならいいんだ、失礼する!」
そんな言葉だけ残して生徒会室から飛び出していった。
「ふう、ったく。ねえ、何があったの?」
腰に手をやって息を吐きだした私は後ろを振り返った。
恐る恐ると棚の後ろから這い出てきたルーカスは、
「なんでもないんです。ただ、ちょっとびっくりしただけで」
「何それ、ねえ、何かあったんじゃないの?」
問い詰めようとしたとき、外から声がかかった。
「エマ様、いらっしゃいます?」
ベシーだ。わいわいと声がするから、ロザリンやアンも一緒なんだろう。
「ここです。今からルーカスの化粧を落とそうと」
と言いつつ出ると、そこにはノアとバーナード、フレディまでがびっくりした顔で突っ立っていた。
「いらしたんですか」
「ごめんなさい、暗いからって」
ベシーが申し訳なさそうに言う。3人が驚いているのは仕方ないのよね。だって。
私の後ろに突っ立っているのは美女姿のままのルーカスしかいないんだもの。
「まさか、あの美女がルーカス?」
ノアがどっからだしてんのってぐらい高い声を上げる。
「う、嘘だろ」
絶句状況のバーナード。フレディは「ロザリンが振り向いてくれないならと思ってたのに」って。ちょっとちょっと、ロザリンがすごい目してみてるわよ。
「エマ嬢が男装してたのは知ってたけど」
と言うノアに、今度はバーナードが私に向けて指を指す。
「あ、あ、あ、あ、あれは、あのイケメンは君か」
いやあ、と頭に手をやる私を、バーナードは確認を取るようにベシーやノアたちに顔を向けた。
「まじか、すごいな」
と言うバーナード。いったいどんな姉弟と思われたのか。
ルーカスの女装は今回初めてで、生徒会女子しか知らないが、私の男装はフレディとノアは当事者なんで知ってて当然。だけど、他の人には黙っていてくれたみたいだ。
「あの、すみません、着替えをしたいんですけど」
疲れた顔のルーカスが疲れ切った声をあげた。
女性陣は「お疲れ様」「かわいらしかったですわよ」と声がかかったが、男性陣3人はいまだに目を真ん丸にしてルーカスを見ていた。




