ダンスの後は
え? マジで?
それはダメでしょう。
ここは幼馴染み存在のノアを優先しないと。あれ? ノアには初恋の君がいるんだっけ? でもどこにいるかわかんないんだし、アンの方が絶対綺麗だし。ここはノアと踊って、吊り橋効果で恋愛に発展すれば。
と、なぜか皆の視線がこちらに向いているような。
「姉さん、声がだだ漏れです」
「え? そうなの!?」
クスクス笑うアンの横でノアが赤い顔で口をひん曲げてる。
「あちゃあ、ごめんなさい。私、お二人ならって」
「もういいから、行きましょう、エマ様」
私の腕をとったアンは、すいっと振り返ると、
「ノア様、あとから踊ってくださるんですよね」
と微笑んだ。
途端に赤い顔をますます真っ赤にさせたノアはこくこくとうなづいていた。
「アン様、ノア様と先に踊った方が」
「いいんです」
ワルツが流れる中、アンの手をとる。
「手袋してるから少しはましだと思いますけど、気分が悪くなったら言ってくださいね」
アンは「大丈夫ですよ」とにこりとした。
「アン様、ノア様かっこよかったですね」
静かに微笑んだアンは、
「私を脅かしたんだからいいんです」
「はい?」
「私、生徒会室でエマ様を待っていたんです」
そうだった、アンの姿はなく、ドアはあきっぱなしで心配して探してた。
アンが言うには、生徒会室でドキドキして待っていた。
そこに、ドアが開き、ノアが顔を出した。
「え? 誰? え? 嘘だろ、君は」
その時、アンは眼鏡をはずしていた。だけど、ノアの声でわかる。
びっくりして椅子から立ち上がるアンの腕をノアがつかもうとした。
「君、あの時の、僕のことわかる? いや、君、もしかして」
何言ってるの。
誰かと間違えてる?
近づいてくるノアに、アンはその場を飛び出し走って逃げていた。
「そんなことが」
「ええ、私驚いてしまって」
「良く見えない状態でそれは怖いかもですよね、仕方ないですよ」
「ありがとう、エマ様」
「え?」
「エマ様もルーカス様も私とノアを助けてくれたでしょ」
「ああ、あれは」
あの時、何の考えもなく身体が動いてた。たぶん、ノアも同じなんじゃないかな。
そのあと、アンは約束通り、私の後にノアとダンスをし、家に送り届けてもらったらしい。
私が送ることもない状況だったしね。
これでノアとの仲はいい雰囲気になるかもと思っていたが。
学園でアンの話を聞いた私は椅子から飛び上がった。
「プロポーズ!?」
アンはノアからプロポーズされたのだ。
「すてき」
「おめでとう」
とベシー達に祝われたアンは、
「でもまだどうなるかはわかりません」
と一言。
どういうこと?
「私、やりたいことがいっぱいあるんです。ですから、それを優先します、それでもいいなら、とお答えしたんです」
「それはすごいわ」
今までの存在を隠していたようなアンからは想像つかないのだろう、ベシーもロザリンも驚いていたが。
カロリーヌは「応援していますね。おめでとう、アン様」とにっこり。
「ありがとうございます。全部はエマ様のおかげなんです」
とアンもにっこり。
「へ? 私ですか?」
「ええ、私の活動を応援してくださったでしょう?」
そうだった。アンは小説書きで漫画も描ける、私から見たらスーパーレディなのだ。
「だって、それはアン様が才能がおありだから」
首を横に振ったアンは、
「そんなふうに言われたことはないですし、知られたら変な女だと思われると思っていたんです」
「そんな」
「だけど、エマ様はほめてくださって、まっすぐに応援してくださったでしょ?」
それは、と言いかけたが、ロザリンが、
「才能って、何をされているんです?」
と聞いてきた。
そこから、アンは自分の書いたものをロザリンやベシー達に披露した。さすがに恥ずかしそうだったが。
すっかりアンの書いたもののファンになったベシー達は、彼女の新作を待っているそうだ。
カロリーヌも感心して、そのつてでロマンス小説家の先生に会う機会を得たり。
アンは自分の居場所を広げているという喜ばしい状況になった。
私のおかげなんかじゃなく、本人のおかげなんだけどね。
なんにしてもよかった。
そんな素敵な令嬢にプロポーズしたノアはというと。




