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アンを助けに

「アン!」

「え? え?」

 ノアの登場に目を向けたアンは眼鏡をかけてはいないが声でわかったのだろう。だが、やたら体のでかい男が立ちふさがる。


「おや、これはノア・ホフマン伯爵子息。何のようですか」

 にやりとした男に、立ち向かうノアが、声をはりあげる。

「ゴヴァン・アベケット侯爵子息、そこの令嬢は私と約束があるのです」

 すたすたとアンのもとに進むノア。


 だけど、ゴヴァンとかいう……

「ねえ、あいつ、同学年? つか、学生?」

 ついつい聞いてしまう。だって、図体がでかいのはまあいいとして、どう見ても若々しさにかける。

「一応、侯爵家の息子ですよ」

「おい! 聞こえてるぞ!」

 顔を赤くして赤鬼みたいなゴヴァンはこちらに顔を向ける。


「あ、聞こえてました? これは失礼」

「ちっ!」っと舌打ちすると、

「ノア・ホフマン、こちらの令嬢は私と踊りたいらしい、そうですよね?」

 言葉は一応丁寧だがあの顔面で迫られてはアンが青くなるのもうなづける。


「アン、行きますよ」

 ノアは無視してアンの手を掴もうとした、が、ゴヴァンはぐいっとノアの肩を押す。

「な、なにを」

「それはこっちのセリフでしょう? ノアさん、あ、様? いや、伯爵家でしたか?」

 身分の違いを言いたいらしい。なんて嫌な奴。そいつの側に、友人なのか、成り行きを男どもが数人にやにやしてるのも腹立たしい。


「さあ、参りましょう」

 とアンの腕を掴もうとするゴヴァンにノアが立ち向かう。

「わからないやつだな」

 ゴヴァンがノアに殴りかかり、ノアがそれを避けるが、なんせ体格差がありすぎる。避けられたゴヴァンは真っ赤な顔でノアに体当たりをかます。吹っ飛ぶノアにめがけて足を上げたゴヴァン。

 やばい、あの足で蹴られたら。思う間もなく走り出していた私の目に、アンがノアを庇うように覆いかぶさるのが見えた。

 そして、大きく蹴り上げようと上げた足めがけて向かう私。


「姉さん!」

 と叫んだルーカスが大きく手を広げたのが横目でわかる。

 振り上げた足がノアとアンめがけて振り下ろされるのと、私が飛び掛かるのと、ルーカスが発現した草木が現れるのがすべて同時に起こった。

 地面で生えていた草が急速に伸び、いばらの蔦を絡ませ、塀のようにアンたちとゴヴァンの間に立ちふさがった。と同時に、思いっきり振り上げたゴヴァンの足に飛びついた私。

 ゴヴァンは体制を崩し、顔から茨の塀の中に突っ込んだ。


 そして消えていく草木の塀。これはルーカスの木の魔法力。さすが私の弟だわ。

 そのまま、ドシンと倒れこんだゴヴァンの身体に乗った私は、白手袋を外すと素手でその顔をむぎゅっと挟んだ。

 白手袋。よく漫画で王子様がつけているようなやつだ。シャンダから「化粧につかった成分をしみこませているので、ダンスにはつけたままするといいだろう」手渡されたものだ。

 それなら気にせず手を触れてもよさそうだが、今は素手が効果的だ。


「お、お、おまえ、だ、だだだだえはんは」

 たぶん、お前誰なんだと言っているんだろう。振り向きつつの変な体制のゴヴァンに、真顔の私は「傷を治してやる通りすがりの親切な人間だよ」と言って挟んだ手に力を込めた。

 ゴヴァンの顔は草木に絡まったいばらではっきり言って傷だらけ。そのままにしてやってもよかったが、癒し力を使うちょうどいいタイミングだし、何より、別の力がきっと役に立つはず。

 さすがに素手で触ると直りは早いようで、傷はみるみる良くなっていくが、ゴヴァンの赤かった顔がみるみるうちに青くなり。


「うっ、き、き、気持ちわる……」

「おっ、効いてきた?」

「はな、離して」

 真っ白になる顔は見事に傷が治っているが、それ以上に気持ち悪さはピークのようだ。

「はいはい」とそばを離れると、立ち上がったゴヴァンはすっころびそうになりながら移動しようとした。その後ろをゴヴァンの取り巻きがついていこうとするが、彼らの「うわああ」と言う声。「きゃああ」「いやあ」と言うたぶん、通りすがりの人たちの声。


「あああ、吐いちゃったかな」

「姉さん、やりすぎです」

 ルーカスが眉根をよせつつやってきた。

「あ、ルーカス、木の魔法、ありがとうね」

「いえ、無茶はしないでください」

 まったく、姉さんは、とお小言が続きそうだったが、アンが「エマ様」と声をかけてきた。


「あ、アン様、大丈夫でしたか? お怪我はないですか?」

 大丈夫です、と笑顔で立ち上がったアン、それにノアも立ち上がると、こちらを凝視。

「もしかして、エマ?」

「はい、ノア様。アン様を助けに入られて、とてもかっこよかったですよ」

 にこりとして返した私は、アンに「ねえ、アン様」と声をかける。

 アンは、ちょっと下を向いたが、

「ええ、ありがとうございました」

 とノアに頭を下げた。


 頬を赤くしたノアだが、

「アン、よかったら僕と」

 あ、これってダンスの申し込みよね。慌てた私はルーカスとその場を離れようとした。

 が。

「あ、エマ様、待ってください」

 アンはノアに顔を向け、

「先にエマ様と踊ってもいいですか?」

 と聞いた。


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