ノアの初恋と学園祭
「ノアの初恋相手ってアンだったの!?」
「そうですよ」
ルーカスは紅茶を入れると私の前に置いてくれた。
「ありがとう。ねえ、初恋相手は名前もわからなければ、今どこにいるかわからないって話だったのよ」
「うーん」
と唸ったルーカスは、
「ノアとアン嬢の家は昔からの付き合いですよね」
「そうらしいわ」
「小さなころから顔見知り。アン嬢は小さい頃は眼鏡をかけていなかった。かけはじめたのは、高熱で視力が落ちたからとか」
「それは大変だったのねえ」
頷いたルーカスは、
「そうですね。まあそれで、療養するのに母方のおじいさんの家に何年かいたそうなんです。で、こっちに戻ってきたときには眼鏡をかけていたそうです」
つまり、小さな頃、二人は出会い、ノアはアンに一目ぼれ。それから数年会えず、次に会った時、アンは眼鏡をかけていて、小さな頃の初恋相手と一致しなかった。
ってこと?
まあ、かなり小さな頃らしいから覚えてないぐらいだろうけど。
「でも、アンがその相手と分かってプロポーズはちょっと失礼なんじゃないの?」
紅茶カップからちらりと目を上げたルーカスは、
「ああ、それは大丈夫です」
「ん? 何で?」
「ノアはアン嬢のことがずっと好きだったから」
「んん? 初恋の君は?」
「うーん、だから、小さな頃から好きだったのはアン嬢のことだったんですが。他の人から結婚の話がくることも、告白されることもあったそうで、それをはぐらかすために初恋の話をしていたんだそうです」
「ふーん、それなら端からアンが好きって言えばよかったのに」
ルーカスはカップをテーブルに置くと大きなため息をついた。
「アン嬢がどう思っているかわからなかったんじゃないですか?」
「あー、そうねえ。家同士が仲良くても別に婚約者でもないし」
それにアンにはやりたいことがいっぱいでそれどこではない。
「ノア様はずっとお好きだったのねえ」
「ええ、そうらしいです」
ん?
「ねえ、そんな話、ノアに聞いたの?」
「そうですよ」
「いつの間にそんな仲良しになったの?」
どちらかというと一匹狼タイプに見えるルーカス。それに私みたいな嫌われ薬を飲んだ姉を持っちゃってたら、向こうから寄ってくるとは思えない。
「一応、恩人らしいです」
あ、そうか、あの木の魔法!
「あれ、本当にすごかったわ。ルーカス、本当に魔法力、すごいのねえ。ねえ、私にも教えて」
いきなり手を突き出してきた。
「まずは学校で習う基本を身につけてください」
「え? 冷たっ」
「簡単に上達するものではないんです。まずは基本をしっかり身につけないとダメです。姉さんは基本を」
母様と血のつながりはないはずだが、ルーカスの小言は母様を超えているような。
ぶつぶつ言う小言を聞きながら、私は癒し魔法上達を目指すと心に誓った。
「学園祭にブース?」
「はい。顔も隠して、手袋もして私ってわからないようにしますから。お願いします」
もう秋に向かうある日。
今日は学園祭の話し合いが行われていた。
うちの学園祭は毎年のことだが、出し物やバザー、庶民の人たちも屋台で参加したり、外に開かれたバザーはかなり盛大に行われる。
文化祭は2日間行われるが、演劇やコーラス、詩の朗読に絵の展覧会に研究発表等々。前世の学校を思い出す。
バザーでは生徒手作りの物も売られ、刺繍や裁縫が得意なベシーは小物や刺繍作品を売る予定で、他の令嬢の指導までしているらしい。
バザーでの売り上げは寄付にまわされることになっているので、親や大人も招待されるとか。
色々なバザーの中で、私は小さなブースを借りたいとカテリーナに申し出たのだ。
小さなブースで行うのは、ずばり、癒し魔法治療だ。
手相でも占いでも多くの人を見る方が勉強になるとどこかで聞いた気がするので、それと同じで、なるべく多くの人の手当てをすることで自分の力を伸ばそうという方法だ。
「癒し魔法、そうですわねえ」
目をつぶりじっと考えたカロリーナは、
「いいでしょう」
「ありがとうございます!」
目を開いたカロリーナはぐいっと私に顔を近づけた。
「そのかわり、危険なことはしないこと、無理も決してしないこと」
「は、はい」
「何かあれば、生徒会のブースに来てください。わかりましたね」
「はい」
何とか許してもらえたし、あとはブースの準備と変装も必要だ。
「エマ様、もうひとつ」
いきなりカロリーヌから声がかかる。
「はい?」
「あなた、ダンスパーティ後のことは聞きましたか?」
「ダンスパーティですか?」
「ええ、前回のです。今回の学園祭も2日目の夜に行うことになっているでしょう?」
学園祭は2日続けて行われるが、2日目、締めにダンスパーティが行われる。この時は生徒のみで親や大人はおらず、お疲れ様会も兼ねているらしい。
前回、男装で参加した私。
ダンスでアンと踊った私は、ベシーやロザリンとも踊ることになり、果てはカロリーナとも踊った。さすがの私もかなりの人の目を集めてしまい、ランドルフ王太子の不興をかいそうで怖かったが。
すでに嫌われてるんだからもういいといえばいいんだけど、カロリーナ様は王太子のお相手なんだから。
私の後、カロリーナはきちんと王太子と踊ったらしいし。
そのころには、そそくさと家路についていた。
だけど、それから私と踊りたいと言う声が殺到したそうで。
「どこがいいんでしょうねえ」
と言う私に、カロリーヌと私のやり取りを聞いていたベシーもロザリンもアンも呆れたような目を向けてきた。
「ともかく、何とかしとかないとまずいかもしれませんね」
と言うロザリンにベシーもアンも「そうですわねえ」「どうしましょうか」と悩んでる。
そんなに悩まなくても。




