癒し魔法の訓練
翌日、生徒会の資料室からそっと生徒会室を見回した。
今日は、アンと、カロリーナ。女性陣はそんなに怪我することもないだろうし。
今いる男子は、ノアとバーナード。男性陣にも怪我人はいそうにない。
どうしようか、やっぱりグラウンドに行ってと考えていると、ドアが開き、
「遅くなりました」
デリクが勢いよく入ってきた。
カロリーナが「ん?」と顔を上げると、
「今日は何かありましたか?」
「あれ? ダンスパーティの用意で話し合いがあるとか、ないとか?」
語尾があやしくなっていくデリクは「はあ、日にち間違いですか」とソファに座り込んだ。
生徒会室には、まるで小さな事務所のような机と椅子があり、お茶でもするようなのか、ソファとテーブルのセットも置いてある。
「デリク? 大丈夫ですか?」
カロリーナがソファに寄っていく。デリクは顔をあげると、
「ああ、大丈夫です。剣の稽古でちょっと腕を打っただけです」
それを聞いた私は咄嗟にドアから躍り出た。
ノアとバーナードが飛び上がって部屋の隅に移動したけどそんなことはどうでもいい。
「どうしました?」
と言うカロリーナに、
「あの、デリク様の打ち身の治療をしてみてもいいでしょうか?」
と訴えた。
「治療? あ、そうでしたわね。あなた、確か癒しの魔法を」
「へえ、癒し?」
と答えたのは当のデリクだ。
「うまくいくかわかりませんけど、私、何とか上達したくて」
すみません、私事で、とあわあわする私に、デリクは一言、
「いいですよ。じゃあお願いします」
と頭を下げ、腕をにゅっと差し出した。
ありがたい。こんな人体実験に付き合ってくれるなんて。
カロリーナも「頑張って」と微笑を浮かべて場所を移動してくれた。
「じゃあ、失礼します」
ソファに座るデリクから距離を取って手をかざす。
「こちらを見ないでくださいね。気分が悪くなったらよくないし、もし嫌悪感とかおきたらすぐに言ってください」
あわてて顔をそむけたデリクは「わかった」と素直に答えた。
直に肌に手を当てた方が治りが早いかもしれないが、嫌われ薬の方が反応してしまっては意味がない。
デリクは嫌われ薬の反応が鈍い方だったけど、握手をしようと指先が触れた瞬間、うっと言って座り込んでしまった前科があるのよね。
触れるとよくないのはわかっている。だから打ち身をしたと言う肘から下の前腕に手をかざした。
打ち身というか打撲だろう、赤紫色に変色して腫れている。
痛そう。内出血してるし。後からもっと痛むだろうなあ。
とにかく、血管のダメージを修復して痛みをとる。
綺麗な状態の肌をイメージしてかざした手に全神経を集中する。
傷を治すときと同じように正常な状態をイメージしながら手のひらに集中した。
手のひらが熱くなるような感覚。傷を治すときにも感じる感覚だ。
肌の外側だろうが、内側だろうが、傷には間違いない。
「ふううう」
「終わった?」
「あ、いえ、まだ」
だが、デリクは自分の腕を見つめると、
「すごい、色が治ってるよ」
腕をぶんぶんと振り回す。
「ほら、痛くないし」
「本当ですか?」
うんうんとうなづいたデリクは、
「長い時間悪かったね」
「え?」
気付かなかったが、既に窓からはオレンジ色の夕日が差し込んでいる。見ると、部屋の中には誰もいない。
「え? え? みなさんは?」
「ん? ああ、みんな授業にいったけど」
嘘でしょう? 1時間以上経ってる。
「ごごごごごめんなさい!!!!」
「へ?」
「デリク様、授業は? 私のせいでお休みしたんですか?」
「ああ、この時間は俺は取ってる授業はないから大丈夫。エマ嬢こそ大丈夫なの?」
ハッとした私は部屋の時計に目をやった。
「や、やば」
「あったの?」
今日は魔法の歴史の授業があったはず。あの先生、怖いんだよね。
すぐに行かないと。
「デリク様、お付き合いいただいてありがとうございます」
「いえいえ」
「じゃあ、私はここで」
部屋から出ようとした瞬間、ドアが開き何人も中になだれ込んできた。
「うわっ」
「あっ! エマ様」
「姉さん」
「エマ?」
見ると、ロザリンにベシーにカロリーヌ、弟のルーカスまで。
「どうしたんです、みなさんで。まだ生徒会のお仕事が?」
入ってきた4人の顔を見まわすと、全員で私とソファに座ったままのデリクを交互に見てる。
デリクが不思議そうな顔で「どうしたんです?」と首をかしげたが、
「ほら、エマ嬢のおかげで打ち身が治ったんですよ」
と腕をぶんぶんと振り回す。
「さすがエマ嬢です。ありがとう」
「いやあ、それほどでも」
私は頭に手をやってついにやついてしまう。
4人はそんな私たちをちらちらと見やると、
「いえ、何でもないんですのよ」
「そうです、気になさらないで」
とにこにこしてる。
どういうこと? と思ったが、いきなりハッとした。4人がいるということは。
「もう授業は?」
「今、終わりましたのよ」
「ですからここに」
ああ、嘘ぉ、終わったの? まあでも仕方ないわよね。厳しい授業を受けなくてすんでラッキーかも、とルーカスに顔を向けた。
「じゃあ、帰りましょうか」
が。
「姉さん」
「何?」
「はい、これ」
と辞典のような本を手渡してきた。
「へ? 何?」
「バリッシュ先生からの宿題です」
魔法歴史の厳しい先生だ。
うおっ、まじか。
「全部じゃないよね?」
「読んで感想を書くようにって」
そう答えたルーカスはにこりとした笑顔を向けた。




