嫉妬作戦はうまくいった?
ふたりして屋台の間を歩いていく。
「ロザリン様」
「はい」
「フレディ様、いらしてますね」
さっきから後ろからついてくる男に気が付いていた。さすがにお坊ちゃま育ちらしく、後をつけるなんて人生初めてなんだろう。家の陰に隠れ隠れしているつもりみたいだが、距離は近いし、姿が隠しきれていない。
「ロザリン様のことが心配なんですね」
「そうなんでしょうか」
小声で後ろを気にしつつ答えてるロザリン。
なんてことはない、お互い好きなくせに。
って言いたいぐらいだわ。
ふふふと思いつつ、二人で屋台を見て回る。
「これ、かわいいですよ」
「本当、すてきですね。エマ様似合いそう」
「今は違うでしょう?」
と言った私は見ていた髪飾りをロザリンの髪に合わせてみた。
どこかから「きゃあ」と小さな黄色い声が聞こえたような気もしたけど気のせいよね。
目の前のロザリンが頬を赤らめているのは気のせいではなさそう。
うん、だてに恋愛漫画をよんできたわけじゃないですからね。男性役なんて初めてだけど、どんなふうにすれば女子が喜ぶかは漫画で培っていてる。ここで生かさないでどうするよ。
ほら、あっちの屋台でお茶でも、とふたりでお茶とケーキでカフェタイム。完璧なデートを楽しんでたが、ちょっと悪乗りしすぎたかな。こっちを見るというより、睨んでる視線が痛すぎなことになってきた。
そろそろ、フレディ様に出てきてほしいんだけど。
私はロザリンの手を引いて屋台の間を抜けていった。確かこの先に少し丘になっていて花が綺麗に植えられていて、カップルが座るようなベンチがあったはず。そこに向かうけど、少し前まで降っていた雨のせいでぬかるみができていた。
「ちょっと足元がよくないですね、大丈夫ですか?」
「ええ」
と言いつつ下を向いて水たまりをよけていく。
危ないかな、と思いつつ「もう少しこちらに寄って」と手を引いたその時だった。
いきなり後ろから「どいてどいて!!!」と大声がかかる
小さめの幌馬車が走ってくる。
「こっちに!」
慌てた私はロザリンを庇うようにして覆いかぶさった。
バシャん!
と嫌な音とともに私の服に盛大に水たまりの水がかかった。
腕の中のロザリンが驚いた顔をこちらに向けていた。
「エマ様?」
「私は大丈夫。ロザリン様、大丈夫ですか? 濡れてはいない?」
身体を離し、立ち上がる私の肩を誰かががしっとつかんだ。
「な?」
「お前! ロザリンから離れろ」
いきなり掴まれ、ロザリンから引き離された。
「うわっ、ちょっと」
と倒れそうになる私をロザリンがぐっと抱き着いて引き寄せた。
「ろ、ロザリン」
青い顔になっているのはフレディだ。私をロザリンから引き離したのもフレディ。ぴったりくっついているのが我慢ならなかったんだろうけど。今の方がぴったりくっついてるような。
ロザリンは私に抱き着いたまま、フレディを見上げると、
「エマ様に何をするんです!」
とは目を三角にしてる。
「え? えま?」
目が点なフレディ。
そりゃそーよね。
「どうも~」
「な、な、な、何してるんですか! 女子ともあろうものが、そんな姿でロザリンと」
言い方どうよ、と思ったが、私が口を挟むより先に、私の後ろから響くような声がかかる。
「フレディ様、そんな言い方はいかがなものでしょう」
私だけでなく、みんなして驚いて声のする方向に顔を向けた。
今度は私の目が点だ。
そこには、カロリーナがにっこりとした笑みを浮かべて立っていた。
ついでに言うと、後ろにルーカス、それにベシーも一緒に。
ふたりがいるのはわかるけど、カロリーナ様はどうして?
すたすたとこちらに向かって歩いてくる。
いつもの学園服姿とは違う。セーラーフリル襟の濃い紺のブラウスに薄水色のAラインスカートがよく似合っている。
「カロリーナ嬢」
フレディが目を泳がせて大変そうだ。
「フレディ様、どうしてエマ様がこのようなことをしたかわからないのですか?」
「え?」
私を見、カロリーナを見、ロザリンに助けを求めるように見やってる。
「私のためです」
とロザリンが言い、フレディが困惑してる。
「私が他の方と一緒にいたら、フレディ様がどう思われるか知りたかったんです」
はっきりと言ったロザリンは、こちらを見ると、
「ごめんなさい、エマ様、怖くなかったですか?」
肩を掴まれたことだろう。
「ああ、全然、想定内ですから。でもこれでフレディ様の想いがわかったんじゃないですか」
「お、想い!?」
さっきからフレディは青くなったり赤くなったりと忙しそうだ。
「ありがとうございます、エマ様。みなさんも」
ロザリンは頭を下げてお礼を言った。そして。
「もう帰りましょう」
とにこりとした。
「ああ、そうだね」
と言うフレディに、
「私、馬車で帰ります。お世話になったエマ様とベシー様を送りますから」
「え、あの自分は」
「カロリーナ様にも乗っていただくので、もう乗れないと思いますわ」
カロリーナはちょっと目を見開いたが、すぐに笑顔になると、
「そうですわね。ごめんなさいね、フレディ様」
これぞ令嬢の笑みだわ。プラス悪役令嬢の笑みでもあるのよね。フレディは何も言い返せなくなったみたい。
だけど、これでいいのかしら。




