さあ、デートだ
裾が長めのコートにいわゆるベストのウエストコート。乗馬ズボンと言うかキュロットとかいうのと同じだと思うのだが、中世ではブリーチズとかいう3点セット。ファンタジーでよく見る貴族服だ。
首元のひだがいっぱいのジャボにコートと同系色のブローチをとめる。
さすが跡取り息子、たくさんの服やアクセサリーがクローゼットに収められている。
「ブーツは私のそのままでごまかそう」
一通り着替えを済ませ、ドアからそっと顔を出すとルーカスを呼んだが、ちょうど行きあったメイドのメイベリンとばっちり目が合った。
「……あ、あの」
「まあ、お客さまでしたか、ルーカス様は、少々お待ちください」
顔を赤らめたメイベリンがあわてて廊下を走っていく。
ルーカスを呼ぶ声もいつもよりワンオクターブ高いような。
すぐにルーカスが戻ってきたが、なぜか後ろからメイベリンもついてくる。
ドアの前でくるりと踵を返したルーカスは、メイベリンの進行を塞ぐようにして両手を広げた。
「ありがとう、メイベリン。もう大丈夫だから」
「え、でもお茶をお持ちいたします」
ルーカスの肩越しに部屋の中を覗こうと顔を右へ左へと忙しい。
「いや、もう出るから」
「そうなんですか?」
と名残惜しそうに首をのばしてる。
「ありがとう」
と言い切ったルーカスはバタンとドアを閉めた。こちらをちらりと見ると、
「さあ、行きますよ。どこに行くかは知らないけど」
「え、うん、ありがとう。場所はね」
メモを引っ張り出しつつ、
「ねえ、メイベリン、変だったわねえ」
「姉さん」
「ん?」
「わかってないみたいならいいです」
訳が分からない返事をしたルーカスは先頭きって廊下を進み馬車を用意させてくれた。
早く早くと馬車に押し込まれつつ、廊下にいたメイドたちの視線が気になって仕方なかった。
「ねえ、変じゃない?」
あんなにじろじろ見られたのは、私がエマだとわかって何してんだ、と思ったからなのかも。
「何がです?」
「こういう恰好したことないから。エマじゃなくで男の人に見えてる? それにかっこよく見えてればいいんだけど。なんせ、恋敵を演じないといけないから」
フレディを焦らせないといけない。と今更ながら焦ってきた。
「やっぱり、ルーカスがやったほうが」
「嫌ですよ」
「かっこいいんだから、フレディも目じゃないと思うんだけど」
「な」
ルーカスは「何言ってんですか、ほら、もう着きますよ」と車窓に顔を向けた。
うっすらと頬が赤くなったような気がしたけど気のせいかな。
「あ、本当だ」
外を見ると、町の商店が並ぶ道に屋台がいくつも出はじめている。
今日は、月一のマーケットの日。前にいた世界のフリマのような、マルシェのような感じで、学生も遊びに来ることが多い。楽しそうで参加してみたかったのよね。
「雨がやんでよかった」
さっきまで雨が降っていたが、今は太陽が顔をのぞかせている。おかげで屋台も出てるわけで。計画も実行だ。
馬車から降りた私は、噴水がある広場へと向かった。ルーカスは離れた場所から様子を見ていると言ってくれた。もし、フレディが激高した場合に備えてらしい。
ほんと、いい弟を持ったもんだわ。
それというのも、自分が嫌われ薬を飲んだことが発端なんだからわからないものだ。
途中の屋台で小さなブーケを買った私は、噴水の側で町の様子を眺めていた。色々な屋台が道筋に並んで、まるでお祭りのようで、こんなところをデートしたら楽しいだろうなあ。自分には薬が切れるまで当分先の話だが。
「あ、ロザリン、ベシー」
見ると、ベシーとロザリンが連れ立って噴水広場に向かってきていた。
ボウタイブラウスは袖がふんわりとしていて、ゆるく広がったスカートは裾がレースで段になっている。レースは細かい花模様。髪はいつもまとめているが今日はおろしてレースのヘアバンド。
いつもはどちらかというときりっとした印象のロザリンだが、今日はかわいさが際立っている。
「ロザリン様」
片手をあげた私はにこりと微笑んで近づいていった。
ロザリンもベシーも目をまん丸くしてる。それより、さっきから噴水近くにいる女性陣がちらちらとこちらを見ているのが気になってたのだが、今もロザリンと私を凝視している。
「何か変ですか?」
ふたりに近づいて小声でささやくと、二人そろって頭をぶんぶんと横に振る。
「え、え、え、え、え、エマ様、ですよね」
にこっとしてうなづいた。
「ああっ」とロザリンが小さく言い、ベシーが胸をきゅっと押さえてる。
「じゃあ、そろそろデートに行きましょうか」
ロザリンの腕をとった私。ベシーは「あ、あの、私、遠くから見てますね」と言ってそそくさと離れていった。
ルーカスと言い、ベシーと言い、そんなに心配なのかな。




