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イケメンに変身

「あんた、また来たのかい!」

 秘薬のおばあさん、ではなくお姉さんがめちゃくちゃ嫌そうな顔をする。

「どうも~、先日はお邪魔しまして」

 なるべく距離をとって、愛想よくお辞儀した。

 私は嫌われ薬を売ってくれたお姉さんの店へとやってきていた。


「何の用なの。もう薬は売らないし、その薬の解毒剤はないからね」

「あ、それはいいんです」

 以前にルーカスが聞いてくれてよくわかっている。この薬の効果はまだしばらく続く。

「今日はそのことじゃなくて、特殊メイクのことで」

「は? 特殊?」

 お姉さんは、カウンターの奥からでもしかめっ面なのが分かるくらい眉をひそめてる。


「私が初めてお会いした時、おばあさんだったでしょう? でもそれはお姉さんが特別な化粧をして作ったものだって」

 お姉さんはふうっと息をつくと、

「あの子に聞いたんだね。そうだよ、色々なものを混ぜてね」

「すごいですよ。完全におばあさんだったし、本当にこんな綺麗な若いおねえさんがあんな歳とったおばあさんに変装できるなんて」

 お姉さんの顔つきがふと変わる。眉をあげ、口の端が上がる。

「そお?」


 うんうんとうなづいた私は、

「それで、ぜひ、私にもしてほしいんです」

「なんだ、そんな、え? あんた、ばあさんになりたいの?」

 思わずずっこけそうになる。

「いえ、イケメンにしてほしくて」

「いけめん……?」


 私はお姉さんに理由を説明した。

 お姉さんは渋い顔で話を聞いていたが、いきなり立ち上がった。ルーカスに拒否られたことを思い出す。お姉さんも反対かな。

 だが、こちらに顔を向けると、

「わかったよ。あんたのその友人のために一肌脱いでやるよ」

「え!? 本当に? ありがとうございます」

 ごほんと咳払いしたお姉さんは、

「それから、私はシャンダ、シャンダ・ランプ。シャンダでいいよ」

「シャンダさん、よろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げた。


 それから奥の部屋に連れていかれた。

 部屋の中には、メイク用の道具やら、粘土みたいなものからカツラに、あれは筆に絵具? コルセットに杖やら衣装もぼろぼろなのからドレスみたいなものまで山積みだ。メイク室のような工作室のような。


「じゃあちょっと座って」

 顔を背けつつも椅子に座らされた。

 さすがに顔を凝視すると嫌いな気持ちが増幅しちゃうよね。

「あの、顔を見ずには無理ですよね。どうしましょう」

「そうねえ。そこは商売人だから嫌いな相手でも仕事は仕事。気持ちを落ち着かせるお茶を飲みながらやるわ」

 職人のようなことを言って、ハーブのお茶をごくごく。私には出してくれないのは、薬の影響なんだろうけど。


 私の顔を鏡越しに見つめる。多少眉が吊り上がりそうになるが、もくもくとメイク道具を取り出した。

「目をつぶってくれる」

 髪をまとめ、ネットみたいな網状のもので小さくまとめる。顔にはクリームタイプのファンデのようなものをぬられ、更におしろい、眉を上げ気味に太くする。

 短めな髪のかつらは、金髪だ。

「もし地毛が見えてもこれなら違和感ないわよ」


 結構早めに作業を終えたシャンダは私の両肩に手を置いた。

「目をあけて、顔をみてごらんなさい」

 そっと目を開けた私は鏡に映る自分に驚いた。

「服は、この前一緒に来た子の服を借りるといいわね。貴族服はうちにないわけでもないけど、ちょっと安っぽいから」

 でも、男性顔でメイド服姿ではどこかの変態かと思われそうだ。

「今はベールで髪も顔も隠して帰んなさい」

「はい、そうします」


 学校を休んできた私は、そそくさと家へと帰った。

 そっとルーカスの部屋に忍び込む。


「姉さん!」

「うわあああ」

 驚いて腰を抜かしそうになる。

「あんた、学校は」

「それはこっちのセリフです。朝から腹痛が、とか、頭痛がするとか、遅れていくと言うから変だなと思ってたんです」

 ルーカスはいくら待っても来ないのを変に思い、早めに帰宅したらしい。


「ロザリンさんとベシーさんと待ち合わせしていると聞きましたが」

「あら、吐いちゃったのね」

「姉さん!」

 ごめんごめんと言いつつ、私は被っていたベールをはずした。


「……な、姉さん、ですよね」

「ねえ、すごいでしょ? 男の子に見える? ねえねえ」

「は、はあ」

 にへらとした私は「あのね、それで」と口をもごもご。

「ルーカスの服貸して」

「僕のですか。まあ、仕方ないですね」

 ちらりとこちらを見つつクローゼットの中を物色してくれた。


「これぐらいですかね」

 出した服は、緑がかったうすい青の上着は後ろが長くなっていて今風で、細かな金糸の刺繍がとてもきれいだ。

「これ、着てないんじゃない?」

 どちらかというと黒系の地味目な服が多いルーカスは、

「派手なのは苦手で」

 と出した服を遠ざけて眺めてる。


「母様が好きそうな服だわ。最初に着ちゃってごめんね」

 そう言いつつ、着替えようとする私を、ルーカスは手を差し出して止めた。

「また、姉さんは。出てますから、準備できたら言ってください」

 そそくさと部屋から出ていく。

 どうも、ルーカスって遠慮がないせいか、何だか昔からの弟みたいなのよね。何でだろ。


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