㉓
左腕……ダメ、何もない。
足は、膝から下が、動いてる感じがしない。
視界も、左半分が見えなくなっちゃった。
でも、まだ、残された右目で見ることは出来る。
私達の世界が、眼の前まで迫っている。
このまま世界同士が融合してしまったら、一体どうなってしまうのだろう。
誰も想像が出来ないし、誰も何も分からない。
そもそも全員死んでしまうかもしれないんだ。
結果なんて、誰も見る事が出来ないのかも。
私には、謝ることしか出来ない。
でももう、ごめんなさいを言う口もなくなっちゃった。
あと数秒もしないで、私の肉体は消えちゃうのかな。
それとも、『願い』に完全に乗っ取られて、私が私じゃなくなるのかも。
どちらにせよ、アズモンデオという個体は完全に消えてなくなるんだ。
……上手くいくと、思ったのに、なぁ。
いっつも失敗ばかりで、本当にポンコツなんだから。
でも、もう、いいか、な。
頑張った、よね。
私……。
「なに勝手に諦めてるのよ」
…………千祢里? リズ?
「ほら、目を開けなさい。お喋り出来るように、口だけは元に戻したから」
な、なんで、リズがここに? それにその翼は。
「あは、翼に驚いてるんでしょ? 私だって魔王アズモンデオだったんだから、肉体改造ぐらい出来るのよ。……なーんて、ウソ、私の元々の魔力と、ドラリンとキィ君、皆の魔力を借りて具現化させたの」
「……驚いた、本当に改造したのかと思っちゃった」
千祢里の肉体だからね、勝手に改造したら千祢里怒っちゃうよ。
「あら? 忘れちゃったの? 千祢里だって翼があったら素敵って言ってたじゃない」
「……そうだっけ? 覚えてないよ。それよりも、なんでここに? ここ、結構大変な状況だと思うんだけど」
空から異世界ロードメリアが降ってきてるし、地上は光と風で大変な事になってるのに。
私の身体だって、顔の一部があるだけで、他はもう……。
「アズのピンチに駆けつけないと、ダメだと思わない?」
「……駆けつけてくれたって、もうどうにもならないよ」
もう魔力はないし、『願い』だってその目的を変えてしまっている。
今更取り込むことも出来ないし、ここまで肉体を失ってしまっては制御も出来ない。
最後に千祢里を見て、リズと会話が出来ただけでも、泣きそうなくらい嬉しいけど。
「諦めるなんて、らしくないよ」
「……だって、だってぇ……」
「泣かないの、もう、私は泣き虫だなぁ」
涙は出ない、もう、ほとんど消えちゃってるから。
後悔しかない、全部私の詰めが甘かった、それしか言えない。
「ねぇアズ、私がただ単に、貴女に会いにきただけだと思ってる?」
「…………?」
「もう喋れないか、じゃあ聞いてるだけでもいいよ。アズ、私ね、そろそろ元の身体に戻ろうかって思ってたんだ。この『願い』だっけ? 尋常じゃない程の力が具現化した今なら、千祢里の肉体を保持しつつ、私は貴女に戻れるんじゃないのかなって」
ダメだよ、それじゃあ、リズが消えていなくなっちゃう。
リズはもうリズなんだ、私じゃない。
何カ月も時間をかけて、貴女はリズっていう完全なる個体になったのに。
「アズ、貴女、私と一つになることをダメとか考えてない? そりゃあね、私だってこのままでもいいかなって最近考えてたりしてたんだけどさ。でも、やっぱりダメだよ。貴女と私は元々一つだったんだから、分離してる方が間違ってる。千祢里のことを考えてもそう、ずっと私がいたんじゃ、やっぱり生き辛いよ」
寂し気な笑みを浮かべたリズは、もうほとんど何もない空間を抱き締める。
「それじゃあ、戻るからね。……私を受け止めて、アズ」
嫌だと言えない自分がもどかしい。
私の意見なんか聞きもしないままに、リズは翼で私を包み込む。
温かかった。
ずっと友達だと思っていた。
何もかも理解してくれる親友だと思っていた。
元は自分だったとは思えないくらいに、リズは私にとって大事な人だったのに。
分かれていた思念が一つになって。
リズが密かに蓄えていたであろう魔力が、私の肉体を構築する。
本当なら泣きたい、居なくなってしまったリズを想って泣き叫びたい。
でも、強い貴女は、きっとそんなこと許してくれないから。
「……最後まで意地悪だよ、リズ」
意識を失い、私の胸の中で眠る千祢里からはもう、リズを感じない。
完璧主義のリズだから、千祢里の蘇生も問題なく終わらせてしまったのだろう。
凄いな……本当にリズは私だったのかな。
瞳に残る涙を乱暴にぬぐって、泣き言をいわないように歯を食いしばる。
「貴女の代わりに、私、やり遂げるからね」
空から降ってくる大地、それをもう、止めることは出来ない。
絶望的状況なのに、リズが心の中にいるからかな。
なんとかなるって感情が、どこからともなく、根拠のない自信となって溢れてくるよ。
リズ……私の中で見ててね、私、絶対にやり遂げるから!




