㉑
十二月三十一日、午後十時三十分。
ついに始まった魔王アズモンデオと勇者アルクによる異世界転送の大魔法。
何万という観客たちが見守る中、勇者アルクは当時の再現とし、魔王アズモンデオの肉体へと銀製の剣を突き立てる。
群衆から悲鳴が上がるも、これは必要な儀式なのだろうという認識のもと、逃げ惑うような事はなく、その場でステージ上へと熱い視線を送り続けた。
剣が突き刺さったすぐ後に、勇者アルクの首があらぬ方向へと曲がり、それが即座に元に戻る。何が起こったのか観客には理解できないままに、当事者たちは何かを語り、そして魔王アズモンデオに深く突き刺さったままの剣が、より巨大化を増していく。
――大丈夫なのか?
――アズちゃん頑張ってー!!
――アズちゃあああああああああああん!
様々な声が上がる中、魔王アズモンデオを貫いていた剣が突如発光を始める。
音もなく輝いたそれは、ステージ上を包みこみ、次第にその光は観客席をも包み込んだ。
何も見えず、何も聞こえない。
隣同士顔を見合わせ、他人といえど人がいる事に安心し、再度ステージへと視線を向ける。
すると、どこからともなく風が吹き始めた。
そよ風から始まったそれは、段々と強さを増し突風となり、観客席を襲う。
そんな状態が続いた中で、誰かが声を上げた。
「空に、世界があるぞ」
声を聴いた観客たちは一斉に空を見上げる。
雲の中にいるような真っ白な世界で、確かにそれは存在していた。
見上げているのに、見下ろしている。
観客席の何人かが、見上げている世界に落ちてしまうのではないか? と思い込み、自分の座っている椅子を思わず掴んでしまう程に、それは目の前に存在していたのだ。
自分達が見ている世界、それが事前に魔王アズモンデオが説明していた世界。
異世界ロードメリアなのだと気づくと、観客たちは眼前の異世界を物珍し気に観察を始めた。
★
本当に扉が開いた……なんて呆けてる場合じゃない、急いでやらないと。
まずは肉体を保持するための『魔』を『魔力転送』に使うために放出しないといけないんだけど。うぅ、怖い、ただでさえ痛いのに、この状態で守護魔法を外すとどうなるのかなんて、分かり切ってる事だし。
でも、やらないと次にいけない。
一回だけ深呼吸して、ぃよしッ!
『魔力転送』
――――ッ!!!!!
「いっ、ぎっ、あああああああああああああぁッッ!!」
い、痛い、痛い痛いたい! お腹が痛い、超いたい!
でも、でも、今やらないとダメ、今は痛がってる場合じゃない!
聖女カナディの瞬間移動を真似して、予め転送させるべく大地をマーキングしたんだ。
この何週間かずっと移動移動の繰り返しだったけど、やっぱりこの方が処理が早い。
四十七都道府県、その内の三十の大地に生まれた異世界、全ての大地を転送させないと。
「ひっ……ぎっ、ぐぅぅぅッッ!」
國起総理が「転送させるのはこの国だけでいい、諸外国に発生した異世界はそのままにしろ」って言ってくれたのは、きっと何か裏があるんだろうけど。
でも、その言葉で本当に助かった。
これ以上は無理、『魔』だけじゃ足りなかったよ。
……ううん、足りてたかもしれない。
でも、私がしたい事をしようとすると、これだけじゃ足りないんだ。
全部、私が使えるものは全部使わさせてもらうからね。
★
その変化にいち早く気付いたのは、聖女カナディであった。
大地を転送させるはずの魔法なのに、違う何かを感じる。
それは自分が何度も使っている種類に近い魔法であり、その目的はたった一つだ。
「アルク! アズちゃん、蘇生魔法使ってる!」
白く輝き突風吹きすさぶ世界で、カナディはアズの近くにいるであろうアルクへと叫ぶ。
魂を揺れ動かす魔力の波動、これは間違いなく蘇生系の魔法だ。
カナディはステータス確認の魔法を使用した際に、アズが魔力反魂を使用できることを把握していた。
死者蘇生ではなく、魂を元の肉体に収める魔法。
蘇生に近いが肉体は既に滅んでいるが故に、まともな状態での蘇生は難しい。
失敗した時、その者は魔物として復活してしまうが故、禁呪ともされる魔法の一つだ。
「蘇生魔法⁉ アズが!?」
「うん! 間違いないよ! あの子なにを復活させようとしているの!? というか、そんなこと出来る余裕なんかないでしょ⁉ 魔力転送も始まってるのに!」
魔力反魂も、魔力転送も、莫大な量の魔力を消費してしまう。
いくら『魔』がどれだけあっても足りないはずなのに。
「……そうか、扉が開いたからだ」
そっとつぶやきを漏らしたのは、大魔導士ドドだった。
「異世界ロードメリアの扉が開いたから、向こうの世界の魔力をも使ってアズは何かをしようとしているんだ! ロードメリアは空気中の魔素がこの世界とは比べ物にならない、やろうと思えば何でも出来てしまうぞ! アルク、アズを止めろ! その女は、やはり魔王だったんだ!」
焦るドドだったが、既に自分の魔法が通用しないレベルにまで、アズの魔力が高まっているのを感じていた。
いや、たとえ使えたとしても、アズの目の前にはアルクがいる。
ドドが大魔法を使用してしまうと、アルクをも巻き添えにしてしまう。
「どうするのよ! アルク! 聞こえているの!?」
「アルク! 躊躇するな! 以前と同じように、魔王アズモンデオを消滅させるのだ!」
仲間二人が叫ぶ中、アルクは剣を握り締め、目の前の少女を見つめていた。
苦痛に表情が歪み、歯を食いしばりながら両の手を絡め続ける。
最初は間違いなく転送魔法だった、しかし今は手の形が違う。
細かいことはアルクには分からない、だが、分からないからこそ、アズが人族にとって何か、害のある行動をしている様には見えなかった。
「アズは、誰を蘇生させようとしているの……?」
聞こえる状態かも分からぬままに、アルクは質問する。
すると、アズは口端から血を流しながら、翡翠色をした瞳を輝かせこう答えたのだ。
「私の為に死んでくれた仲間を……全員、蘇生させたい」




