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人間不信のマオウ様、世界を救う  作者: 書峰颯
With love and happiness
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 両手を合わせて、まずは体内の魔力を枯らすための魔法を唱える。


 最初から枯らせておけばいいんじゃないの? ってカナディに言われたけど、最初から空っぽなのと満タンにしてから枯らすのだと、体内で『魔』を受け入れた時の抵抗力が違う。


 本当に何もない状態だと、全部持ってかれちゃう恐れもあるからね。

 魔力と『魔』の中和という意味でも、必要なことなんだ。


 という訳で。


魔力束縛(ビハインド・マジック)


 対象はもちろん目の前にいる三人、勇者アルク達だ。

 全身が紫色の光に包まれたアルク達は、そのポーズのまま硬直する。


「お、ちょっと、想像以上の束縛なんだが」

「そういえば私達って、不意打ちで勝ったんだもんね」

「これが魔王アズモンデオの本気って訳か? いや、本気ではないな」


 うん、全然本気じゃない。

 当時の私からしたら、半分の魔力も消費してないよ。

 でも、ため込んだ魔力の質は、かなり練り込まれているけどね。


「ドド」

「分かっている、イレイズ!」


 パンッという風船が割れた様な音を立てて、三人を包んでいた光が粒子となってはじけ飛ぶ。

 あっさり解除されちゃった、魔法解除はドドの十八番(おはこ)なのかな、凄いや。


「アルク、貴方の剣に聖なる力を送り込むからね! 極光剣(シャインブレイブ)ッ!」


 聖女カナディの杖から真っ白い光が凝縮され、アルクへと向けて放たれる。

 これだけ見たら間違いなく聖なる魔法なんだけど。

 カナディの杖って根っこが誰かさんの血で染まってるのよね。

 聖女としての資質って、どうなの? って、一人笑いそうになる。


「笑うとは余裕だな! さすがは魔王アズモンデオということか!」

「別に、余裕なんてないですよ」

「まぁ、それぐらいではないと張り合いがないというもの。いくぞアルク! 四神万象! 地水火風全ての属性を、その剣に送り込むぞッ!」

 

 虹色の輝きがアルクの剣を包みこみ、巨大化させる。

 極大魔法ではなくて、そういえばあの時もこの魔法だったよね。


 四属性の精霊が完璧に懐いてる、こんな人族とガダ君は戦ってたんだ。

 凄いなガダ君……ちょっとだけ惚れちゃうかも。


「……整ったぞ、アズ」

「うん、分かってる。私の方も準備出来てるよ」


 最後に、勇者としてアルクが剣に力を込める。

 魔力にも神聖にも属さない、人の力。 

 それは深い闇のようでもあり、温かな(ともしび)でもあり。


 三人の力がまとまった剣は、その形を保持しているのが驚かれるまでに、力を秘めているね。

 前はあんなのをぶつけられたんだ、一瞬で消滅しちゃうのも納得かな。


「絶対に、死ぬなよ」


 ――――ズンッ

 剣の光がアルクの全身を包み込んで、音を忘れさせるほどの速度で私の身体を刃で貫く。

 そしてあの時と同じ衝撃が、私の身体を襲うんだ。


――きゃああああああぁ!

――アズ様が刺されたぞ! 

――大丈夫なの!? アズちゃあああああああん!


 悲鳴があちこちから聞こえてくる。

 確かにこんなの、命を尊むこの世界からしたら、あり得ない光景だよね。

 でも、ロードメリアの世界じゃ、こんなの日常だよ? 

 山賊でも野盗でも海賊でも、人が人を殺すなんて珍しいことじゃないんだから。


 ……でも、なにか、違う。

 衝撃が足りない、アルクめ、手加減してるな。


「ちょっと、痛いよ」

「なに?」


 両手に力を込めて、『魔力束縛(ビハインド・マジック)』からの『魔力捻転(ツイスト・ストレング)』を発動させる。

 アルクの首が破裂音と共に、あらぬ方向へと一瞬で曲がった。


「な! アズあんたアルクに何してんの! リザレクション!」


 カナディが魔法を唱えると、折れ曲がった首が一瞬で元に戻る。

 さすがは神聖魔法の使い手……というか、アルク蘇生屋さん。

 

「だって、アルク全然本気じゃないから」

「……クソ、しょうがないだろ、情が沸いた人間はこんなもんなんだよ」


 まだアルクの剣が私に突き刺さったままだ、けど、全然平気。

 突き刺さった様に見えてるだけだから……凄いよ『魔』って。

 私の肉体を守るべく、時空を歪めて剣を貫通させてるんだもん。


「私に惚れちゃったから? 愛した人は殺せないの?」

「アズ! あんたアルクに何言ってるの!」

「ちょっとカナディは黙ってて」

 

 手をかざしただけで、カナディの口には✕点が描かれたマスクが装着される。

 あは、可愛い、私版の沈黙魔法ってとこかな。


「アルク、どうなの?」

「別に、惚れた訳じゃない。男が女を守る、それが俺の信条だからだ」

「前も姿の時も、私は女だったけど?」

「……それは、すまない事をした」

「うふふっ、冗談よ、からかっただけ。でもねアルク、今は男だから女だからとか、そんな事を言ってる場合じゃないの。貴方が全力を出さなかった場合、何もかもが終わる。この計画はね、勇者アルクが全てなんだよ。だからアルク、勇者として、この世界を救うべく、全力をだして」


 まだ、ためらっているのかな。

 だったらキスでも何でもして、発破かけちゃおうかなって思ったけど。


「世界を救うか……そんな大義名分、俺には荷が重いよ」

「言葉とは裏腹に、眼に力が宿ったじゃない」

「そうか? 俺はな、いつだって自分の為にだけ頑張るんだ。ロードメリアでも、この世界でも、俺はいつだって俺の為に頑張ってきたんだよ。だから、今回もそうしようと思っていた……でも、それじゃダメみたいだ」


 すご、どんどん力が増してきてる。

 ちょっとずつ『魔』が押し返されて、あは、ちょい、痛い。


「アズ、今回の僕はやっぱり、アズの為に全力を出すよ」

「私のため?」

「ああ、アズの願いを叶える為に。魔族が人権を得るために、僕は勇者として全力を出させてもらうッ! ――――覚悟してねッ、アズッッ!!!!」


 凄まじい衝撃と共に、光が私達を包み始めた。

 やっぱり凄い、勇者アルクは、やっぱり勇者なんだよ。


 自分のためじゃなくて、誰かの為に戦う。 

 いつだって君はそうなんだ、強がっているけど、私には分かるから。

 

 ……さぁ、ここからは、私の番だ。

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