⑳
両手を合わせて、まずは体内の魔力を枯らすための魔法を唱える。
最初から枯らせておけばいいんじゃないの? ってカナディに言われたけど、最初から空っぽなのと満タンにしてから枯らすのだと、体内で『魔』を受け入れた時の抵抗力が違う。
本当に何もない状態だと、全部持ってかれちゃう恐れもあるからね。
魔力と『魔』の中和という意味でも、必要なことなんだ。
という訳で。
『魔力束縛』
対象はもちろん目の前にいる三人、勇者アルク達だ。
全身が紫色の光に包まれたアルク達は、そのポーズのまま硬直する。
「お、ちょっと、想像以上の束縛なんだが」
「そういえば私達って、不意打ちで勝ったんだもんね」
「これが魔王アズモンデオの本気って訳か? いや、本気ではないな」
うん、全然本気じゃない。
当時の私からしたら、半分の魔力も消費してないよ。
でも、ため込んだ魔力の質は、かなり練り込まれているけどね。
「ドド」
「分かっている、イレイズ!」
パンッという風船が割れた様な音を立てて、三人を包んでいた光が粒子となってはじけ飛ぶ。
あっさり解除されちゃった、魔法解除はドドの十八番なのかな、凄いや。
「アルク、貴方の剣に聖なる力を送り込むからね! 極光剣ッ!」
聖女カナディの杖から真っ白い光が凝縮され、アルクへと向けて放たれる。
これだけ見たら間違いなく聖なる魔法なんだけど。
カナディの杖って根っこが誰かさんの血で染まってるのよね。
聖女としての資質って、どうなの? って、一人笑いそうになる。
「笑うとは余裕だな! さすがは魔王アズモンデオということか!」
「別に、余裕なんてないですよ」
「まぁ、それぐらいではないと張り合いがないというもの。いくぞアルク! 四神万象! 地水火風全ての属性を、その剣に送り込むぞッ!」
虹色の輝きがアルクの剣を包みこみ、巨大化させる。
極大魔法ではなくて、そういえばあの時もこの魔法だったよね。
四属性の精霊が完璧に懐いてる、こんな人族とガダ君は戦ってたんだ。
凄いなガダ君……ちょっとだけ惚れちゃうかも。
「……整ったぞ、アズ」
「うん、分かってる。私の方も準備出来てるよ」
最後に、勇者としてアルクが剣に力を込める。
魔力にも神聖にも属さない、人の力。
それは深い闇のようでもあり、温かな灯でもあり。
三人の力がまとまった剣は、その形を保持しているのが驚かれるまでに、力を秘めているね。
前はあんなのをぶつけられたんだ、一瞬で消滅しちゃうのも納得かな。
「絶対に、死ぬなよ」
――――ズンッ
剣の光がアルクの全身を包み込んで、音を忘れさせるほどの速度で私の身体を刃で貫く。
そしてあの時と同じ衝撃が、私の身体を襲うんだ。
――きゃああああああぁ!
――アズ様が刺されたぞ!
――大丈夫なの!? アズちゃあああああああん!
悲鳴があちこちから聞こえてくる。
確かにこんなの、命を尊むこの世界からしたら、あり得ない光景だよね。
でも、ロードメリアの世界じゃ、こんなの日常だよ?
山賊でも野盗でも海賊でも、人が人を殺すなんて珍しいことじゃないんだから。
……でも、なにか、違う。
衝撃が足りない、アルクめ、手加減してるな。
「ちょっと、痛いよ」
「なに?」
両手に力を込めて、『魔力束縛』からの『魔力捻転』を発動させる。
アルクの首が破裂音と共に、あらぬ方向へと一瞬で曲がった。
「な! アズあんたアルクに何してんの! リザレクション!」
カナディが魔法を唱えると、折れ曲がった首が一瞬で元に戻る。
さすがは神聖魔法の使い手……というか、アルク蘇生屋さん。
「だって、アルク全然本気じゃないから」
「……クソ、しょうがないだろ、情が沸いた人間はこんなもんなんだよ」
まだアルクの剣が私に突き刺さったままだ、けど、全然平気。
突き刺さった様に見えてるだけだから……凄いよ『魔』って。
私の肉体を守るべく、時空を歪めて剣を貫通させてるんだもん。
「私に惚れちゃったから? 愛した人は殺せないの?」
「アズ! あんたアルクに何言ってるの!」
「ちょっとカナディは黙ってて」
手をかざしただけで、カナディの口には✕点が描かれたマスクが装着される。
あは、可愛い、私版の沈黙魔法ってとこかな。
「アルク、どうなの?」
「別に、惚れた訳じゃない。男が女を守る、それが俺の信条だからだ」
「前も姿の時も、私は女だったけど?」
「……それは、すまない事をした」
「うふふっ、冗談よ、からかっただけ。でもねアルク、今は男だから女だからとか、そんな事を言ってる場合じゃないの。貴方が全力を出さなかった場合、何もかもが終わる。この計画はね、勇者アルクが全てなんだよ。だからアルク、勇者として、この世界を救うべく、全力をだして」
まだ、ためらっているのかな。
だったらキスでも何でもして、発破かけちゃおうかなって思ったけど。
「世界を救うか……そんな大義名分、俺には荷が重いよ」
「言葉とは裏腹に、眼に力が宿ったじゃない」
「そうか? 俺はな、いつだって自分の為にだけ頑張るんだ。ロードメリアでも、この世界でも、俺はいつだって俺の為に頑張ってきたんだよ。だから、今回もそうしようと思っていた……でも、それじゃダメみたいだ」
すご、どんどん力が増してきてる。
ちょっとずつ『魔』が押し返されて、あは、ちょい、痛い。
「アズ、今回の僕はやっぱり、アズの為に全力を出すよ」
「私のため?」
「ああ、アズの願いを叶える為に。魔族が人権を得るために、僕は勇者として全力を出させてもらうッ! ――――覚悟してねッ、アズッッ!!!!」
凄まじい衝撃と共に、光が私達を包み始めた。
やっぱり凄い、勇者アルクは、やっぱり勇者なんだよ。
自分のためじゃなくて、誰かの為に戦う。
いつだって君はそうなんだ、強がっているけど、私には分かるから。
……さぁ、ここからは、私の番だ。




