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人間不信のマオウ様、世界を救う  作者: 書峰颯
With love and happiness
47/53

「な、ななな、なんなの、これ」


 特設会場で開催とは聞かされていたし、観客席を設けるとは聞いていたけど。 

 一体、何人の人族が私を見に来たの? 近くで歌ってる人族みたいなこと、私しないよ?


 服装が可愛いとか言われてるけど、『魔』を吸収しやすい服装をチョイスしただけだし。

 別に観客席を喜ばせるために見せびらかしている訳じゃない、確かに露出は多いと思うけど。


 プツッという音と共に、耳に装着したインカムという機械から、アルク大臣の声が聞こえてくる。


『聞こえるか、アズ』

「あ、アルク大臣、はい、聞こえます」

『開始前に何かトークを挟んでくれと、上からの指示だ』

「え、トーク? お喋りですか? そ、そそ、そんなの、聞いてないですけど」

『今伝えた。政務官の一人がマイクを持っていくから、受け取り次第頼む』


 えー……私の喋りが絶望的なの、貴方達知ってるでしょうに。

 お願いします! って言われてマイク受け取ったけど。

 え、え、え、え、ほ、本当にこれで喋るの? 本当に?


「…………」


 え、やだ、どうしよう、さっきまで賑やかだったのに、急に静まり返っちゃった。

 いいよ賑やかなままで、ボソっと一言だけ呟いて終わろうとしたのにぃ!


『なんでもいい、適当に挨拶するんだ』

 

 な、なんでもって言われても。

 両手でマイク握り締めて、内股になりながらとりあえず口元へとマイクを運ぶ。

 挨拶があるならあるで言っておいて欲しいよ、急じゃ何も思い浮かばないよ。


「…………え、えっと」


――うわああああああああぁ! 可愛い声ー!!!

――初めて聞いたー!!! 超かわボイスー!!! 

――アズ様、何か歌ってー!!!!!


「あ、あは、ああ、あの、歌とかは、そっちの方にいる人族に、ね」


――やだあああああああ!

――アズ様の歌がいいのおー!!!!

――やっぱりくぁわいいいいいいいいいいいいい!


「あの、えーっとその。んと、と、とりあえず、自己紹介しますね」


――はあああああああい!!!!!

――静かにしてまああああああああぁ!

――アズさん! こっち向いてー!


「あはは、あ、うん、向いたから、ちょと静かにね」


――ありがとー!

――アズちゃんこっちもー!


「あは、こちらこそ。えっと、こ、これから行う事は、もう、この場所にいる皆は、し、知っていることだとおも、思っます。あのあのえっと……えっと、ご、ごめん、なさい。…………私、過去に、こっここ、殺された事もあって、人前で、上手く、喋れなくて、その」


――…………。

――…………。

――…………。


『アズ、もういいぞ、大丈夫だ』

「あ、いえ、ちゃんと、喋ります」


――頑張ってー!

――アズちゃん、ムリしなくていいよー!

――目をつぶると喋りやすいかもよー!


「あは、あはは、うん、ありがと。私、ムリしない程度に、頑張るね。えっと……私が、こ、これから行う極大魔法は、魔力転送という、魔法になります。物質を遠くに一瞬で飛ばす魔法と思ってくれたら、分かりやすいと思います。私が今日その魔法で飛ばすもの、それは……」


 ごくりと、唾を一つ飲んだ。

 皆の注目が私に集まっているのが、痛いほどに分かる。

 泣きそう、怖いし、逃げたい。

 でも、もう、逃げる場所もないから。


「それは、この世界に転送されてしまった、異世界ロードメリアの大地、全てです」



 数週間前。


「ロードメリアの大地全てを転送させる!?」

「は、はっ、はい」


 私の意見を聞いて驚いたのは、勇者アルクと、聖女カナディ、大魔導士ドドの三人。

 その中でも真っ先に反論したのは、瞬間移動の使い手でもある聖女カナディだった。

 

「そんなの無理に決まってるでしょ? 一体どれだけの大地がこの地球上に転送されてしまったのか、アズちゃんは知っているの? それに物質転送の魔力だってこの地球上じゃ確保しきれないわよ? 白状するけど、私の瞬間移動は予めマーキングしたポイントにしか移動してないの。ポイントポイントに魔力を埋め込んでおいて、そこに移動してるだけ。それだと消費する魔力は少なくて済むからね。ううん、マーキング出来てたとしても、どうやって異世界ロードメリアへと転送するつもり? 私だって何回か瞬間移動出来ないか試したことあるけど、一回とて成功してないんだよ?」


 うへぇ、反論されるだろうなとは思ってたけど、予想以上だよ。

 

「わ、私としては、わ、わた、わたし」

「アズ、一回深呼吸」


 アルクに諭されて、大人しく従う。

 背筋を伸ばして、胸を張って息を吸って、ゆっくりと吐いて。


「……すーっはーっ……っうん。ダイジョブです。えっと、私としての見解は、聖女カナディのその結果については、瞬間移動の魔法はあくまで物質を、この世界間のみでの移動に限られる魔法だからだと、推測しています。異世界ロードメリアは、まさに異世界なのです。この世界とは似て非なるもの。他の星という概念ではなく、他の世界、パラレルワールドの一つなのだと考えています」


 宇宙って概念をリズから教えて貰ってから、そこら辺の超科学について興味が湧いて、パラレルワールドやマルチバースについても知ることが出来た。アルクに聞くと、この世界としては結構メジャーな言葉だから、特に説明は不要だろうって言ってたけど、本当かな?


「パラレルワールドか、だとしたら確かに移動は不可能だな。俺の知る魔法でも、パラレルワールド、つまり他にあったかもしれぬ可能性の世界への行き来なぞ、聞いたことも見たこともない」


 おお、通じた。

 ドドとカナディも知ってるとなると、この世界では常識に近いのかも。


 そしてドドの言う通り、私だって聞いた事がない。

 だからこそ、ここにいる全員が元の世界に帰れないままでいるんだ。


「ちょっと待った、アズ、パラレルワールドという事は、異世界ロードメリアはこの星のもう一つの可能性って事かい? 僕は事故の衝撃で、もう一つの地球に飛んでしまったのだと?」

「あくまで推測の域を出ません。ですが、今転送されていると言われている異世界ロードメリアの大地は、とてもすんなりとこの星、地球にはめ込まれていると思いませんか? 大気の変動や、自転公転に変化がある訳でもない。一年は三百六十五日のままですし、一日は二十四時間のままです。何も変わっていないんですよ、この地球という星からしたら」


 この世界のインターネットの技術は、とても素晴らしいものだ。

 変化があればすぐさま情報を察知でき、その原因を知ることが出来る。

 そしてこの地球に新たな大地が生まれたという情報も、すぐに知る事となるんだ。


 だけど、この星の変化は何も訪れていない。

 まるでそうであったかの様に受け入れられている。


「新しい大地が生まれた訳じゃなく、入れ替わっている……ということ?」

「カナディさんの言う通り、私はそういう事だと考えています。つまり、異世界ロードメリアはパラレルワールドとしてまだ存在しています。そして私の極大魔法は、このパラレルワールド間の転送、元の形に戻すことを最終目標としています」

「なるほど……でもどうやってそれを現実にするんだ? 先も申したが、俺の魔法でもカナディの魔法でも、それこそお前さんの魔法でも不可能なんじゃないか?」


 確かにドドの言う通りだ、普通じゃ不可能。

 そっと自分の胸に手を置いて、私は語る。


「でも、現実として、私たちはここにいるじゃないですか」

「まさか、あの時を再現して欲しいってこと? 私達四人の力全てを集めて?」


 さすがは聖女カナディだ、理解が早い。

 こくり頷き、彼女と視線を合わすと、今度はアルクが口を開いた。

 

「再現できるかどうかなんて、未知数もいいところだ。大体、あれをもう一度してしまったら、アズ、君の肉体がもう一度滅ぶという事なんだぞ? 今の君はこの世界の象徴とも呼べる。ファンクラブどころか群衆は指導者として、君の台頭を願っているぐらいなんだ。今の君を失うのは、この国としての損失は君の想定を遥かに上回るとも、念頭に入れておいて欲しい」

「……私だって、せっかく助かった命なんですから、死にたくはありませんよ」


 勇者アルクって、想像以上に優しい人族だったんだね。

 私の生き死になんて『魔』によってこの星が犯されている脅威に比べたら、ほんの微々たるもののはずなのに。

 

「そもそも、最終目標として掲げたのは、魔力転送の件についてのみです。私達のすべきことは『魔』の除去、私の肉体は『魔』によって守らさせます。痛いのは嫌ですし、怖いのも嫌なので」


 謙遜した訳でも何でもない、この三人が本気を出したら、私なんて一瞬で消し飛んでしまう。

 全力で私は私を守りますから、全力で私を殺さないで下さいね。

 という意味を含めて、アルクへと微笑みかける。


「……なるほどね、もしかしたら異世界ロードメリアの転送だけじゃ『魔』が無くならないかもしれない。そうなった場合、私達の攻撃で故意に『魔』を消費させて、残りカスまで完全に無くしてしまおうって話でもあるのか。ふぅん、さすがは魔王アズモンデオって所ね。じゃ、私は遠慮せず全力でぶっぱなさせてもらおうかしら。調整はアルクの方で宜しくね」

「ほほぅ、聖女カナディが本気とアレば、俺も全力で行かねばならぬな」


 私、痛いのは嫌だって伝えたんですけど?

 カナディに続いてドドも全力宣言してくれちゃって。

 でも、あの時の再現をしないと、そもそも異世界への扉は開かないだろうし。

 

「……分かってるよ、アズ。僕は勇者だ、僕が助ける人々の中に、既に君は含まれている。絶対に死なせない、約束だ」

 

 とりあえず、肝心要のアルクには無事伝わったみたい。

 一番の不安要素でもあるんだけど、大丈夫かな。



 時は戻り、十二月三十一日、午後十時十分。 


 私が登壇した時のように、特設会場に喝采が沸き上がる。

 私へと浴びせかけられていた声だけではなく、黄色い声もチラホラと。


「待たせたね、アズ」

「この装備とか、本当久しぶり」

「周囲への守護方陣は既に済みだ、安心してぶっ放していいからな、御三方」


 勇者として、聖なる鎧に身を包んだアルク大臣が、銀に輝く剣を構える。

 ビリビリ来るね、これが真の勇者としての、上尾アルクとしての本気なんだ。


「じゃ、始めていいよ」


 優しい言葉だ。

 人々を安心させる勇気ある者の言葉。

 

「ありがとうございます。では、早速始めたいと思います」


 その勇気を、私には分けないでいて下さいね。

 私がこれからする事は、貴方達から見たら裏切り行為ですから。

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