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人間不信のマオウ様、世界を救う  作者: 書峰颯
With love and happiness
44/53

★T都、首相官邸★


「異世界からの魔物を食い止める方法が確立した? それは真か、異世界法務省特命担当大臣」


 赤絨毯の上に立つ男へと、アルクは膝を付き頭を垂れ続ける。

 語る相手はこの国のトップ、國起総理大臣、その人だ。

 

「はい、ただ、これにはとある人物の協力が必要不可欠となります」

「もったいぶらずにとっとと教えるんだ。この情報が何を意味するか、無知蒙昧(むちもうまい)な貴様でも理解しているのだろう?」


 アルクは多分、言葉の意味を理解している。

 無知蒙昧、何も知らないさま、無学で愚かなさまを現す言葉だ。

 だからこそ眉根をひそめ、拳を強く握る。


 世界各国で発生している魔族、魔物の脅威は、日に日に被害を増してきている。 

 それを抑える、ましてや管理する手段を得たとなると、世界情勢は大いに変化する事であろう。

 大日本帝国の復活、それだって難しくはない。

 だが、アルクが望むのはそんな、戦馬鹿(いくさばか)な世の中ではないのだ。

 学のない、日々を生きるだけで精一杯な自分が、普通に生きていられる社会に戻すこと。

 

 自身をわきまえているからこその決断。

 一度は勇者として持て囃された男が抱くものは、もはやファンタジーではないのだ。


「ただ一つ、懸念すべき点がございます」

「その協力者についてか? そんなもの、貴様に与えた権限でどうにでもなるだろう。特命担当大臣には恩赦を与える権限がある、例え犯罪者でも抱え込んでしまえばいい。事は迅速を求めているのだよ……そんな事も分からないのか、まったく、これだからZ世代は」


 内閣総理大臣の言葉は、何よりも重く受け止めるべきだ。

 だからこそ、発言には必要以上に、誰よりも思慮深い言葉が求められる。

 例え犯罪者でも抱え込んでしまえばいい、言質を取ったアルクは、ニヒルに微笑む。


「かしこまりました、では早速、魔王アズモンデオの協力を仰ぎたいと思います」

「うむ、早急に……なに、今、貴様、いまなんと」

「一度発言したことを取り消すのは容易ではございませんよ? 無論、この会話は全て録音させて頂いておりますゆえ、ご理解のほど、宜しくお願い致します」


 力を借りるにしても、それは相手にもよる。

 しかし、暴対法で定められた悪ではなく、ファンタジーに生きる魔王という存在が、果たして悪と断言できるのか?


 答えは否だ、刑法に定められていない事柄は、どのような事象であっても悪ではない。

 犯罪とは『構成要件に該当する違法で有責な行為』と定められている。

 例え魔王という存在が構成要件に該当する有責な行為であったとしても、法律で定められていない以上、罪に問う事は出来ない。


 ましてや、魔王アズモンデオがこの世界に来てからしてきたことは、全てが善行。

 褒め称えられこそすれど、叱責される筋合いはないとも言えよう。


 ともあれ、現総理の言質は取った。

 後は行動あるのみ。

 一秒でも早く大臣職を辞したいアルクの足取りは、誰が見ても軽やかであった。



 アルクの部屋には大きな窓がある。

 そこから見上げる空は、まさにこの世界の中心とも言える場所の空なのだろう。

 だって、楓子様と一緒に行った都会よりも、もっとドス黒い『魔』が渦巻いているから。

 

 この世界の人族の建築技術は、私達の世界のそれとは比べ物にならない程に優れている。

 超高層ビル群と呼ばれる天にも届くほどの建物を作り、そこで何万という人達が働いている。


 でも、それだけの人族が集まれば、発生する恨みや怒り、絶望の量が増していくんだ。

 加速度的に増していく『魔』、そこから直に魔物が生まれている訳ではないみたいだけど。

 都会の下、地下深くでは、一体どれだけの魔物が顕現しているのかな。


 天を貫かんとする人々への裁き、そんな風にも見えてしまうよ。


「閣議決定されたぞ、待たせたな、アズ」


 分厚い封書を手にした勇者アルクが、室内にいる私へと声を掛ける。

 アルクの上の人たちが、私の存在を認めたということかな。

 だとすると、私があの『魔』と対峙する日は、そう遠くない。


 隷属の首輪を使用すると宣言していた聖女カナディから隠れるために、ここ最近の私は勇者アルクの部屋に匿って貰っていた。

 あの首輪をされたが最後、自我が亡失し、例え解除したとしても元には戻らないのだとか。


 そんな恐ろしいアイテムを何の躊躇も無しに使うと宣言した、聖女カナディ・リリィ。

 他の種族から見た魔族って、そんなにも怖い存在なのかなと、私は疑問に思う。


 私に協力すると宣言してくれたアルクは、カナディが必要以上に魔物を殺さないよう説得してくれていたり、大魔導士ドドにだけは私の存在を説明し、私の味方を増やす方向で精一杯の努力を見せてくれている。


 私の正体が魔王アズモンデオだって説明した時のドドは「そうか」の一言だけだった。

 アルクが言うには、ドドは強者以外には興味がないのだとか。

 最近はガダ君との再戦を心待ちにし、物理特化の魔法の訓練に励んでいるらしい。


 この前、湯舟に潜んでたよって伝えたら、ドドはどんな顔をするのかな?

 でも、言わないでおこう。

 ガダ君だけが知る秘密の脱出ルートは、もしかしたら今後必要になるのかもしれないし。



 閣議決定から更に二週間が経過した。

 色々と動くのが随分と遅いんだなと愚痴ったけど、アルクが言うにはこれでも早い方らしい。

 

 私はアルクに連れられて、この国のトップと内々に面談する事になった。

 私の存在を公表するか否かを見極める為の面談だと、説明を受けたけど。

 國起総理大臣の目を見る限りでは、単純に使える奴かそうでないか、それを見てるだけの様な気がする。


 というか、この人族の目、めっちゃ怖い。

 人族に殺されたからとか、そういうのとはまた恐怖の次元が違う。

 全てを射抜き、そして不必要と判断した場合、容赦なく切り捨てる。

 命がどうとか、そんなものは二の次で自分の決断を推し進める感じだ。  

 ちゃんと喋れるかな……最近はアルクの側にいて、人族にも慣れてきたと思うんだけど。


「おい、アルク特命大臣」

「はい」

「貴様は本当に、この娘が魔王アズモンデオだというのか? 貴様は異世界で、この小さな女と生死を掛けた熾烈な争いをしたのだと言い張るつもりか? 見る限りでは、そこいらにいる女子高生と何ら変わりがないのだが?」


 そうでしょうね、それが普通の見解だと思う。

 実際、勇者アルクだって見抜けなかったんだから、今の私は相当に人族だ。


「彼女が魔王アズモンデオだと認めさせる方法は、今のところ無いと言っていいでしょう。しかし、Y県山中に拠点を構えていた彼女の城には、実際に魔物が数種類その身を潜めておりました。逃げられはしましたが、種族の違う魔物全てが彼女の名を叫び、大魔導士ドドに命を懸けて戦いを挑んできたのです。実際に戦った大魔導士ドドは、彼女が魔王アズモンデオなのだと認めております」

「お前は? 勇者アルクとしての意見を、私は聞いているのだよ」

「無論、僕も彼女が魔王アズモンデオだと認めております。彼女は異世界ロードメリアの世界で、僕が最後に言い放った言葉を覚えていました。あれを覚えているのは、実際に僕の剣を喰らった魔王アズモンデオ以外にいません」


 発言の責任がアルクにあると、明確にしたかったのかな。

 魔力反魂でも見せつければ、一発で認めるだろうけど。

 今は、そういった無駄な魔力を使いたくない。


「なるほど、では、魔王アズモンデオとやら」

「……は、ははっ、はい」


 うぅ、やっぱりちゃんと喋れない。

 どうしても口が震えちゃうよ。


「貴様はどのようにして、『魔』を駆除するおつもりなのかな? 勇者アルクからの答弁書には、魔王アズモンデオの魔力にて行うとあったが、具体的なものは何も記されてはいなかった。昨今発生している魔物による被害を食い止める事が出来るのならばと、全員一致で閣議決定したものの、その詳細は未だ不明瞭だ。既にマスコミにも騒がれている。この現状になってもまだ、私にすら説明は出来ないものなのかな?」


 この世界には魔法が存在しない、勇者アルクから聞いて心の底から驚いた言葉だ。

 だとしたら、どれだけ説明しても絵空事にしか響かないではないのか?

 だからこそ、アルクの答弁書でもまかり通ってしまったし、彼もそこの詳細は伏せたのだ。

 

 分からないものを良く理解しないままに使用する。

 それがこの世界の人族の習性なのだろう。


 だから、説明するにしても、なんとなく理解できる程度に説明すればいい。

 貴方達にとって、私は便利ですよと謳えばいいのだから。


「あ、あああ、あ、ああ、あ、あの、あのぉ、わた、わた、たったた」


 ちゃんと喋れるかどうかは、また別の問題だけどね!

 ああ、蔑んだ目で私を見ないで! もっと喋れなくなっちゃうから!

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