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「君が僕の下に就き魔族担当になるっていうけど、それが何を意味しているか、きちんと理解した上での発言なんだよね? これまで君を崇拝し、命を落としていった魔族、そのすべてを裏切ると言っているのと同じなんだよ? そんな君に魔族は果たして本当に着いてくるのか? 僕としては甚だ疑問を感じるところだ。それこそ、簡単には頷く事が出来ない」
勇者アルクの言っていることは正しい、もちろん理解している。
私の台頭により、魔族復権を望む者も少なからずいる事だろう。
「だからこそ、そういった魔族たちを抱え込み、管理する必要があるのだと――」
「管理とは具体的に? そもそも君の提案には何の根拠もない。魔王であった肩書は認めよう、だが今の君はどこからどう見ても人間の女の子だ。魔王であった時のカリスマ性は無いと言ってもいいぐらいに、可愛らしい一人の女の子なんだよ。今の君を見てオーガ族だと思えなかった僕が言うんだ、こっちの方が説得力がある」
「……つまり、カリスマ性を認めさせればいいんですよね?」
今の私が「魔王アズモンデオです、きゃは♪」なんて言った所で、ついてくるのは人族の可愛いのが好きな雄だけだ。本来管理すべきはずの魔物たち、彼らには何の影響を与えないままに、自由に暴れさせてしまうことだろう。
だから、私はやっぱり一度死なないといけない。
魔王が魔王であるところを、見せつけないといけないんだ。
「見せつけてやりますよ、私が魔王であることを」
「……どうやって?」
なんか、もにゅもにゅ動くアルクの手が邪魔になってきたから、一旦外して。
「都会の空に浮かぶ『魔』を、ご存じですか?」
楓子様を初めとした、他の人族には見えなかったという空に浮かぶ『魔』、もしかしたら勇者たちにも見えていないかも……と、思って質問したけど。
「無論、知っている。正式名称は設けていないが、アレの対策も僕の仕事だ。いや、アレこそが、僕が異世界法務省特命担当大臣である理由だと言ってもいい」
やっぱり、見えてたんだ。
「世界各国に出現している魔族、あれらはあの黒い雲の様なもの……アズの言葉を借りれば『魔』から出現していると考えられている。人々の中にはあの『魔』が見えて不安だと言い出すのもいてね、いずれなんとかしないといけないと議論を重ねてはいるのだが。アズは、アレをどうにかする事が可能ということなのか?」
「そこに関しては間違いなく。鳥獣研究所での、ドラグル族復活の件をご存じでしょうか?」
「T県の事件ならば、把握はしている」
さすがは異世界法務省、この国の魔物に関する情報は逐一網羅してる感じね。
「鳥獣研究所での一件、あれはあの『魔』を私が活用し、発動させた魔法になります」
「なに? あの『魔』を活用だと? ドドやカナディでさえ、除去も活用も出来ないのに?」
「確かに、あれは人族には使用不可かもしれません。あの『魔』の正体、それは人族の怨念や恨み、怒りと言った負の感情の集合体です」
基本的に、怒りとは悲しみを隠すために存在する感情だ。
そして悲しみの基本原理は、他人に自分が受け入れられなかった時に発生する。
受け入れられなかった悲しみの感情が、人族にどうこう出来るはずがない。
だって、あの感情は全てを否定した、拒否の集合体なんだから。
「それが、なぜアズには使えるんだ」
「仮定を出ませんが、ほぼこうだろうなという答えは持ち合わせています」
「教えてくれ、アレをどうにか出来るのならば、僕も大臣を降りる事が出来るんだ」
大臣を降りる事が出来る? どうして?
カナディもアルクが大臣である事を喜んでいたのに。
それまでのどこか威圧的な雰囲気から一転、項垂れたアルクはどこか弱弱しく見える。
「元々の僕はフリーター……まともな職業にも就かずに、バイトしかしたことのないニートだったんだよ。それが事故で異世界転生し、そしてこの世界に戻ってきた。ただそれだけなのに、世界融合の責任を取れと言われ、やりたくもない大臣職に就かされてしまった。ストレスなんだよ、頭の良い奴等の中に入れば入るほど、自分が愚かだって認めなくちゃならない。君には理解できるか? 会議だなんだで語っている内容のほとんどが理解できないままに、話だけが進んでいくんだ。必死に喰らいつこうとしてるけど、僕は元々そんな殊勝な人間じゃないんだよ。終わらせることが出来るのなら、終わらせたい。僕からもお願いだ。アズ、『魔』の使い方を、僕にも教えてくれないか」
これは、予想外だった。
なんだ、結局私達って、似た者同士だったって事なのかな。
魔王になりたくてなった訳じゃない魔王と。
勇者になりたくてなった訳じゃない勇者。
アルクの場合、さらに大臣までやらされて、なんか大変そうだけど。
「もちろん、私の望みを叶えてくれるのなら、喜んで協力いたします」
「善処する、だから――――え、ちょっと待て」
突然何かに反応するアルクを見て、私も耳を澄ます。
き、聞こえる、アズ、アズって、私の名を呼ぶ、カナディの声が!
「ど、どどど、どうしよう、服も着てないし、バレたら私達殺されます」
「いいか、何もするなよ? 僕も何もしない、絶対に何もしないと約束する」
元々距離が近かった私達だ、隠れる場所なんてここしかない。
アルクが一人で寝ているベッド、そこに裸のまま潜りこむ。
うわ、モコモコしてて身体がすっごい沈む。
肌触りもいいし、この布団めちゃくちゃ高価なんじゃないの?
アルクのぬくもりが直接肌に伝わってきて、それだけが嫌だけど。
「ねぇアルク、アズちゃん見なかった?」
直後、当たり前のように扉が開け放たれ、聖女カナディの声が室内に響き渡る。
口を閉じて、息もゆっくり、吐息すら聞こえない様に……。
「ん? ……なんだ、カナディか。ふぁ~あ、っん、と。アズ? この部屋に来る訳ないだろ?」
わざとらしい欠伸をして、むしろそれって逆に怪しいから。
ドキドキする、私の心臓の音が聞こえませんように。
もう一度、私は石、私は石なんです。
「そう? おっかしぃなぁ、いつの間にか居なくなっちゃったんだよね。でも、この館から出た形跡はないし。とにかく、アズちゃん見つけたら私に教えてね。もう逃げられないように首輪つけちゃうからさ」
私、石だけど首輪付けられるんだ。
それって嫌かも、首とか痒くなりそう。
うっ、随分昔の洞窟での痒みを思い出してきちゃった。
な、なんか、背中がむずむずして、痒くなってきたような。
「首輪って、しかもそれ、永続魔法が掛けられた隷属の首輪じゃないか。それを首にはめたアルグラン国の王女様がどうなってたか、カナディも知ってるだろうに」
「完全に雌犬になってたわよね。でも、それでいいじゃない。所詮は魔物なんだから、またこんな風に逃げられたら面倒でしょ? 隷属でもなんでもして、私好みの可愛いペットにしてあげるんだからさ。ねぇアルク」
ベッドに近づいてくる足音が聞こえて来る。
部屋の明かりは消えてたから、見えてない、見えてないはず。
グッ……と布団が沈む、多分、カナディが膝を乗せたんだ。
近づいてきたカナディに合わせて、アルクが布団の中で膝を立てて足を組んだ。
私の膨らみを隠すためなんだと思う、生まれた空間、そこにいろって意味なんだろうけど。
……目の前が、アルクの股間なのよね。
直前まで触らせてたからかな、なんか凄い大きいし、臭い。
「まさか、貴方アズちゃんのことを好きになったとか、そういうのじゃないわよね?」
「なんで僕がアズを、それだけは断じて違っ」
ゴッて音が聞こえてきた。
え、なに、何が起きてるの。
「アルク」
「はい」
「正直に答えて」
「はい」
「なんでアズちゃんのことを、アズって呼んでるの? 貴方が好きなのは私なんでしょ? 私以外の女なんて雌犬も同然、そこらに生えた雑草と同じ価値しかない、そうでしょ? 大体先に告白してきたのはアルクよね? 何でアルクの口から他の女の名前が出てくるの? おかしくない? アズちゃんが隷属になろうが雌犬になろうが関係ない、そうよね? ほら、そうだって言いなさいよ、ほらほらほらほら」
ゴリュゴリュ音が聞こえてくる……な、なに? なにが起きてるの?
え、アルクの足がビクンビクン震えて、な、なにか大変な事になってない!?
ひぃぃ! 布団に何か液体が掛かってる! びちゃびちゃ音が聞こえてくるけど、これなに⁉
私は雑草! 私は雑草、あ、違う、私は雌犬! 雌犬! ひぃぃぃぃいい!
「……あ、いけない、またやりすぎちゃった。はいはい、リザレクション」
や、やりすぎちゃったって、なに⁉
あ、なんか光ってる、神聖魔法かな。
「……うっ、カナディか。この血、僕はまた殺されていたのか?」
「うん、貴方突然野盗に襲われてたのよ? 私が助けてあげたんだからね」
「そ、そうだったんだ。ありがとうカナディ、君は僕の命の恩人だよ」
「いつだって貴方の味方だから……愛してる、アルク」
私、雌犬ですけど、野盗なんていなかったと思います。
勇者アルクが土下座までした理由がこれか……怖、聖女カナディ怖。
「大変だろうけど、アズちゃんを見つけたら私に教えて頂戴ね。明日もお仕事なのに起こしちゃってごめんなさい。おやすみなさい、アルク」
キスの音が聞こえたあと、沈んでいた布団は元に戻り、部屋の扉を閉める音が聞こえてきた。
後で教えて貰ったけど、この館には魔力で何をしているのか分かってしまうドドの希望で、完全魔力感知遮断の魔法が掛かっているのだとか。
それが無かったら隠れてる意味もないし、カナディが探す理由もないもんね。
というか、魔力完全遮断が無かったら、多分私、聖女カナディに血祭にされてたと思う。
大魔導士ドドの事が好きになりました、本当にありがとう、ありがとう……!




