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自分の正体を晒すこと、それは相手の信用を得るために必要なことだ。
ただ、この場合隠していた程度が普通とは違う。
見つけ次第殺すと言っていた相手、それを晒したのだから、場合によってはこれで終わる。
「冗談はやめてくれ、アズが魔王の訳がないだろう? それとも、また俺を誘ってるのか?」
「嘘じゃありません、私は魔王アズモンデオの転生した姿なんです。あの時、勇者アルクが斬りかかってきた瞬間、私に掛けられていた転生呪術が発動しました。物凄い激痛で、死にたくないってひたすらに願った結果が、今の私です」
あの時の痛みは、今も鮮明に思い出すことが出来る。
何をしてでも死にたくなかった、生きていたい、痛いのが嫌だ。
それだけが頭を支配し、他が何も考えられなくなっていたあの瞬間。
「斬りかかる時に叫んでましたよね? 元の世界に帰るんだと。勇者アルクの願いは異世界からの解放、この世界に戻ることが望みだったはずです。私の死にたくないという願いと、勇者アルクの願い、二つが合わさった結果が、今の世界融合なのだと、私は考えます」
「……それで? アズが魔王アズモンデオだと正体を明かした理由は? はっきり言って愚策にしか過ぎないぞ? 今の今、僕が君を切り伏せても誰一人文句を言わない。むしろ魔王アズモンデオを討ち取ったのだと、盛大に評価される事だろう」
「私を討ち取ったとしても、この世界は何も変わりはしません。でも勇者アルク、貴方にだけは、私の正体を明かす必要がありました。だって、貴方は何度も口にしている。魔王アズモンデオだけは例外なく殺すと……私は死にたくありません、何としても生きていたいのです」
生きている以上、死にたくないと願うのは当然のことだ。
それを回避した千祢里は心の底から喜び、周囲の人たちもその奇跡に感謝する。
私だって回避したい、死にたくない。
だから、その為なら何だってする。
「……おい、なんで服を脱ぐ」
この男の前で裸になることだって厭わない。
カナディから借りた服を脱ぎ、下着も外して、全部綺麗に脇に置いた。
一糸まとわぬ姿になった私を見て、勇者アルクは一回だけ唾を飲む。
綺麗なんでしょ? 可愛いんでしょ? 抱きたいんでしょ?
ガダ君も言ってたし、何より貴方自身が言っていた言葉だから。
だから、自信をもって貴方の前で曝け出すことが出来る。
「アズ……」
「敵意の無さを証明するのに、これしか方法がないと思いました。私は、勇者アルクに対して攻撃する意図は一切ありません。ただ一つだけ、お願いを聞いて欲しくて、決死の思いでここに来たんです」
「さっきの約束の話か? 黙っててくれたらなんでも言うこと聞くと、確かに言ったからな」
無言のまま頷き、今もベッドにいる勇者アルクへと、裸のまま近づく。
上体を起こしたままの彼の手を取る、大きい手だ、かつて私を斬り殺した手。
それを、自分の左胸に押し当ててから、アルクへと視線を向けた。
「何がしたい? 君は胸を揉まれることが望みなのか?」
「ち、違います。私の願い、それは異世界法務省特命担当大臣である、貴方にしか出来ない事です」
この手は、この後の保証のため。
本当は触らせたくなんかない。
でも、こうしておかないと、もっと不安だから。
ガダ君に言われて、必死になって考えて、見つけ出した皆が生き延びる方法。
それは、千祢里とリズを見れば、一目瞭然の答えだったんだ。
「アルク大臣、私に、人権を下さい」
この世界に生まれた人族は、当たり前のように人権を享受することが出来る。
人権により命が守られ、人権により不当に介入する事を避け、人権により生きる事が出来る。
私達魔族には、この世界でも、ロードメリアの世界でも、人権が無いんだ。
意思疎通も出来て、生きる為の努力もしているのに、人権が無いから問答無用で殺される。
この世界は憲法と法律で成り立っていると、ドラリンから教わった。
間違っていると定められた事柄があるから、人族は人族を罰することが出来る。
異世界新法という法律が出来てしまったから、私達魔族は殺されてしまうんだ。
人族同士では、基本的に何もなければ殺すことが許されない。
殺すという、命を奪う行為は、簡単なものにしてはいけないんだ。
「……簡単に口にしてくれたが、君は何を言っているか理解しているのか?」
「細かくは理解していません、ですが、それが簡単ではないというのは理解しています」
「そもそも、君たち魔族は人として認識されていない。日本国籍を得るために帰化するとか、そういったレベルの話ではないんだ。今のこの国では君に人権を与える方法がないと言っても過言ではない。もしかしたらあるかもしれないけど、今の僕には分からない」
自分の胸に当てているアルクの手を、更にぎゅっと押し付けながら、距離を詰める。
もう互いの息がかかるぐらいに近い距離だ、でも、それでも視線を逸らしたりしない。
「でも、異世界法務省特命担当大臣の勇者アルクなら、それが出来るはずです」
「無茶をいうな、一体どうやって」
「私を魔族担当の一員にして下さい、魔族の王、魔王アズモンデオとして」
「…………そんな」
「私なら魔族を統一できるのは、既にご存じでしょう? 過去に私のペットと激戦を繰り広げた貴方なら、私がどれだけ魔族から信頼を得ているか。昨日だってそうです、大魔導士ドドが苦戦をしたオーガ族、彼だって私の……私の、仲間ですから」
自分が魔王アズモンデオと晒すことで、唯一得られる信頼。
過去の私を知る勇者アルクなら、私がどれだけ魔族に精通しているか、分かっているはず。
「確かに、そうだが」
「私なら、世界中の魔族、魔物を管理することができます。してみせます……お願いします、たった一回だけでいいんです、私にチャンスを下さい。このまま何も出来ずに殺される未来を待つのは、もう死ぬのは嫌なんです」
裸になってお願いしてもダメなら、もうどうする事も出来ない。
あの時言ってくれた言葉、黙っていてくれるなら何でも言う事を聞く。
私はその約束をきちんと果たすから、勇者アルクも果たして欲しい。
「君が何を望んでいるのかは理解した。誰だって死ぬのは嫌だ、そこも理解できる。だが、君の語る内容にはひとつだけ疑問点が残る」
だけど、勇者アルクは私の願いに、たった一つの負荷をかけてきたんだ。




