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嬉しい、ガダ君と知り合ってまだ全然日数経ってないし、どちらかと言えば最悪な出会い方してるし、最低なことしか言われてないけど、それでも来てくれて嬉しい。
「アズ、ここから脱出するなら今がチャンスだ。この湯舟を出た先にある道を――」
「ダメだよ、私ここから逃げられない」
ガダ君一人なら逃げれるかもしれないけど、私には魔力があるから。
魔力がある以上、探知されてしまう。
しかもカナディに一回ステータス確認までされてしまったんだ、その精度は寸分の狂いもなく私へと導いてしまう事だろう。そして瞬間移動の魔法、私がこの世界のどこにいても捕縛できる自信があるからこそ、今お風呂で一人にしてくれているんだ。
どうにもならない強さ、それが聖女カナディ・リリィ。
ううん、彼女だけじゃない、ガダ君だって大魔導士ドドに勝ててないんだ。
私が逃げたとしても、私達は全滅させられる。
言うなれば、私の仲間全員が人質の状態なんだ。
「なんでだ、こんな場所にいたらいつか殺されちまうぞ」
「いつか殺されるかもしれない、でも、ここにいればそれは今じゃない」
「今じゃなくても、明日には殺されるかもしれないだろ。魔王アズモンデオだって知られたが最後、アイツ等は容赦なくアズを殺すぞ」
「だとしてもだよ……分かってよ。私はね、ここで聖女のペットとして生きるしかないの、それしか皆が生きる道がないんだよ。他の道なんてない、どうあがいてもないの」
自分で言ってて情けなくなる。
魔物をペットとして飼うって、私自分で何度も口にしてたけど。
結構、酷いことだったのかな。
「……アズがペットだなんて、俺は認めねぇ」
「ガダ君が認める必要なんてないよ」
「俺はアズの夫だ、自分の嫁が人のペットだなんて、認められるか」
「ガダ君……ごめんね」
ガダ君と話してると、そもそも魔王軍ってなんだったのかなって考えさせられる。
私は魔物をペットとして飼っていたに過ぎない、でも、皆は違ったのかも。
語り合い、奮起し、私の為に戦ってくれていた。
それって、ペットとして飼うっていうよりも、仲間って事だったのかもしれない。
死んでから気付くとか、遅すぎだよね。
でも、そんな皆だからこそ、もう死んで欲しくない。
私一人が犠牲になる事で、皆が助かるのなら、それが一番いい。
もう、ドラリンと一緒に過ごす温かい家とか、フーちゃんと遊ぶ草原とか。
そういった日常さえ諦めてしまえば、皆は助かるんだから。
犠牲って言っても、死ぬ訳じゃないし……ペットとして生きていられるのなら、それで。
「アズ」
「……なに」
「泣くほど嫌なら、選ぶ必要なんてないと思うぞ」
泣く? あれ、本当だ、私、泣いてる。
「ペットとして生きるって言ってるけどよ、それって死んでるのと何にも変わらねぇと思うぞ。コッフとかフーはどうするんだよ? まだ赤ん坊のウリ坊だって、皆がアズを待ってるんだぞ? アズが導いてやらねぇと、アイツ等は多分マトモに生きていくことが出来ねぇ。魔族の仲間入りにしちまった責任が、アズにはあるんだ。こんな所でペットとして生きるなんて言ってねぇで、全員が生き延びる事が出来る方法を、必死になって考えるべきなんじゃねぇのか?」
涙目のまま、ガダ君を見る。
水の音、湯気が水滴になって壁に吸い付く音、空気の音。
色んなものが静止した感じになって、何もかもが色鮮やかなものへと変化していく。
全員が生き延びる方法。
そんなの、今まで考えたこともなかった。
だって、ムリだって思ってたから。
私の手の届く範囲だけで、精一杯だって思ってたから。
でも、全員が助かる方法って、あったりするのかな。
そんな都合の良い未来が、私達魔族にあったりするのかな。
どうすればこの世界で私達魔族が全員生き延びることが出来る?
何が足らないから、私達は殺される運命を辿るしかないの?
この世界に来てからすべての事を思い出して、考えて、考えて、考えて。
カケラでもいいから、なんでもいいから思いつかないといけないんだ。
その考えこそが、私達を、魔族を生き延びらせることが出来る方法になるのなら。
楓子様との出会い、千祢里との出会い、真喜納との出会い、リズ、モグタン、ドラリン、ガダ君、コッフちゃんにフーちゃん、色々な場所に行って、色々な経験をして、必死になって生きてきて、その中に何かヒントがあったんじゃないのか。
……………………あ。
あああああああああああぁ! そうか、そういう事なんだ!
もしかして、これならいける……の、かも。
無理矢理かもしれないし、確実に成功する訳じゃないけど。
「……ガダ君」
「まぁ、アズが諦めるって言っても、俺は諦めねぇけどな」
「ううん、私も諦めない。ガダ君が言ってくれた言葉、全員が生き延びれる方法、思いついた」
ガダ君、呆けた顔してるけど。
君がいなかったら、思いつきもしなかった。
考えもしなかった。
全部、君たちがいてくれたから、私を勇気づけてくれたから。
この世界で私達が生き延びる方法。
それはとても難しい、でも、それが出来る可能性を秘めた人物が一人だけいる。
なんで気付かなかったのかな?
ううん、気付いたとしても、以前じゃ行動に移そうとは思えなかったと思う。
今、この時この瞬間だから、それにすべてを懸けてみようって思えるんだ。
それに気づかせてくれたガダ君が、なんか眩しく見えちゃって。
嬉しくって、もう一度彼のことを抱き締めて。
そして、彼の頬にキスをしながら、湯舟に倒れ込んだ。
「ぷっは、アズ、お前!」
「だって、ガダ君がいけないんだよ?」
「はぁ? 俺の何がいけないんだよ?」
「ふふっ、いいの。それに今のは感謝のお礼だよ。ダメだった?」
きっと今の私は満面の笑みを浮かべているに違いない。
水で崩れた髪型をしたガダ君は、それでも優しい笑みを浮かべる。
「……いんや、最高だ」
「えへへ、それじゃあ、私そろそろお風呂出るね」
「おう、その綺麗な裸が見れなくなるのは残念だけどな」
「あ、……もう、変態さんなんだから。でも、今だけは許してあげるよ」
ガダ君に教えてもらうなんて、想像もしなかったよ。
でも、思えば、私はいつからか考える事をやめていたのかもしれない。
逃げて逃げて逃げて、死ぬのが怖くて、隠れる事しか出来なくなっていたんだ。
今だって、死ぬのは怖い。
痛いのも嫌だし、出来たら逃げたい。
でも、それだけじゃダメなんだ。
この恐怖に打ち勝つために、私はもう一回死ぬ。
それが、皆が生きるための方法なのだから。
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「……アズ君か? こんな夜更けに、何の用だ」
「お話があって参りました、勇者アルク様」
皆が寝静まった深夜二時、私は一人、アルクの部屋へと忍び込む。
全員が生き残る道、その願いを叶える事が出来るのは、この男しかいないから。
「私の本当の名は、魔王アズモンデオ。貴方が探していた魔王アズモンデオとは、私の事です」




