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拒否も何もできない、というか沈黙の魔法って凄いね、ずっと声が出せないよ。
聖女カナディって、瞬間移動の魔法の使い手でもあるんだね。
一瞬でどこだか分からない部屋まで運ばれちゃったよ。
ガダ君、大丈夫かな。
いやいや、ガダ君よりも、自分の心配した方がいいよね。
この部屋どこなんだろ。
高級感漂う感じは、異世界法務省のアルク大臣の部屋を彷彿させる。
座らされた大きい椅子も、無駄に座り心地良いし。
大きいテーブルに大きいテレビには、よく分からない映像が延々と流れていて。
窓には厚手のラメラメしたカーテンが掛かっているし、とりあえず裕福なんだろうな。
「ドド? アンタいつ帰ってくるのよ? ……はぁ? オーガ族の男に苦戦してる? めっずらしい。私? 私はもう拠点に戻っちゃったわよ。可愛いの手に入れたから、今日はもうそれで満足するわ。人族の女も混ざってて戦えないから手伝え? やーよ、とっとと帰ってきなさいね」
身動きできないままの私の横で、耳に手を当てて思念通話してる聖女カナディ。
肩に腕を回されてるし、なんか密着してくるし。
正直、生きてる心地がしない。
「オーガ族の男って、アンタの知り合い?」
あ、思念通話終わったのかな。
喋れないから、うんうんって頷く。
「へぇ、彼氏ってこと?」
それは違うから、首を横に。
「あは、なーに、オーガ族のくせに恋愛してんじゃん。可愛いの。隠さなくても平気だよ?」
ほっぺをつんつんってされたけど。
恋愛なんかしてませんけど? 私が好きなのはドラリンですから。
毎日料理作ってくれるし、ドラリンは炊事洗濯掃除全部完璧なんだからね。
……それって好きっていうよりも、便利ってことかもだけど。
「ったくよぉ、なんなんだあの馬鹿オーガ」
「あ、ドドお帰りー、苦戦なんて珍しいじゃん」
木製の高級そうな扉を開けて入ってきたのは、汚れていたローブを更にボロボロにした大魔導士、ドド=ディゴールだった。ついさっきまで会話してたのにもう帰ってきたって事は、この人族も瞬間移動魔法が使えるのかな? いや、この人族の場合、高速移動か。
それにしても……ガダ君相当に善戦してたんだね。
ドドの目の周りに痣は出来てるし、歯は欠けちゃってるし、ローブは半分以上やぶけてるし。
「魔法が通用しねぇんだよ。おまけに途中からボアボア族とドラグル族と、よく分からねぇ変なのまで来やがって。一対四じゃさすがに俺としても分が悪い。それなりにダメージは与えたから、痛み分けって所だな」
ガダ君とフーちゃん、それにキィ君とドラリンかな?
あは、凄い、皆頑張ったんだね。
私、さらわれちゃったけど。
「……って、なんだ、可愛いのってソイツの事か?」
「そ、いいでしょ? あげないよ?」
「いらねぇよ……いや、待てよ? ソイツ囮にすれば、オーガ族ぐらい釣れるんじゃねぇか?」
ガダ君はあっさりと釣れそうだね、むしろもうこっちに向かって来てるかも?
あ、でも言ってたっけ、私がピンチにならないと反応しないとか。
ドドの提案に、カナディは元々くっついていた私を更に抱き締めて反論する。
「だーめ、この子は私専属のペットにするの。囮になんか使わせないから」
「魔族をペットって、魔王アズモンデオみたいなこと言いやがって」
「そういえばそうだね。でも、この子を見るとアズモンデオの気持ちも理解できるなぁ」
ご理解頂き誠にありがとうございます。
でも、まさか自分がペットになるとは思いませんでした。
身動きも出来ないし、喋ること一切できませんけど。
「まぁ、そのオーガの娘はカナディに任せるとして。これ、先に返しておくぞ」
ドドが懐から出したもの、それは透明な袋に入れられた布……っていうか、私のパンツ!
そういやコイツ、あの時このパンツの持ち主探してたっけ!? なんで!?
「持ち主、いた?」
「いや、残滓をたどった結果が今日だからな。強いて言えばその娘だな」
「この子は違うし、まだ未経験だって確認したから」
「む? そうなのか……では、皆目見当もつかんな」
「ちぇ、残念。見つけたら八つ裂きにして拷問しまくるのにな。私のアルクに手を出したんだから、それ相応の報いを与えたかったんだけど。ま、今日はこの子に免じて許してあげるわ」
テーブル上の私のパンツ、カナディの魔法で八つ裂きになって霧散した。
八つ裂きかぁ……めちゃくちゃ痛そうだなぁ。
終わったな、私。
多分この手のタイプは人の話聞かなそうだし、アルクは嘘つくだろうし。
どう転んでも私がアルクを襲ったことになって、八つ裂き拷問確定。
泣きそう。
★
結局時間は流れて、午後五時。
ここに連れてこられてから、ずーっと拘束されて喋れない。
そろそろ、トイレ行きたい……どうしよう。
「あ、アルク帰ってくるよ」
トイレどころじゃないね、私の死が確定する方がどうやら先らしい。
もう、この椅子に座る石像になったつもりで座っていよう。
どこも見ない、何も考えない、私は石、私は石です。
「ただいま、ようやく解放されたよ。連日会議会議って、本当、政治家って奴は飽きもせずにご苦労なことだよね。皆はどこかに魔物退治に行ったみたいだけど、どうな――――」
スーツ姿のアルク大臣の視線が、椅子に座る私を捉えたのを感じる。
何も語りません、何も反応しません、私は石、私は石。
「お帰りアルク、ビックリした? この子ね、こんな可愛いのにオーガ族なんだよ? 魔法も使えるみたいだし、言葉も喋れるみたいなの。あんまりにも珍しいから、ペットにしようと思うんだけど、いいよね?」
「オーガ、族?」
「そうだよ、ほら、頭に二本の黒い角がちょこっとだけ生えてるでしょ? 調べたけど、オーガ族って事は間違いないみたいだから。それにね、この子って男性経験もないみたいなの。出会ったら即で交尾のオーガ族にしては珍しいでしょ? もうパーフェクトよパーフェクト、こんな珍しのどこ探してもいないから! だから、飼ってもいいでしょ?」
私は石、私は石。
「……そう、だな。いいんじゃないか? カナディが笑顔になるのなら、それが一番いい」
「きゃは! ありがとうアルクー! あ、夜ご飯とか用意してきてあげるね! 今日はイモリの姿焼きだから、楽しみにしてるんだぞー!」
ご機嫌なまま部屋を後にした聖女カナディ。
そして部屋に残るは私と大魔導士ドド、そして勇者アルク。
私は石、私は石ですから。
そんな、近くで睨まないで下さい。




