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人間不信のマオウ様、世界を救う  作者: 書峰颯
With love and happiness
39/53

 拒否も何もできない、というか沈黙の魔法って凄いね、ずっと声が出せないよ。

 聖女カナディって、瞬間移動の魔法の使い手でもあるんだね。

 一瞬でどこだか分からない部屋まで運ばれちゃったよ。


 ガダ君、大丈夫かな。

 いやいや、ガダ君よりも、自分の心配した方がいいよね。


 この部屋どこなんだろ。

 高級感漂う感じは、異世界法務省のアルク大臣の部屋を彷彿させる。

 座らされた大きい椅子も、無駄に座り心地良いし。

 大きいテーブルに大きいテレビには、よく分からない映像が延々と流れていて。

 窓には厚手のラメラメしたカーテンが掛かっているし、とりあえず裕福なんだろうな。


「ドド? アンタいつ帰ってくるのよ? ……はぁ? オーガ族の男に苦戦してる? めっずらしい。私? 私はもう拠点に戻っちゃったわよ。可愛いの手に入れたから、今日はもうそれで満足するわ。人族の女も混ざってて戦えないから手伝え? やーよ、とっとと帰ってきなさいね」


 身動きできないままの私の横で、耳に手を当てて思念通話してる聖女カナディ。

 肩に腕を回されてるし、なんか密着してくるし。

 正直、生きてる心地がしない。


「オーガ族の男って、アンタの知り合い?」

 

 あ、思念通話終わったのかな。

 喋れないから、うんうんって頷く。


「へぇ、彼氏ってこと?」


 それは違うから、首を横に。


「あは、なーに、オーガ族のくせに恋愛してんじゃん。可愛いの。隠さなくても平気だよ?」

 

 ほっぺをつんつんってされたけど。

 恋愛なんかしてませんけど? 私が好きなのはドラリンですから。

 毎日料理作ってくれるし、ドラリンは炊事洗濯掃除全部完璧なんだからね。

 ……それって好きっていうよりも、便利ってことかもだけど。


「ったくよぉ、なんなんだあの馬鹿オーガ」

「あ、ドドお帰りー、苦戦なんて珍しいじゃん」


 木製の高級そうな扉を開けて入ってきたのは、汚れていたローブを更にボロボロにした大魔導士、ドド=ディゴールだった。ついさっきまで会話してたのにもう帰ってきたって事は、この人族も瞬間移動魔法が使えるのかな? いや、この人族の場合、高速移動か。


 それにしても……ガダ君相当に善戦してたんだね。

 ドドの目の周りに痣は出来てるし、歯は欠けちゃってるし、ローブは半分以上やぶけてるし。


「魔法が通用しねぇんだよ。おまけに途中からボアボア族とドラグル族と、よく分からねぇ変なのまで来やがって。一対四じゃさすがに俺としても分が悪い。それなりにダメージは与えたから、痛み分けって所だな」


 ガダ君とフーちゃん、それにキィ君とドラリンかな?

 あは、凄い、皆頑張ったんだね。

 私、さらわれちゃったけど。


「……って、なんだ、可愛いのってソイツの事か?」

「そ、いいでしょ? あげないよ?」

「いらねぇよ……いや、待てよ? ソイツ囮にすれば、オーガ族ぐらい釣れるんじゃねぇか?」


 ガダ君はあっさりと釣れそうだね、むしろもうこっちに向かって来てるかも?

 あ、でも言ってたっけ、私がピンチにならないと反応しないとか。

 ドドの提案に、カナディは元々くっついていた私を更に抱き締めて反論する。

 

「だーめ、この子は私専属のペットにするの。囮になんか使わせないから」

「魔族をペットって、魔王アズモンデオみたいなこと言いやがって」

「そういえばそうだね。でも、この子を見るとアズモンデオの気持ちも理解できるなぁ」


 ご理解頂き誠にありがとうございます。

 でも、まさか自分がペットになるとは思いませんでした。

 身動きも出来ないし、喋ること一切できませんけど。


「まぁ、そのオーガの娘はカナディに任せるとして。これ、先に返しておくぞ」


 ドドが懐から出したもの、それは透明な袋に入れられた布……っていうか、私のパンツ!

 そういやコイツ、あの時このパンツの持ち主探してたっけ!? なんで!?


「持ち主、いた?」

「いや、残滓をたどった結果が今日だからな。強いて言えばその娘だな」

「この子は違うし、まだ未経験だって確認したから」

「む? そうなのか……では、皆目見当もつかんな」

「ちぇ、残念。見つけたら八つ裂きにして拷問しまくるのにな。私のアルクに手を出したんだから、それ相応の報いを与えたかったんだけど。ま、今日はこの子に免じて許してあげるわ」


 テーブル上の私のパンツ、カナディの魔法で八つ裂きになって霧散した。

 八つ裂きかぁ……めちゃくちゃ痛そうだなぁ。


 終わったな、私。

 多分この手のタイプは人の話聞かなそうだし、アルクは嘘つくだろうし。

 どう転んでも私がアルクを襲ったことになって、八つ裂き拷問確定。

 泣きそう。



 結局時間は流れて、午後五時。

 ここに連れてこられてから、ずーっと拘束されて喋れない。

 そろそろ、トイレ行きたい……どうしよう。


「あ、アルク帰ってくるよ」


 トイレどころじゃないね、私の死が確定する方がどうやら先らしい。

 もう、この椅子に座る石像になったつもりで座っていよう。

 どこも見ない、何も考えない、私は石、私は石です。 


「ただいま、ようやく解放されたよ。連日会議会議って、本当、政治家って奴は飽きもせずにご苦労なことだよね。皆はどこかに魔物退治に行ったみたいだけど、どうな――――」

 

 スーツ姿のアルク大臣の視線が、椅子に座る私を捉えたのを感じる。

 何も語りません、何も反応しません、私は石、私は石。


「お帰りアルク、ビックリした? この子ね、こんな可愛いのにオーガ族なんだよ? 魔法も使えるみたいだし、言葉も喋れるみたいなの。あんまりにも珍しいから、ペットにしようと思うんだけど、いいよね?」

「オーガ、族?」

「そうだよ、ほら、頭に二本の黒い角がちょこっとだけ生えてるでしょ? 調べたけど、オーガ族って事は間違いないみたいだから。それにね、この子って男性経験もないみたいなの。出会ったら即で交尾のオーガ族にしては珍しいでしょ? もうパーフェクトよパーフェクト、こんな珍しのどこ探してもいないから! だから、飼ってもいいでしょ?」


 私は石、私は石。


「……そう、だな。いいんじゃないか? カナディが笑顔になるのなら、それが一番いい」

「きゃは! ありがとうアルクー! あ、夜ご飯とか用意してきてあげるね! 今日はイモリの姿焼きだから、楽しみにしてるんだぞー!」


 ご機嫌なまま部屋を後にした聖女カナディ。

 そして部屋に残るは私と大魔導士ドド、そして勇者アルク。


 私は石、私は石ですから。

 そんな、近くで睨まないで下さい。

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