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「それにしても、今さっき貴様、そこの女に対してアズと申したか?」
「はっ、どうだかな、御託はいいから掛かってこいよ」
「いやいや、どうせ秒で片付いてしまうのだ、問答の時間くらいは設けた方がいいだろう?」
ボッ。
地面を抉りながら殴り掛かるガダの拳を、ドドはあっさりと身体を捻って避ける。
その後のラッシュもそう、ドドは風を受けた草花の様に、ゆらりゆらり避け続けた。
「随分と余裕しゃくしゃくじゃねぇの、反撃の魔法はねぇのかよ!」
「質問の答えがまだだからな。それに、女の避難がまだだぞ?」
反撃が来ないと察知したのか、ガダはいったん攻撃の手を緩める。
一切当たらない、ガダの頬を汗が流れるだけで、ドドは涼しげな表情のままだ。
「んだよ、避難完了まで待つって言ってんのか?」
「もし彼女がアズだった場合、傷つける訳にはいかんのだよ」
「傷つけないで、どうすんだよ」
「カナディ・リリィとの約束なんでな。捕縛して連れ帰るよ。その後はカナディが拷問したのちに殺すだろうが、俺の知ったことじゃない」
バチッ。
アズを殺す、その言葉を耳にしたガダの青かった髪が、一瞬で赤色へと変化した。
「アルクは怒るかもしれんが、俺もカナディが怖いのでな」
「そんなの俺たちが知ったことかよ……守ると誓った相手なんだ、二度も殺されてたまるか」
赤熱に輝くオーラがガダを包みこむと、周囲一帯が彼の色へと染まった。
後頭部の角が大きく成長し、螺旋と化して弧を描き、そこからオーラが噴出される。
それはさながら、ジェットエンジンの回転するタービンの様だ。
ゴッ。
風体宜しく、ガダの速度が限界を超えて加速する。
避けられぬ拳を腹に受けて、ドドはその身を宙へと舞い上がらせた。
★
背後からものすっごい音が聞こえてくる、急いで避難させて私も戻らないと。
たどり着いたのはコッフちゃんの洞窟、出迎えてくれたコッフちゃんは瞳を輝かせるけど、ごめんね、今はそれどころじゃないんだ。
「ここにいれば大丈夫だから、コッフちゃん、ウリ坊たちを宜しくね」
魔力暗転の直前、コッフちゃんが心配そうに私を見た。
ありがとう、貴方は奥にいるお嫁さんと一緒に、元気で生きていなさいね。
「フゴフ、フゴフッ」
「うん、フーちゃんごめんね。フーちゃん大きいから、ちょっと入れる洞窟とか無さそう」
「フゴッ!」
「え、一緒に戦ってくれるの?」
「フギギ、フゴフゴ」
「あは、ありがとう。フーちゃん一緒だと嬉しいかも」
「フギギ、プギー!」
ぴょんぴょんと跳ねた後、高速ダッシュでガダ君の下へと走り出すフーちゃん。
まさか私を置いていくとは思わなかった、走っていかないと……って、あれ?
魔力暗転したはずの洞窟が、解除されてる?
「魔力暗転? 魔力検知したから来てみたけど……随分小さい魔法使いさんね」
木の上、太い幹に腰掛けるその女は、とても森が良く似合っていた。
エルフ族の聖女、カナディ・リリィ。
薄い透けるような金髪を胸まで伸ばし、聖女よろしく、純白のドレスに身を包む。
身体にフィットしたそのドレスは惜しげもなく彼女のボディラインをあらわにし、カナディ・リリィが草食を基本としているはずのエルフ族の割には、グラマラスな肉体をしているのだと顕著にアピールする。
「ちょっとだけ調べさせてね」
「え、あ、ああ、あ、あの、私」
「静寂の調べ」
「――――――――」
……え、あれ? 私の声、何にも出なくなっちゃったんだけど。
これ、沈黙の魔法だ。音が一切出なくなる、通称魔法使い殺し。
「ウィップ・バインドも重ねるね。動かれると面倒なの、別に痛くしないから、安心してね」
光の鞭が私をクルクルと捕縛すると、身動きの一切が出来なくなってしまった。
苦しくはない、でも、どうやっても動けない。
これが聖女カナディ・リリィの神聖魔法? 想像以上だよ、どうしよう。
「あら? 魔法使いじゃないのね、頭に角があるじゃない」
被っていたニット帽を奪うと、カナディは私の角を触り始める。
優しい手触りだけど……ど、どど、どうしよう、魔物ってバレちゃった。
今まで誰にもバレたことないのに、しかも相手がヤバ過ぎるよ。
「へー! 貴女めっちゃレアものなんだね!」
「……?」
「知らない? 普通オーガ族って、筋肉馬鹿で戦うことしか出来ないアホの集まりなんだよ? しかも魔法使えるオーガ族なんて本当に一匹もいなかったんだから、貴女相当なレアケースなの。この真っ白でぽよぽよのお腹にサラサラで綺麗な白髪、ヒスイ色の瞳も本当に綺麗……殺すには惜しいなぁ、ゲットしちゃおうかなぁ」
ゲット? ゲットって、なに?
「この洋服は人族の服を着てるんだね。オーガって獣の皮をそのまま着てるのが多いのに、こういうのもお洒落を意識してるの? って、何も喋れないか。それにしてもこの子、世界融合から今までどうやって生きてきたんだろう? 人族の年齢的には十五歳くらいかな。ちょっとステータスも見させてもらうねからね――リブラ」
カナディが呪文を唱えると、私の頭上にふわっと文字が浮かんできた。
神聖文字かな、私には読むことは出来なそうだけど……一体どこまで書いてあるんだろう。
種族とか、名前とか、そういうの出てきたら一発でアウトだ。
「うん、なるほど。魔力値はほとんど無いに等しいね。あは、なに貴女、男性経験ないんだ」
ある訳ないでしょ、そんなの。
でも、なんだろう、なんか無駄に嬉しそうな顔してる。
「内緒だけど……私の彼氏ね、異世界法務省のアルク大臣なんだよ? 貴女でも聞いたことあるでしょ? 超有能エリート勇者様で、私に惚れてる可愛い彼氏なんだ。今もきっと私を求めて悶え苦しんでるんだろうな……ふふ、可愛いアルク君、早く帰ってあげないとかな」
私、昨日そいつに犯されそうになりましたけど。
そっか、コイツ等そういう関係なんだ。ふぅん。
「さてと、そろそろ帰ろうかな。手土産も出来たしね」
「……?」
「貴女、今日から私のペットだから。沢山可愛がってあげるからね」
私、ペット? え!? 私がペットになるの!?
え、ちょっと待って、しかもアルク大臣の所に行くの!?
どうしよう、昨日の事がバレたら多分、相当大変なことになる。
アルク大臣の彼女ってカナディ言ってたよね……これは私、死んだかな。




