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人間不信のマオウ様、世界を救う  作者: 書峰颯
With love and happiness
36/53

 ホテルから逃げ出した翌日、悪夢にうなされながらも何とか一夜を過ごし、無事すがすがしいほどに気持ちの良い朝を迎える事が出来た。鳥のさえずりに窓から差し込む朝日は、いつ見ても気分が良くなる……はずなのに。


「……ほんっと最悪、なんであんな事になっちゃったのかな」

 

 目は覚め上体は起こしたものの、ベッドから出ずに、そのまま掛布団の上に突っ伏す。 

 全部リズが悪いんだ、勝手に魔力暗転解除しちゃうし、勇者のとこに行くなんてなったから。

 ドラリンとキィ君が来てくれたから逃げれたけど、来なかったらどうなってた事か。


「うぅ、寒気がする。下に行ってドラリンに温かいものお願いしよ」


 ひとりごちながら、パジャマから千祢里に貰ったジャージに着替える。 

 腕も手首も痣になっちゃってるし、早く治ってくれるといいなぁ。

 そんな事を思いながらトテトテと下へと向かう、すると。


「よう、アズ」


 どこかで見たパーカーを着込んだ青い髪が、食卓に居座っていた。

 見間違いかな? まだ悪夢の続きなのかな? もう一回ベッドに戻らないとかな。


「どこに行くんだよ」

「うひぃ! おっぱい触るな! な、なんでここにガダ君がいるのさ!」


 朝からいきなり胸を揉むな! デリカシーのデの字もないな本当に! 

 っていうか昨日の続きが始まるの!? キィ君に最強ブレスお願いするよ!?


「なんでって、昨日リズから聞いてなかったのか?」

「なにを!」

「もう俺とお前は夫婦の誓いを立てたからな、どこに行こうと俺の角が教えてくれるんだ」

「た、立ててないし! 私は何も分からないわよ!」

「俺には全部分かる。だから昨日も助けに行けたんじゃないか」


 そういえばリズ言ってたっけ、夫婦の誓いがなんちゃらとか。

 けど、そんなの誓った覚えも何もないし。

 された事はトイレに運ばれて犯されそうになっただけだし。


「昨日アズが俺を発情させてくれただろ、それが夫婦の誓いだ」

「随分簡単な誓いだね! 風でスカート捲れて下着見えただけでいけそうじゃない!?」

「お、良く知ってるな。それ俺の友達にいたよ」


 いたんかい! 最悪じゃないか!

 何もしてなくても気づいたら夫婦になっちゃうよ!

 

「でもま、昨日リズにも怒られたし、ドラリンって奴にも説教されたからな。いきなり襲うのは無しにしておくよ。アズが許してくれた時、俺の全開の性欲を受け止めてくれれば、それでいい」

「それ、一生ないから」

「そうか? それでも、俺はアズと一緒にいる。アズはアズモンデオ様なんだろ? だとしたら、どちらにせよ俺が守るべきはアズなんだよ」


 なんか、良いこと風にまとめようとしてるけど。

 確かに、私の為にアルクを倒そうとしてたのは間違いないんだけどさ。

 でもね、なんか、嫌な何かが引っ掛かってるのよね。


 私がガダ君を訝しんでいると、ドラリンが「賑やかですな」とキッチンから現れてくれた。

 ドラリンの手にあるお盆には、朝食であろうスープとパン、それと果物。

 

「しかし、昨晩助けに殴りこんだ時には、アズモンデオ様ではなく、アズと叫んで入ったそうですね。どうぞアズモンデオ様、自家製のコーンスープでございます」


 ドラリンが手渡してくれたスープを早速一口。

 はぁ……温かくて美味しい。

 私、ドラリンとなら夫婦の誓い立ててもいいかも。


「つまりはガダ様、貴方はアズモンデオ様の仇を目の前にしながら、自分の欲望の為に戦ったという事です。恥を知りなさい。崇高なる目的の為に動いているのか、自分の為に動いているのか、それを自覚することから始めるべきです」


 そうだそうだ! ドラリンの言うことが一番正しいんだ!

 パンも美味しい、クルミ入ってるのこれ? ドラリンの料理本当最高! 


「わぁってるよ、アンタの言うことが一番正しい。でもよ? 昨日俺が助けに入らなかったら、アズは間に合わなかった可能性があるんだぜ? イチの配下を気取るんなら、真っ先に助けに入らねぇとな」

「おっしゃる通りです。このドラリン、精進が足りません」

「だろ? まぁ、そういうこった。そんじゃアズ、どこで交尾する?」


 なんにも分かってねぇぞコイツ。

 股間から先に生まれたんじゃないの? 

 あ、そうだ、良いこと思いついた。


「ドラリン、コイツの去勢しちゃおうか」

「おお、それは名案ですね」

「きょせいって、なんだ? 何かしてくれるのか?」


 あんなもんが無くなれば、ちょっとは大人しくなるでしょ。

 ニコニコしちゃって……大丈夫、後で生やしてあげるから。

 私を一生襲わないって約束してくれればね。



★同時刻、T都、異世界法務省★



「アルク、お主なぁ」

「頼むよドド、俺、魔力関係疎いんだ」


 異世界法務省、執務室。

 そこにいるは勇者アルクこと、上尾アルク。

 もう一人は動画にも出演していた、大魔導士ドドの姿があった。


「そんなの知っちゃいるが、昔のお前さんは女遊びするような男じゃなかっただろうに」

「……特別可愛かったんだよ、アズって女の子が」

「それで、この部屋に残されたパンツに残る魔力を、俺に調べろって言うのか?」


 ドド=ディゴールの視線の先、テーブルの上に今も鎮座するもの。

 そこには透明なビニール袋に真空パックされた、一枚の下着が保管されていた。

 白の下地にピンクのボーター柄は、その日アズが間違いなく穿いていた下着だ。

 

「ああ、頼む。色々な手を使って調べたら、長月アズなんて子、いないみたいなんだ」

「魔族の可能性があるという事か、しかしアルクよ……」

「言うな、言いたい事は理解してる」

「いや、こんなの、カナディが知ったらどうなる」

「ダメだ! カナディにだけは言うな! アイツに知られたら、俺」


「死んじゃうかもねぇー」


 その瞬間まで、間違いなく執務室内にはアルクとドドの姿しかなかったはずだ。

 だがしかし、今はアルクの肩に手を掛けたエルフ族の女がいる。

 彼女の名はカナディ・リリィ、聖女と呼ばれた勇者御一行の一人。


「カ、カナディ、これは違うんだ、誤解なんだ」 

「特別可愛かったんだってぇ? そのアズって女がぁ?」

「いや、違う、誤解してる、世界で一番可愛いのはカナディだ」


 ガンッ! 

 カナディの持つ聖女の杖が、無常にもアルクの頭頂部に突き刺さった。


「アルク」

「はい」

「私はお前の彼女だろ?」

「はい」

「世界一可愛い私がいるのに、なんで他の女の下着がここにあるんだ?」

「……な、何かの間違いかと」


 ゴリっと、聖女の杖が回転しながら、更に脳天に突き刺さる。

 ゴリゴリゴリゴリ……

 

「ふぅん、そっかぁ、じゃあこれ、宇宙のチリにしちゃってもいいよね? それとも何? このパンツに合う女性はいませんかって、シンデレラでもするつもり? ガラスの靴ならぬボーダーの下着で? 一人一人穿かせるつもりなのかって聞いてんだけど!? 答えろよクズ野郎ッ!」

「おい、カナディ」

「なんだドド!? 手前も同罪かゴラ!?」

「いや、アルクもう死んでるぞ」


 見れば、聖女の杖が脳天から半分ぐらい突き刺さっているではないか。

 無言でキュポンっと杖を抜いたカナディは、神聖魔法の一つ、完全蘇生を即座に唱える。


「はっ、俺は一体何を」

「大丈夫だったアルク?」

「ああ、カナディ、何か、悪い夢を見ていたみたいだ」

「そう……怖かったのね、私が全部守ってあげるからね」


 ドドは一人震えていた。

 この女マジでやべぇと。


 抱き締め合う二人を見ているドドへと、机の上にあった物が勝手に浮かび上がり、すっとポケットの中に収納された。

 

 そして聖女カナディが目だけで伝えてきた。 

 この下着の女を殺せと。

 

 無言のまま頷くと、大魔導士ドドは部屋を後にする。

 関わってはいけない、あの女は最低最悪の悪女なのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] シンデレラのガラスの靴みたいに、パンツを履かせて確認する、思わず笑ってしまいました(笑) 聖女様、凄い発想されますね……なんとなく、聖女というか、性女とか凄(惨)女な気配がしますが。 […
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