⑥
まもなく閉館する談話室で、私は自分の正体を魔族の子へと明かした。
少しだけ恥ずかしいかも。
前の世界の私を知る魔族って、今までいなかったもんね。
目深にかぶったパーカーから青い髪が見え隠れしてる、瞳も青いし、何の種族だろ?
オーガ族だとしても角がないし、バッドノイズ族は昼間活動しないはずだし。
でも、私の為にアルクと戦うなんて、ちょっと嬉しいかも。
上目遣いでじーっと見ていると、男はふんぞりかえって腕を組み、口をへの字に曲げた。
「そんなちんちくりんな人族の女が、アズモンデオ様の訳がないだろうが」
「ち、ちんちくりん?」
「これでも魔王軍の末席にいたんだ、開戦前の演説の時にアズモンデオ様のお姿を拝見した事はある。雄らしい甲殻族特有の硬い殻に守られた全身に、漆黒の闇の様な瞳、発言する全てが胸に突き刺さったあのお方を貴様とでは、比べるまでもない」
えー、君いたっけ? ごめん、全く記憶にないや。
リズを見るも「さぁ?」って顔してるし。
「あの、そもそも私、当時から雌なんですが」
「まだ言い張るつもりか? 大体貴様は魔族かどうかも怪しいだろうが」
「角あるよほら、この角、そもそもアンタは何族なのさ?」
「角? お前、俺と同じオーガ族なのか?」
あ、オーガ族なんだ。
え? でも特徴である角がないよ?
「俺の角は後ろに生えているんだ。見ろ」
被っていたフードを取ると、端正な顔立ちの美男子がまぁ飛び出してきたじゃないの。
別に惚れたりなんかしないけどね、私はどちらかと言うと蟹顔の方が好きだし。
たれ目で角ばった感じの輪郭に、青い髪に青い瞳、まぁまぁな感じかな。
後ろに回って見てみると、確かに角があるね。
後頭部の左右に下を向いた感じの可愛いのが二本。
それを見たリズがケラケラと笑い始めた。
「ぷっ、なにこの可愛いの」
「な、おい貴様、俺の角を侮辱したなッ!」
「ええー? だって、こんな可愛いんじゃオーガ族言われても信じられないし」
「貴様……なら見せてやろうか、この建物を更地にすることぐらい俺にだってッッ!!」
「はいストーップ、別にそんな事しなくてもいいし。リズも笑わないの、失礼だよ?」
魔力束縛をあまり多用させないで欲しいな。
というかリズだって出来るんだから、リズもしてくれればいいのに。
「私? 私が使っちゃうと純粋に命削ることになるからね」
「あ、そっか。というか、さっきから全然話し進んでないから。君、名前は?」
「ふっ! ざ、けっ! っるな!」
動けないのに全身に力を入れちゃって。
物凄い形相で睨みつけてくるね。
確かこういう時って、こうしてあげればオーガ族は落ち着くんだよね。
「はいはーい、よしよし」
「な、お前」
「いい子いい子ねー、落ち着いて話しようねー」
動けないオーガ族さんを抱き締めて、頭イイ子イイ子してあげる。
甲殻族だった時にも怒り狂うオーガ族がいたけど、こうしてあげると静かになったんだよね。
人族みたいな身体になっちゃったけど、多分この子にも通用するでしょ?
すぐに額の血管は消えたし、血走った眼は澄んだ青に戻ってるし……なんか頬は赤いけど。
「お前っ、……そういう事かよ」
「どういう事か知らないけど、名前は?」
「俺の名前はガダ、お前は?」
「だから私はアズモンデオだって。こっちはリズって呼んでるけど、実際にはこの子もアズモンデオだからね? あ、でも人族の前じゃ私をアズって呼んでね。じゃないと殺されちゃうから」
ガダ君か、オーガ族の名前とか初めて聞いたかも。
いっつも種族名で呼んでたからな、反省しないと。
「なんだか、よく分からないな。本物かどうかは知らんが、貴様の名がアズモンデオなら、そう呼ばさせて頂くとしよう。ではアズ、交尾はいつしようか?」
……………………ん? 今コイツなんて言った?
「俺は今すぐにでも出来るが、アズの方はまだ発情していない感じか?」
「は、発情? 今すぐにって……ちょ、ちょと待って」
え、なんで、私の手を握り締めるのですか。
あえ? 魔力束縛かけてなかったっけ?
ひぃ、なにその下半身、どうなったらそんなに突っ張れるの。
「しない、交尾なんてしない」
「なぜだ? オーガ族は雌雄のどちらかが発情次第、交尾するのが基本だろう?」
「しないし、そんなの知らないし」
「そうか、アズは初物か。大丈夫だ、俺は初物の相手もしたことあるからな」
なにが大丈夫なのか知らんけど。
は? オーガ族って確かに勝手に増えていくけど、そんなんなの?
マジで動物じゃん、野獣じゃん、え、そんなのに転生したの私?
「ちょっとリズ、笑ってないで助けてよ」
「あっは、あははははは! ひー! むり、だって私、アンデッド族だから! あはははは!」
リズめ、椅子に座ったまま腹抱えて、足をバタバタさせながら爆笑してるけど。
こ……こっちはそれどころじゃないんだけど!?
さっきから魔力束縛も発動させてるのに、なんか普通に動いてるし!?
「ああ、無駄だぞ? オーガ族が発情すると魔法無効になるからな」
「だから! そんなの知らないし! 初めてばっかの情報やめて!」
「さ、そこのトイレでいいか。実はさっきの抱擁でもう、俺の性欲が凄くてな」
「無理だから! 腕掴むな離せ! おいちょっとマジ⁉ 嘘でしょ⁉」
さすがはオーガ族、力ハンパねー! え、このままじゃ犯されるんですけど!?
た、確かオーガ族の交尾って、三日三晩続くってあったよね?
え、この肉体で三日三晩!? 前の甲殻族の時だってしたこと無かったのに!?
「まぁそう抵抗するな。お互い気持ち良くなろうぜ」
「いーやーだー! 離せバカ! 私の話聞けよ本当にもう!」
必死の抵抗むなしく、身体ごと持ち上げられて、荷物搬送の様にトイレへ。
このままじゃ殺される、こうなったらしょうがない、このバカを殺すしか。
「あのー! ここに長月アズさんという方はいらっしゃいませんかー!?」
突如談話室に響き渡る人族の女の声。
長月アズは、見学会に参加するために使った私の偽名だ。
しかも呼んでるのはさっきの政務官の女じゃないか。
「おい、あれは私を呼んでいるんだ。行かなかったら大変な事になるぞ」
「なに? そうなのか……しょうがない、アズも残念だろうが、一旦保留にするか」
残念じゃないですぅー! もう二度とお前に近寄らないですぅー!
はぁ良かった、しかしバカ力だね、腕とか跡が残っちゃったじゃん。
「あの、私が長月アズですけど」
「ああ、良かった! 見学会の方々と一緒じゃなかったから、どこに行ったのかと思っちゃいました。あの、アルク大臣が話の続きが出来ればとの事なのですが、長月様のお時間は大丈夫でしょうか? 問題ないようなら、このままお部屋までご案内させて頂きますが」
へ? アルク大臣が私と? な、なな、何の話でしょうか?
話を聞いてたであろう近くに来たリズを見ると、彼女はこくり頷く。
「行った方が良いだろうね」
「そ、そそ、そう?」
「それとも、このまま残ってあのバカの相手する?」
それって選択肢にすらならないから……しょうがない、怖いけど、行くか。
私が戻るまでにリズがあのバカを説得してますように。
★
「はぁ、さっぱりした。じゃあ、君もシャワー浴びてきてなよ」
目の前にはバスローブに身を包んだアルク大臣の姿が。
私はちょこんと無駄に大きいベッドに腰掛ける。
……ん? どうしてこうなった?




