⑤
千祢里に支えられながら、震える足をぱんぱん叩いて立ち上がる。
生まれたてのフーちゃんの赤ちゃんみたいだ、情けない。
「はい、これマイク、大丈夫?」
「す、すす、す、すい、すいませ、ん。だいじょ、ダイジョブです」
「無理しなくていからね、アレだったら、隣のお姉ちゃんが代わりに質問でも大丈夫ですよ?」
「へ、平気でっす。えぇっと……えっと」
両手でマイクを握り締めて、へっぴり腰のままゆっくりと顔を正面へと向ける。
「へひっ」
変な声でちゃった。
アルクだけじゃない、この場にいる人族全員が私を見てる。
ごくりと唾を飲んで、手をグーパーしていると、その手を千祢里がぎゅっと掴んでくれた。
落ち着こう、千載一遇のチャンスなんだから。
震える喉で深呼吸をひとつ。
「落ち着いたかな? では、どうぞ」
「す、すいません……あ、あの、さっきのお姉さんが言っていたのですが、人と分かり合える魔族が現れた場合、その魔族のために、共存する道を設けたりとかって、アルク大臣は考えているのでしょうか?」
自分の意見を他人の言葉を使って問う。
隠れ蓑としては最適だし、取っ掛かりとしては最高だ。
「そうですね、実際に人語を喋る魔族もおりましたし、攻撃的でないのなら、可能性はあると思います」
周囲にいた数人が一斉にメモを取り始める。
この人が語る内容は、そのままこの国の未来の指針だ。
いま言質を取れば、今後もそれで戦える。
「あの、それは、魔王アズモンデオっていう、魔族でもですか?」
自分の名前を出した途端に、アルクの眉がピクっと反応した。
「あ、あの、ごめん、なさい」
「謝る必要なんかないさ。動画で僕が言ったから気になったのかな? 安心して、魔王アズモンデオに限ってはその枠には収まらないよ。アイツだけは僕がこの手で必ず仕留める。今はこの場にいないけど、聖女カナディも、大魔導士ドドも、アイツとの再戦を望んでいるからね。ちょうど良かった、この場にいる皆さんだけでも、僕の言葉を聞いておいて欲しい」
アルク大臣は立ち上がると、私の方へと歩みより、じっと見つめてくる。
「今の世界融合による災害は、全て魔王アズモンデオが仕掛けた可能性が高い」
え?
「僕の勇者としての力、カナディの聖女としての力、ドドの大魔導士の力、そこに魔王であるアズモンデオの力。これらがあの瞬間に全て合わさり、僕達は光に包まれてしまったんだ。だから、魔王アズモンデオに関しては、完全に倒せたかと言われたら、それは違う。多分奴のことだ、今の世界情勢を陰ながら見守り、一人ほくそ笑んでいるに違いない。絶対に許せない……約束するよ、僕は魔王アズモンデオをもう一度倒してみせる。君が笑顔になれる世界を、取り返してみせるからね」
やめて、近づかないで、私の両肩に手を置かないで、白い歯を見せて笑わないで。
全部私のせいにして終わらすつもり? もう既に貴方は私を殺してるんだよ?
なのに、なのに、自分は悪くないって、全部私が悪いで終わらすつもりなの?
そんなの、許せないよ。
大体、私はペットを飼っていただけなのに。
ちょっとは悪い部分はあったけど、全部じゃないよ。
ましてやこの世界の事なんか、何も知らないし、極力知らないようにしてきたのに。
楓子様と一緒にこの世界に触れた後だって、山の中に隠れてたのに。
便利だって理解してるよ、この世界の機械がどれだけ凄いのかも分かってる。
本当だったら調べたい、研究したい、でも、私にはその資格がないって分かってるから。
「君に誓うよ、僕はどんな悪とも戦う。……じゃあ、名残惜しいけどもう時間だから。まだ不安になるようなら、また会いに来て欲しい。君ならいつでも大歓迎だからさ」
――――、ダメ、止まって。
「それじゃあ、今日は皆さまお疲れ様でした。またお会いできる日を、そしてその日が平和な日であることを願って、今日は終わりにしたいと思います」
ダメだよ、いま動いたら、全部ダメになっちゃうから。
絶対に動かさない、全力で封じるからね……魔族の君。
★
打って変わって静かになった談話室。
そこに残るは私とリズ、そしてフードを目深にかぶった一人の男。
感じる魔力で分かる、この男が今回の見学会に参加してた魔族だ。
「……なぜ俺を止めた」
「当然でしょ、あの場で動いてたら全員殺されてたよ」
「殺されるのは俺だけだ」
「私達が魔族を見捨てる訳ないでしょ? ロードメリアの世界でどれだけの魔族と魔物をペットにしてきたと思っているの? 貴方が殺されそうになったら、私達は全力で貴方を助ける。そういう生き方をしているのよ」
勇者アルクに気づかれないように、リズが静かに発動させた魔力束縛。
バレたら大変な事になってたけど、束縛しなかったらもっと大変な事になってたと思う。
リズが喋っているけど、凄いな、怖くないのかな。
人型で真喜納みたいに身体も大きいし、私、ちょっと怖いんだけど。
「そもそも貴方は一体なに? なんであの見学会に参加したの?」
「目的なんか一つに決まってる。お前たちだって魔族なら分かるだろ、魔王アズモンデオ様を殺したのはアイツだ。世界融合も何もかも全てがアイツの責任だ。だからアイツを殺して、この世界融合を解除する」
世界融合の原因が勇者アルクにあると思ってるんだ。
私もそうだと思うな、だって殺しにかかってきた時に、元の世界に帰るって言ってたし。
「さぁ、俺の目的は語ったぞ。お前たちこそ一体何なんだ? 魔王アズモンデオ様の敵討ちを邪魔するのなら、全力で排除させてもらうが」
「その必要はないよ、ね、アズ」
「え? あ、うん、そうだね」
彼が敵討ちする必要なんてない、だって。
「姿形は変わっちゃってるけど、私、一応、魔王アズモンデオですから」




