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法務省見学会、とはいっても建物の案内なんざ誰も期待してはいない様子だ。
皆の目的は特命担当大臣、上尾アルクとの面談会にある。
案内の政務官って女の人が一生懸命声を上げているけど、誰も聞いていない。
勿体ないね、学べる時には全力で学ばないと。
「し、質問っです」
「あ、はい、そこのニット帽の女の子、なんでもどうぞ!」
「キャピックショップの商っ品は、誰、が、作っているっんですか?」
「わぁ、とてもいい質問ですね! 異世界法務省は通常の法務省と同じ建物にありますから、ここで販売されている商品は、刑務所で制作された物がほとんどになります。つまり悪い事をした人が良い人になるために、更生するための施設で頑張って作った商品になります……これで、大丈夫ですか? なんか、壁の方を向いてますけど」
小さな声で「誰が買うか、そんなもん」って聞こえるけど、無視しておこう。
壁を見ながら手を挙げて、更に突っ込んだ質問を飛ばす。
「だ、だ、だとすっと、魔族とかも、その刑務っ所ってとこ、に、入れられるんですっか?」
「うーん、それは今の異世界法だと難しいかなぁ。でも将来、人と分かり合える魔族が現れたら、その可能性も十分にあると思います。もしそうなった時は、貴女が人と魔族の架け橋になってくれると、政務官のお姉さんも嬉しいですね……大丈夫ですか? 今度は床を見てますけど。お姉さんの話、聞こえてます?」
聞こえてるし、架け橋なら喜んでお受けいたしますよ。
早くその未来を実現したいものです。
でも逆に、今は見つかったら即射殺の原則が生きてるって事よね。
バレないように、しばらくは静かにしておこうかな。
「では、十分間の休憩を挟みまして、ここ最上階談話室にて、上尾アルク特命担当大臣との面談会となります。質問は一人一回二分以内、こちらが指定した人のみと定められておりますので、今の内に質問内容を決めておいて下さいね。それでは、政務官のお姉さんはここで退場となります。皆さんとまた会えること、楽しみにしてますからねー!」
ニッコニコの笑顔で手を振った後に、一瞬で表情を曇らせながら壇上を降りる。
あれは二度と会いたくないって表情だね、本当お疲れ様です。
つんつんって指でお腹を突かれて振り向くと、千祢里が無言のままトイレを指差していた。
「なんて質問するの?」
トイレの個室に二人で入ると、千祢里が小声で聞いてきた。
どっちが指されるか分からないからね、予め質問内容は決めておいた方がいい。
「そうね……さっきの政務官の言葉を、そのまま使わさせて貰えばいいかな」
「人と分かり合える魔族が現れたらって部分だよね、OK、分かった」
少なくとも、即射殺からは大分マシになる。
魔族と人族が同じ扱いになれば、この民主主義の国ならいずれ相互理解が可能になるはず。
悪い魔族ばかりじゃない、それを分からせないと始まらないからね。
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「では、定刻になりましたので、特命担当大臣、上尾アルクとの面談会を始めさせて頂きたいと思います。これは座談会ではなく面談会、一対一が基本になりますので、他の方が質問されている時にはご静粛にするよう、宜しくお願い致します。では、アルク大臣を拍手でお迎え下さい」
わーぱちぱちぱち。
顔で笑って心で大絶叫して。
忘れもしないよコイツの顔は。
人懐っこそうな笑みを浮かべているけど、問答無用に理不尽に、土足で人の家に上がり込んで私を一太刀に伏すような奴なんだ。
コイツが現れてから私のペットライフは激変し、気付けば魔王とか呼ばれるようになり、世界征服なんざこれっぽっちも望んじゃいなかったのに私の大命題みたいになっちゃってさぁ。
悲しくて、怖くて、涙がぼろぼろ出てきちゃうよ。
あまり泣かないように歯を食いしばるけど、どうしても止まらない。
「あはは、感動で涙しちゃってる女の子もいるみたいだね。ありがとう、こっちまで嬉し涙が出ちゃいそうになるよ」
嬉しくありません、恐怖と悲しみと悔しさで泣いているんです。
「さて、感傷に浸りたいのですが多忙な身、さっそくですが面談会に入らさせて頂きたいと思います。異世界法務省特命担当大臣、上尾アルクになります。歩でも九マス進むことが出来るんだという父の謎持論により、私の名は『歩く』に『九』と書いて、アルクと命名されました。途中でト金にする方がほとんどだと思いますけどね」
付き添いの人たちが乾いた笑いをすると、面談会の面々も釣られて笑い始める。
だけど、笑ってなんかいられるか、声を聴くだけで身体が震えちゃうし、涙が出るんだ。
「アズさん、大丈夫?」
「ご、ご、ごめ、きき、急に涙っ、出てきちゃって」
「いいですよ、私が側にいますからね」
「う、う、うん」
ぎゅって抱き締められて、ようやく落ち着くことが出来た。
千祢里の胸の中で深呼吸すること三回、いい香りで温かくて、優しくて。
「そこの女の子も大丈夫そうかな? 無理そうだったら直ぐに言って下さいね。では、質問を受け付けたいと思います。私が箱の中の球を取り出しますから、そこに書かれた番号の人が質問するようお願いしますね」
箱の中には確かに三十個の球が入っているけど、多分作為的にしてるだろうね。
外で糾弾してた人達は選ばれないし、質問してくる内容も当たり障りないのばかり。
千祢里に抱き締められたまま静かにしていると、ふいにアルクが私を見た。
「二十九番。お、そこの女の子だね! 君からの質問は絶対に受けたいと思ってたんだ。大丈夫? 立てるかい?」
選びやがったな、私を。
いいじゃないか、徹底的に質問してやんよ。




