②
「という訳なの、どうする?」
動画を観終えた私へと、リズが質問する。
リズだけじゃない、私の返答にドラリンも清聴する姿勢を取っているみたいだけど。
自慢じゃないけど、未だに人族が怖い。
千祢里はアンデッド族になってくれたからまだ心許せるけど、他の人族はダメだ。
ドラリンもキィ君もそう、みんな人族に殺されてる。
立ち向かうなんて言葉自体が間違いなんだって、リズも分かってると思うんだけど。
「とりあえず言えることは、このままだとこの山にも人族がやってくるという事ね」
「魔力暗転かけたし」
「そんなの通用しないって分かってるでしょ? 相手に神聖魔法使いがいる以上、魔力暗転はむしろ逆効果よ。ここに魔族いますよって言ってるようなものなの。探知されて除去されて、雪崩れ込むように人族がやってくるわよ? だから、私の方で杭を一本引っこ抜いてきたから」
ぽいって出された杭は、先月から頑張って埋め込んだばかりものだ。
黙ったまま杭を見ていると、察したのかドラリンが片付けてくれた。
「……せっかく頑張ったのに」
「過程よりも結果でしょ? まぁ、ここにはネット環境皆無だから、しょうがないと思うけど。それよりも落ち込んでる暇なんてないわよ? 先の質問の答えがまだだけど、どうする?」
「どうするも何も、出来ることなんて何もないでしょ。何もしない、静観する、これが一番なんじゃないの?」
「甘い!」
バンッ!
「そんな、机叩かなくても」
「甘い! 考えが甘すぎる! ロードメリアの世界と同じ事をして、同じ結果になったらどうするの! また皆を失うつもり⁉」
「だって、戦力が違いすぎるよ。今の私は甲殻族じゃないし、人族に毛が生えた程度の事しか出来ないし、ドラリンだってキィ君だって、人族を前にしたら戦うよりも前に恐怖で動けないと思うよ? 攻撃されたら受け入れるしかない、でも、それを避けるためには逃げ続けるしかないじゃない……怖いのはもう嫌なの、痛いのも、全部嫌だよ……」
胸が張り裂けそうになる、死の恐怖が植えつけられすぎて、何にも出来ない。
今は反省して山にこもって魔物と生きてるだけだよ? それすらも許されないの?
じゃあもう何もしない、一人で洞窟の中で生きていくから、もう関与しないで欲しい。
「そうだ、地下帝国とか作ればいいんじゃないかな。そこで魔物とだけ生きていけば、それで」
「無駄よ、人族にはバンカーバスターっていう武器があるの。地下ごと爆破されておしまいね」
何それカッコいい……じゃなかった。地下もダメってこと?
空には戦闘機がいたし、地上は自然が無くなるぐらい人族で制圧されてるのに?
「どこにも行き場所がないって、理解した? 逃げるだけ無駄なのよ。人族の科学力は私達の想像を遥かに凌駕してる。空の遥か彼方上空、宇宙から監視してるぐらいなんだからね」
「う、うちゅ……う?」
「言葉を理解しなくてもいい、理解すべきは行動しなくてはいけないということ。こうして私達が分離しているのも、ある意味良かったのかもしれないわね。分離していなかったら、ここまでの情報収集は出来てなかったから。私だって、本当は引き籠りたいのを必死に頑張ってるんだからね?」
「リズ……ふえええぇぇ」
「私だって泣きたいわよ、ばかアズ」
★
「醜態を晒しました……」
「別に、気にしなくていいわよ。私も休憩できたし」
「……え? さっき入れ替わってたの?」
という事は、私は千祢里の胸の中で泣いてたってこと?
優しいなぁ千祢里、アンデッド族になった子はみんな優しい。
「みんなアンデッド族になっちゃえばいいのに」
「それって人類滅亡って意味だからね?」
「無理かぁ……前に調べたら八十億とか書いてあったもんね」
「そ、いずれは滅亡するだろうけど、気の遠くなるような先の話ね」
どうやってそんなに増えたんだよ人族。
雌雄ニコイチで増えるんだから、いずれ減るんじゃないのかよ。
なんて言ってても、現実問題として人類滅亡はあり得ないし。
私達が助かる道……それは、待ってても手に入らないもの。
だとしたら、動くしかない。
「それじゃあさ、リズ」
「……思いついた?」
「もう、先に思いついてるんなら教えてくれればいいのに」
「過程って大事だから。それがなかったら情熱はついてこないでしょ?」
過程よりも結果って言った口が何を言う。でも、情熱か。
確かに、それがなかったら頑張ろうって気にならないかも。
「意地悪だなぁ、でも、さすが私。それじゃ行こっか」
「ええ、敵を知り、己を知らば、百戦危うからず。という言葉もあるみたいだしね」
「何それ?」
「孫氏の兵法っていう、勝利に必要な事柄が書かれた書物の一節よ。今度印刷してきてあげるからね」
「へぇ……なんかリズ、人族の暮らしに完全に慣れた感じだね」
「思っていた以上に便利よ? 人族も悪くないって、最近感じてるし」
そんなもんなのかな? でもそれは、リズの肉体が人族だからってのもありそうだけど。
私の肉体には角があるからね、こればっかりはどうにも出来ない。
オーガ族の特徴として、角は弱点であることが多いんだ。
折れたりしたら、多分死ぬ。
死ぬのは嫌だから、絶対に守らないと。
「あ、でもその前に、フーちゃんの赤ちゃん見させてよ」
「ああ、そうだったね。超可愛いよ、ウリ坊って言うらしいんだけど」
「ウリ坊? 猪なのに名前が変わるんだ、変なの」
★
「きゃあああああああああああああああああぁ! なにこの可愛いの! え、うそ、可愛いいいいぃ! アズさん、この子、抱いていいの⁉ あ、ぺろぺろしてるんでちゅかー⁉ いいでちゅよー! ぺろぺろちまちょうねー! わああああああ可愛い、本当に可愛い! ウリウリウリウリウリしてるー! きゃああああああああああ!」
フーちゃんが産んだ赤ちゃんを見た瞬間に、リズは奥へと強制的に引っ込み、千祢里が表へと飛び出してきた。止まらない可愛いはウリ坊たちが怖がってしまう程だったけど、フーちゃんが頑張ったおかげか、ウリ坊たちは逃げる事はせずに必死に千祢里の相手をしてくれていた。
健気だね、生まれてまだ一か月なのに。
あくまで主導権は千祢里にあるんだなって、改めて認識させてもらったよ。
そして、私達は出発する事となった。
勇者アルクがいる、異世界法務省という場所を目指して。




