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人間不信のマオウ様、世界を救う  作者: 書峰颯
With love and happiness
29/53

 千祢里を蘇生させてから三か月が経過した。

 既に季節は秋、十月の山々は紅葉で燃えるような赤に染まっている。


 暑さがまだほのかに残るけど、モグタンの冷却魔法が必要なほどではない。

 そんな季節なのに、私とドラリンは汗だくになりながら、何本もの杭を打ち込んでいた。 


 親指と人差し指の輪っかにした程の太さに、三十センチほどの長さの木の杭。

 それを完全に地中に埋め込むまで、せっせと打ち込み続ける。


「よいしょ! っと。ふぅ、こんなもんかな」

「そうでございますね。大変お疲れ様でしたアズモンデオ様、こちら栄養補給にどうぞ」

「ん、ありがと。――――、あ、これ美味しいね! 瑞々しくて甘い!」

「サルナシという果物でございます。調べた所ちょうど時期との事で、このドラリン、アズモンデオ様の為に収穫して参りました」


 緑色の小さい果物、サルナシっていうんだ。

 え、これめっちゃ美味しい、何個でも食べれちゃうかも。

 

「他にもアケビという果物も収穫して参りましたが、こちら――」

「分かってるって、ドラリンが採ってきたんなら美味しいんでしょ? 皮をむいて……なんか、色が白くて変な形だけど、いっただっきまーす!」


 もにゅんとした食感に、中にはゴロゴロとした塊の粒が沢山入ってる。

 粒は硬いけど、口の中で弾ける甘味が、甘味が凄い。

 これって硬いのもチョコみたいになったりするのかな?

 ちょっとかじってみようかな。


「え! 苦い! なにこれ! 粒噛んだらめっちゃ苦い! え、ムリ、ダメこれ!」


 アケビってこんなに苦いの⁉ 周りの白いのは甘かったけど、これは無理だ!


「ご説明が遅れてしまい申し訳ございません、アケビは白い部分のみを食し、種の部分はこう、吐き出してしまうものなのでございます」

「ぺっぺっぺ、あ、やっぱり? ぺっぺ、そうだと思った。ぺっぺ」

「ふふっ、左様でございますね。では、アズモンデオ様」

「うん、ちゃっちゃとやって城に帰ろうか」


 サルナシで口直しをしてと。

 この山を囲むように打ち込んだ杭には、私の魔力が少しだけ注入してある。

 杭と杭の間はきっちり百メートル間隔、魔力の影響がきちんと伝わる範囲だ。

 むん、っと両手を合わせて、全身の魔力を胸の中心部へと集中させる。


『魔力暗転』


 杭から杭へと黒い光が走り、それが山を囲んでいく。

 囲み終わるとそれぞれが天へと舞い上がり、中心部分で一つに交わり球体を描いた。


「これで大丈夫かな」

「大変見事な大魔法でございます、このドラリン、感服いたしました」

「人族に見つかったら大変だしね。せっかくフーちゃんたちにも子供が生まれたんだし、この山ぐらいは自由に遊ばせてあげたいじゃん」


 夏の終わりに出産した猪のフーちゃん。

 ドラリンが調べたら、普通猪は一月に出産するはずなんだとか。


 魔物にしちゃったから、繁殖性能が強化されたのかも?

 どちらにせよ、生まれてきた子供たちには頭に三本の角が生えているし。

 立派な魔物として成長していくのは間違いない。

 私達に出来る事は、きちんとしてあげないと。



「こんにちは、アズさん」

「あ、千祢里さん、来てたんだ」

「リズさんがどうしても行きたいって言うので、キィ君にお願いしてここまで来ちゃいました」


 城でくつろいでいたところにやってきた千祢里さん。

 蘇生してから結構大変だったみたいだけど、最近はそうでもないらしい。


 完全に死んでからの復活だったらもっと大ニュースになってただろうけど、死亡直後に蘇生させたからかな? なんにしても、私達があまり表に出ない様になるのならば、それに越したことはない。

  

 ドラリンが用意した果汁百パーセントのジュースを一口飲んでから、千祢里は静かに目を閉じる。


「じゃあ、リズさんに変わりますね」

 

 基本、私達は連絡を取り合っていない。

 会うだけでも危険だと判断したからだ。


 異世界新法、これは間違いなく私達を害悪とみなしている。

 人族の顕著な所だ、自分達に少しでも害をなす生き物は全力で排除しようとする。

 内容を熟知すればするほど、怒りしか込み上げてこないよ。


「やぁ、久しぶりアズ。立派な魔力暗転、いや、魔力結界というべきかな。千祢里の身体越しに見ていると認識阻害されてしまって、ここにあるって思えなかったよ」

「ありがと、フーちゃんに子供が出来たからね、守ってあげないとって思ってさ」

「そうなんだ、後で観察させて貰おうかな」


 紋様を顔に浮かべたリズは、ふぅ、と軽く息を吐いた。

 

「結構大変な感じ?」

「ボチボチね。今月から施行された異世界新法のせいで、武器を所持した人族が沢山いてさ。千祢里の中に隠れてはいるものの、生きた心地が全然しないよ」

「……怖いもんね、人族」

「また殺されるかもって思うと、本当にね。千祢里にはずっと感謝してる、私のことを隠し通してくれているんだからね。……さてと、本題に入らさせて貰おうかな。わざわざ危険を冒してまで、ここに世間話をしに来た訳じゃないからさ」


 トンッ、と置かれたもの、それは一台のスマートフォンだった。

 

「電波、多分入らないと思うけど」

「大丈夫、電波なくても観れる様にダウンロードしてあるから」


 ふぅん、よく分からないけど。  


「前に、楓子様と一緒に過ごしていた時に、異世界の男が映っていたの、覚えてる?」

「もちろん覚えてるよ。でも、あの後どこを調べても動画は消えちゃってたけど」

「見つけたんだ、あの男の動画……っていうか、最新のが投稿されてたよ」


 リズが画面をタップすると、あの時の男が映し出される。

 銀の鎧に目にかかる黒い髪、私を叫びながら斬り殺してきた人族の男。

 目にした瞬間に全身が寒気を襲って、思わず二の腕をさする。

 

『皆様、初めまして、私、異世界ロードメリアで勇者をやっておりました、上尾(うえお)歩九(あるく)と申します。今回、國起(くにおこし)総理大臣より、異世界新法特命担当大臣を拝命しました事を、ここにご報告いたします』


 特命担当大臣? 異世界で私を殺したことで出世したって事なのかな。


『世界中に魔族や魔物の被害が多数発生しているとのご報告を受けるたび、自分の事の様に胸が苦しくなる思いです。異世界新法は、こうした魔族被害者の救済を目的として制定されました。魔族、魔物は、基本的に人に懐いたりはしません。殺し、奪い、喰らうことで奴らは生きています。野生の動物だと思って行動しないで下さい。奴等の牙や爪、性格は常に狡猾であり、残虐性に満ちています。見つけ次第、緊急ダイヤルへと連絡してください。内容によっては、私達の仲間であるエルフ族の聖女、カナディ・リリィの転移魔法により、即座に駆けつけます』


 神聖魔法の使い手、エルフだったのか。

 魔族と人族の間、亜族のくせに、なぜか人族に懐いてるんだよね。

 しかもあの感じ、純粋なエルフじゃなくて人族とのハーフかな?

 

『数か月前に、京都の五重塔が倒壊した事件がありました。あの規模の魔族になると、私の仲間であるドド=ディゴール、天才魔導士である彼が派遣されます。既にあの魔物も彼によって駆逐されましたが、どこからあの規模の魔物が出現したのか、定かではありません。まだまだ魔族による攻撃は続くものと思われます。この動画をご覧の皆様、遠慮することなく我々を頼って下さい、私は、異世界で勇者と呼ばれておりました。この世界でも、勇者でありたいと思います』


 いたね、そういえば私を攻撃した時に、あの男も。

 ドド=ディゴール、カナディ・リリィ、上尾アルクか。

 コイツ等にだけは会わないように注意しないと。


『最後に、皆さんにお願いがございます』


 ……なにかな?


『私達の世界には、魔王が存在しておりました。名を、魔王アズモンデオといいます。数多の野生の動物を魔物へと変貌させ、魔族をより強化して世界征服をたくらむ最強最悪の魔王です。異世界で奴は倒したはずですが、もしかしたら、昨今の魔物の騒動の全てに奴が絡んでいる可能性があります。昆虫を大きくしたような甲殻族の姿をした魔物、もしくは野生の動物が魔物化した等々、魔王アズモンデオに関わる情報が少しでもありましたら、私達、異世界法務省までご連絡を、宜しくお願い致します。皆が望む世界平和のために、僕達は全力で戦い続けます!』


 おいおいおいおいおいおい、なに私のせいにしてるんだよ。

 ロードメリアじゃ確かに私が原因だったかもしれないけど、この世界の事は知らないよ?

 これじゃ、この世界でも私、魔王じゃん。……え、まさか、また殺される?

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