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人間不信のマオウ様、世界を救う  作者: 書峰颯
Diseases that lead to death
25/53

 最初は母親、その一時間後に父親、その三十分後に真喜納が部屋へと走りこんできた。

 病院の看護師たちも声を掛けていたり、医師が色々としているみたいだけど。

 そもそもが緩和ケア病棟なんだ、彼らの全てが治療を目的としていない。

 

「千祢里、千祢里! おい、千祢里、嘘だろおい!」


 真喜納の大きな声と、母親の泣き叫ぶ声、それを支える父親の涙。

 その後も千祢里の親族とおぼしき人族が集まり、彼女の手を握り涙を流す。

 親戚、親、友達、恋人、敵なんか一人もいない。 

 これが人族の死か、私なんかとは大違いだね。


「呼吸が、千祢里、頑張れよ、もっと、ほら、動けって、脈とかなぁ、千祢里」

 

 口だけがパクパクしてる、そしてやせ細った首筋の血管だけが静かに動く状態。 

 他の人には見えないんだよね、千祢里の魂は、今この部屋の天井にあるのに。


『死者蘇生の事を、真喜納君には伝えないで欲しい』


 初めて千祢里にそう言われた時は、理由が分からなかった。

 周囲に一人でも味方がいたほうが、蘇生した後も楽なのに。


『アズさんの話を聞くと、絶対に失敗しないって言ってたけど。もし失敗しちゃったら、真喜納君、絶対に貴女を恨んじゃうから。真喜納君だけじゃない、他の人達も皆で貴女を恨んで憎んでしまう……そうなってしまったら、私、死んでも死にきれないから』


 どこまでいっても、他人を気遣う生き物なんだね。

 そんなの、一から十まで私の責任なんだから、千祢里が気にする必要なんかないのに。

 だからでしょ? 魂になったのに、そんな心配そうな顔をしているのは。


 トク…………トク…………と動いていた脈が、静かにその役目を終えようとしていた。

 微かに動いていた千祢里の口の動きもなくなると、願いの塊が静寂となって部屋を支配する。

 皆が受け入れたくない事実を、嫌でも受け入れなくてはいけない時が、無慈悲にやってきた。


「……止まっ、た? 千祢里、おい、千祢里……」

「いいの、真喜納君、もういいのっ、千祢里は頑張った。うぐっ、本当にっイイ子なんだから」

「うそだろ、千祢里、ちね……なんで、なんでだよ、なんで千祢里が、う、うっっぐ、ううぅ、うわあああああああああああああああああああああああぁッッ!!!!」


 慟哭、まさにその言葉通りに泣き叫ぶ真喜納は、千祢里を心の底から愛していたのだろう。

 真喜納の心の中から忘れられてもいいと、以前千祢里は言っていたけど。

 バカだね、この男の中から、千祢里が消えるはずがないじゃないか。

 二人の人生で何があったのかなんて、私には知る由もない。

 

 でも……真喜納、私を図書館で見つけた事は、とても幸運な出来事だったね。

 私はね、手の届く範囲にいる者には、いとも簡単に手を差し出してしまう愚か者なんだよ。 

 それが原因で、身を滅ぼしたにも関わらずね。


 千祢里の魂が完全に肉体から離れたのを見届けて、私は両の手をそっと音もなく合わせる。



『魔力反魂』


 

 途端、天井を漂っていた千祢里の魂が七色の光と共に、彼女の肉体へと引き戻される。

 空に漂う『魔』を使ってはいけない、その為に何日間か魔力を温存したんだからね。

 私の身体に宿る魔力だけで、千祢里を蘇生させる。

 

「……真喜納君、お医者さんが診断するから」

「うっ、ひぐっ、うううううううううぅっ、千祢里、千祢里……どうして、うううっ、俺、お前と一緒に生きていたかった、お前とだけだったのに、なんで、ちくしょう、ちくしょうっっ……」


 ヤバイ、医師の診断が始まってしまう。

 急がないと、でも、魔力反魂、なんか上手くいってない。

 やっぱり、異世界の肉体だからかな? 魔力そのものに対する反発が凄い。

 このままじゃダメだ、肉体を少しでも私達の世界に近づけないと。

 

「す、すっ、すません、私にも」

「アズちゃん……ええ、貴女も最近ずっと一緒だったものね。こんなに顔を真っ青にしてくれて、ありがとうね、私達の娘のために、本当にありがとう……うっ、うううううぅ」


 良かった、面識がなかったら部屋から追い出されてたかも。

 冷たくなった手を握り、見つからない様に爪を刺し、直接私の魔力を注入する。

 ごめんね、やっぱり、そのままの千祢里での死者蘇生が出来ないかも。

 でも、翼が生えてもいいって言ってたもんね、だから、怒らないでね。


「七月十五日、午後二時十四分、ご臨終です」


 死の宣告、それが行われ皆が頭を下げる時でも、私だけは千祢里の手を握り続ける。

 それは傍から見たら、神様へのお祈りに見えたのかもしれない。


 目を閉じて、必死に自分の魔力を千祢里へと注ぎ続ける。

 止まってしまった血流を無理に動かし、機能不全を起こしている臓器を躍動させる。


 個を整え、全と成す。


 千祢里が千祢里であるままの状態での蘇生。

 彼女の全身を私の魔力で補っての蘇生。

 それはつまり、長月千祢里が、私の仲間になる事を意味する。


「先生、本当に、千祢里をありがとうございました」

  

 医師が皆の前で頭を下げ、看護師たちと共に部屋を後にしようとした次の瞬間。


「わああああああぁ! っ、はっ、はっ、はっ、はっ…………うっ、げ、ゲホッ! ごほ!」


 完全に死んでいたはずの長月千祢里の目が開き、勢いよく上体を起こした。

 ろくに呼吸もちゃんと出来ていなかったのに、急に吸い込んだからむせちゃったみたい。

 背中をトントンしてあげたら、しばらくして治まったみたいだけど。


「そ、んな、バカな」


 医者が佇み、ポツリと呟く。

 良かった、まだ死亡診断書、書いてないよね。


 心配してた病魔の苦痛も、蘇生時に霧散したみたいだし。

 今回の死者蘇生、魔力反魂も成功ってことかな。


「千祢里、千祢里……お前」

「ごほっ、ごほっ、真っ喜納君、私」

「千祢里、千祢っ里……おおおおぉ、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 死んでても生きてても泣くんだねって思ったけど、今はそのままにしておいてあげよう。

 愛する人を抱き締めて号泣する真喜納に対して、死者蘇生だなんだとか伝わらなそうだし。

 何より、他の人族の目があるんだ。

 ここはこの世界の神様が起こした奇跡って奴にしておこう。

 その方が私としても気が楽だし、何よりもう、魔力尽きちゃったしね。

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