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人間不信のマオウ様、世界を救う  作者: 書峰颯
Diseases that lead to death
22/53

「あら、この前の。なに? やっぱり真喜納君、アズちゃんとお付き合いしてるの?」

「違うって言ってるだろ、この子が千祢里に会いたいって言うから、連れて来たんだよ」


 先日大泣きしていたのが嘘みたいに、千祢里さんは笑顔で私を迎え入れてくれた。 


「この前は泣いちゃってごめんね、でも、もう大丈夫だから」

「いえ、ダイジョブ、です」


 この部屋、緩和ケア病棟って呼ばれているらしい。 

 全ての治療を諦め、苦痛を和らげるためだけにある部屋。

 死を受け入れ、それまでの生をありったけの幸福で享受するための部屋。


 強気に会話しているけど、千祢里さんの顔色は土気色を増している。

 病状の悪化、それは逃れる事が出来ないレベルなのは、ここにいる人族は皆が知る所なのに。

 

「……どうして、笑顔になれるん、ですか」


 理解できない、私には死とは恐怖でしかない。

 間近に迫った死を笑顔で迎え入れる事なんて、私には出来ないよ。

 もし立場が逆だったら、それこそ死に物狂いで何とかしようと足搔く。

 足搔いて足搔いて、どうにもならないってなったのなら、多分、死ぬまで泣き叫ぶ。

 だって、それ以上に死って怖いものだから。

 受け入れたくないのに、だから私はこうやって転生した今も、死を恐れているのに。


「真喜納君、ちょっとだけアズちゃんと二人っきりにさせて貰えるかな?」

「……分かった、あまり興奮するなよ?」

「大丈夫だよ、それよりも目のクマが凄いぞ? 真喜納君こそ少しくらい寝ていきなよ」


 「わかったよ」って言いながら、真喜納はこの部屋を後にする。

 二人きりになって、とても居心地が悪い。

 肘を抱えるようにして視線を逸らす。  

 

「そんなとこに立ってないで、こっちにおいでよ」


 どうして笑顔になれるの? 今だって辛いんじゃないの?

 だって、千祢里は死んじゃうんだよ? 逃げられるのなら、逃げたいんじゃないの?


「お見舞いにね、お菓子とか前は貰ってたんだけど、もう食べることも出来ないから。アズちゃん、良かったら食べてってよ」

「……別に、いらなっです」

「そう? 物を美味しく食べれるって、幸せなことだよ? 人が良くなるって書いて食べるなんだから、美味しく食べれる内に沢山食べときなね」

 

 千祢里の視線の先には、沢山のお菓子と手紙が置いてある。

 この人族の死を悲しむ気持ち、慈しむ気持ちが、そこには溢れているんだ。


「千祢里は、死ぬっが、怖く、ないの?」

「……そういうの、死を目前にした人に聞く?」

「ご、ごめ、なさい」


 怒られる、そう思ったけど、千祢里は笑窪を作ってほほ笑むんだ。


「あは、いいよ、ちょっとイジメたくなっただけだから。そうね、死ぬのが怖くないかって言ったら、それは怖いに決まってる。でもね、ここに至るまでに色々と手を尽くしてきたから……それこそ、死者蘇生についてだって調べたこともあったし」

「そう、なんですか」

「あはは、真喜納も一緒になって調べてくれたりしてさ。あの男、あんなにイイ奴なのに、私なんかの為に必死になっちゃって。今日だって図書館で勉強して、私の病気について一生懸命調べてくれたりもしたみたいだけど。そんなの、お医者さんたちがとっくのとうに済ませてるに決まってるのにね」

「……受け入れてるんですか、自分が死ぬことを」


 きゅっと口端を結び、強めに問いかける。

 雰囲気を感じ取ったのか、千祢里さんも表情を変えた。


「そんなの、出来る訳がないでしょ?」

「だったら、どうして笑えるんですか」

「笑うしかないからよ、そうじゃないと真喜納君が安心できない」

「安心させてどうするんですか、千祢里さんは死んでしまうんですよ」

「残す人の幸せを願うのが、先立つ者の役目でしょ」

「役目? 本心は違うんですよね」

「当然でしょ、私だって、私だって死にたくなんかない」

「だったら、なんでそれを叫ばないんですか。死にたくないって言えばいいじゃないですか」

「言える訳ないよ、真喜納がどんな顔をするか」

「どうして甘えないんですか、どうして泣きつかないんですか」

「だって、そんな事をしたって、何も変わらないんだよ? 私の未来は、何も変わらないの」

「変わらないからこそ、自分を曝け出すべきなんじゃないんですか」

「誰も得しない、私なんか誰の心にも残らない方がいいんだよ」

「千祢里さんはそれでいんですか。将来、真喜納さんの心の中からも貴女が消え去ってしまっても、それでいいって言うんですか。だとしたら、それは一体誰への愛なんですか。なぜそんなにしてまで自分を殺せるんですか、私には理解できない。全力で、何がなんでも誰かの心に残りたいと思う。思わせたい、私は、そう思ったから(・・・・・・・)


 静まり返る病室で、千祢里さんは瞳を歪め、涙を浮かべた顔で私を見る。

 

「そう思ったって……貴女」

「私なら、差し出された手を何がなんでも掴みます」

「……それって、死者蘇生のことを言ってるの? 出来る訳ないじゃない、そんなの」

「できます、私には可能です」

「ふざけたことを言わないで、そんな事が出来る人間がこの世のどこにいるっていうの? ただの一度だって聞いたことも見たこともない、ぬか喜びなのよ、無駄に期待させないでよ、もう全部諦めたんだから、私はもう、全部」

「千祢里さん」


 それまで被っていた帽子へと、私は指をかける。

 楓子様が被れって言った帽子、これは人族にあってはならないモノを隠すためのもの。


「私は、人間じゃありません」


 角、これこそが、私が人族ではないという証明。

 

「死者蘇生、受ける気はありますか」

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