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人間不信のマオウ様、世界を救う  作者: 書峰颯
Diseases that lead to death
19/53

 なんで、なんで本を借りようとしただけで心配されないといけないの。

 確かに本って貴重だけど、その内容だけでこんなになっちゃうもん?


「自殺はね、死んだ後も同じ場所で何回も苦しむことになるの。貴女はまだ若いし、こんなに綺麗で可愛いんだから、自殺するなんてもったいないわよ?」


 しませんよ?

 タダでさえ一回死んでめちゃくちゃ痛かったんですから、二度も味わいたくないですよ?

 

「何があったのか私に言ってみて? なんでも相談に乗るから。私、貴女の力になりたいの」


 だったらその本を私に貸して下さい。

 そして家に帰らさせて下さい。

 人族への恐怖心が魂に刻まれてる私からすると、この場にいるだけで怖くてしょうがないの。

  

「だ、だだだだっだ、だから、私、死ななって」

「そんなにどもらせて、心に傷を負っているのね」


 正解です。

 でも不正解です。

 私は貴女に対して恐怖しているのです。 

 ですから早く解放して下さい。


「どうしました沙織さん?」

真喜納(まきな)君、ちょうど良かった。この子、借りてく本がちょっと心配で」

「なになに……? あー、なるほど、そういう意味ですか」


 ふぁ、図書館の椅子に座って説教されてたら、知らない人族の男がしゃしゃり出てきたぞ。

 やめてよ、怖いんだから、近くに寄らないで。


「君、名前は?」

「な、なまっ? え、えっと……」

「ああ、言いたくなければそれでもいい。別に俺も深入りしようとは思ってないから。ただ、知り合いに大変な子がいてな、お前さんみたいに命を粗末にしようとしているのを見かけると、ちょっと黙ってられないんだわ」


 【いのちだいじに】をモットーにしてますけど?

 誰よりも死にたくないって思ってますけど?


 隣に座るこの男、身体が大きくて、怖い。

 それに人族の男を見ると、どうしても私を殺した男を思い出してしまう。


 分かるんだ、殺さないって、手をだしたりしないって。

 それでもダメ、何も喋れなくなっちゃう。


「沈黙か……言いたくない気持ちは分かる。俺は男だからっていうので喋れない事もあるだろうし。ここはやっぱり同性に頼るべきだよな」

「ど、どど、ど」

「沙織さん、この子ちょっと借りてきますね」

千祢里(ちねり)さんのところですか?」

「ええ、俺も千祢里のとこに行く時間なので、ちょうどいいから彼女から命についてご教授してもらおうかなと。それに、俺ばっかじゃなくてこういう子とのふれあいも、千祢里には必要だと思いますから」


 誰? 千祢里? え、なんで勝手に私の手を掴むの? え、これどこに行くの?

 ちょ、ちょっと、私、本借りて帰りたいんですが⁉ 



 怖くて何も言えないままに、どこかに連れてこられてしまった。

 結局本も借りれてないし、なんの目的も達成できてないのに。


 それにしても、一体いつまで私の腕を掴んでるつもりなのかな。

 いい加減離して欲しいんだけど。


「ついたぞ、ここだ」

「え、え、えっと、その」

「ここにいる千祢里って女の子に会って、命の大切さを学べばいい。大病を患っちゃいるが、今日も元気みたいだし。きっとお前さんにとっても、有意義な時間になると思うぜ?」

「……べ、別に、私、そんなの望んでなんか、ない、です」


 精一杯の反論、だけど、この人族の男にはどういう風に聞こえたんだろう。

 私よりも一回り大きい身体に、髪を逆立た髪型の男は、眉根を寄せて私を睨む。


「別に放置しても構わねえのかもしれねえけどよ、知っちまったもんは見逃せねぇんだ。申し訳ねぇがアンタの望む望まないに関わらず、千祢里には会ってもらうぜ。アイツもきっとそういうのは見逃せないって言うだろうしな」


 ダメだー、私の言うことなんか何も聞いてくれない。

 見逃すもなにも、私これっぽっちも死ぬつもりなんてないよ?

 でも、何を言っても無駄なら、とっととお話聞いて解放される方がいいのかも。 


 相も変わらず腕を引っ張られるままに、真っ白い建物の中へ。

 なんか、この建物変な臭いがする。

 沢山の人族がいるけど、身体に管を刺してたり、白い布で巻いてたり。

 

 ポーン、って音がする変な扉に入ると、男が中のスイッチを操作して扉が閉まる。

 い、密室? やだな、怖いな……って思ってたら、身体が重力を感じる。 


「凄い、これ、上にあがってる」

「当然だろ、エレベーターなんだからよ」

「え、エレ……す、すっません」

「いちいち謝らない。そういった姿勢がイジメ加害者から喜ばれるんだ。死にたくなる程にキツイんだろうけど、死に逃げるのはダメだ。死ぬぐらいなら家に引きこもってもいいし、俺達みたいな大人に頼ってもいい。自分には選択肢がいっぱいあるってこと、忘れないでくれよな」

 

 イジメ加害者? なんの話だろう。全然分からないや。

 死ぬことが逃げとか、死にたいなんてこれっぽっちも考えたことないけど。

 でも、人族に剣を向けられた時は、生きることを諦めちゃってたし。

 そう考えると、逃げた事になるのかな……ううん。


「千祢里、入るぞ」

「うん、大丈夫だよ」


 扉一枚挟んで、鈴を転がすような声が聞こえてきた。

 人族の女、それもまだ若い……とは言っても、この真喜納って男と同じくらいの年齢かな。 


 扉の前に書かれたネームプレートには『長月千祢里』って書いてある。

 読めないけど、多分これがこの声の主なんだろう。


「あら、真喜納君が女の子連れてくるなんて、珍しいじゃない」

「ちょっと訳アリでな、千祢里からも説得してもらえたら、助かると思ってさ」

「説得って……何を?」

「あんまり大きな声じゃ言えないんだけど」


 明るくて暖かい部屋、ベッドが二つ置かれているけど、この部屋には千祢里って子しかいないみたい。帽子を被って、随分とやせ細った感じ。大病を患っているって言ってたっけ? 確かに生気をあまり感じないけど……でも、そんな感じは微塵も見せてこないな。


「……と、いう訳なんだけどさ」

「なんだ、てっきり私に愛想つかして、新しい彼女連れてきたかと思ったのに」

「そんな訳ねぇだろ、俺の恋人はずっと千祢里一人だ」

「それじゃ、何十年も一人になっちゃうよ? いいじゃない、この子カワイイし」

「……いいから、とっとと説教してくれよ。俺、飲み物買ってくるからよ」


 私の肩をぽんと叩いて、真喜納って男が退室する。

 これから始まるのか、緊張で唾が上手く飲み込めない。


「そんな遠くにいる必要ないよ、病気が感染(うつ)ったりしないから」

「あ、あ、あ、え、えっと」

「そこの椅子、使っていいからね」


 そこの椅子というと、この小さい丸椅子でしょうか。

 うぅ、ヤダな、目の前に座ることになるじゃん。 


「貴女、お名前は?」


 座った途端に質問が始まった。

 大病を患う千祢里さん、か。

 

 細い切れ目だけど、目じりが下がってるから優しい感じに見える。

 近くで見ると、確かに肌色が他の人族と違って土気色をしているかも。

 やせ細った腕には管が通っていて、それと袋に入った液体が繋がっていて。


 多分、戦ったら私でも負けない。

 でも、それでも怖いって思うのは、しょうがない事なのかな。

 すぅっと息を吸い込んで、頑張るぞと自分を鼓舞する。 


「え、え、えっあ、えっと、あっあの、アズ、って、呼ばれて、ました」

「そうなんだ、アズさんって言うんだ。可愛い名前だね。もう紹介されちゃったけど、私は長月(ながつき)千祢里、千祢里って名前はあんまり聞いたことないと思うから、覚えやすいでしょ?」

「そっ、そう、ですね」

「それにしても……」


 言いながら、私のことを頭のてっぺんからつま先まで、きょろきょろと見回す。

 

「本当に貴女、可愛いね」

「……あっあざます」

「真喜納君が連れてきた時は、ついにこの時が来たかーって思っちゃったよ。でも、見た感じそんな風には見えないんだけどなぁ」

「そ、そんっな風、ですか?」

「うん、だって貴女、自殺志願者なんでしょ?」


 違うよ? これっぽっちも思ってないよ?

 言葉にするのが面倒だったから、首をフルフルと横に振る。


「あ、やっぱり? 全然見えないもんね。どうして真喜納君、そんな風に思っちゃったのかな」

「……た、多分、私が、借りよっとした本が、原因、かと」

「借りた本って、なんか死に関する本を借りてたんでしょ? 何か調べものしてたの?」

「え、え……えと、お盆に、ついて、です」

「お盆?」


 知っているはずなんだ、本にまで記されていて、ドラリンでも知ることが出来た言葉。

 お盆について調べるよりも、聞いた方が早いのかもしれない。

 そう考えて私は千祢里へと質問したのだけど。


「お盆って……どうしてまた」

「お、お盆は、しっ死者が天から降りてきて、復活する日だと、聞きまし、た。な、なので、死者蘇生に関わる何かが、分かればと、おもっおもったの、ですが」

「お盆で死者蘇生なんて、する訳ないじゃない」

「……え」


 思った以上に呆れたって顔をして、即答された。


「お盆は亡くなった人を敬う気持ちを表現するに過ぎないの。黄泉返(よみがえ)りなんて言葉もあるらしいけど、それはあくまで迷信に過ぎないし、実際に人が蘇る訳じゃないよ」

「そ、そう、なっですか」

「でも、蘇ったらいいよね。私も蘇ることが出来たら、まだまだ沢山したい事とかあったから。本当、どうしてこんな事になっちゃったのかな。半年前まで元気だったんだよ? なのにもう、何も食べる事も出来ないし、体中痛いし……どうしてかな」


 すん……っと、彼女を包む空気が変わった。

 瞳の輝きが消えて、私を見ないままに語り始める。


「私だって、もっと沢山生きたかった。大学だって中退したくなかった、車の運転だってしたかった。働いて両親に親孝行したかった、子供だって産みたかった、やりたい事だらけなのに、まだ、こんなのじゃ終われないのに、どうして……ねぇ、どうしてなの、私はなんで死ななきゃいけないの? そんなに悪いことしたのかな、全部謝るよ、死にたくない、死にたくないんだよ」

 

 何も言えないままに、千祢里の言葉に耳を傾ける。

 人族だって死にたくないんだ……なら、なんで私達魔族を当たり前のように殺せるのかな。


「真喜納君と、もっと一緒にいたかったよ……嫌だよ、一人だけ死ぬなんて。うっうううっ、……ひっく、…………うぅ…………うううううぅっ」


 なんでなの……かな。 

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