①
モグタンが仲間になってから、はや一か月。
予想以上に外は暑くなってるみたいだけど、モグタンのお陰で涼しい毎日だ。
ミニマムサイズに変化したモグタンのご飯は、地面の中にいるミミズや虫。
既に魔力注入を済ましているから逃げることもないし、適当に放牧させてるだけでOK。
しかもモグタン、部屋というよりも私に対して冷却魔法を使用してるみたいで、どこにいても涼しいままでいられる。こんなに快適になるなんて予想もしてなかった、モグタンの情報を仕入れてくれたドラリンにも感謝したいところなんだけど。
「暑いです、アズモンデオ様」
出会いが悪かったからか、ペット同士の嫉妬なのか。
モグタン、ドラリンにだけは絶対に冷却魔法を使おうとはしない。
コッフちゃんやフーちゃんにも使ってあげてるみたいなのに。
「キィ君みたいに成層圏まで行ってみれば? 中間くらいまで行けば暖かいらしいよ?」
「途中で凍り付きますよ、マイナス五十度はこの肉体でも少々厳しいです」
あ、そうなんだ。
ドラリンとキィ君は同じドラグル族みたいな感じだから、大丈夫かと思ったのに。
変なとこゴブリン族のままなんだね、メモしとこっと。
「それよりもアズモンデオ様、ここ最近、何の活動もなされていないご様子ですが」
「うん、別に焦る必要もないし、どこにも行きたくないし」
元々私は引き籠りなのだよ。
城から一歩も出ることなく、研究とペットと遊ぶことだけを考えて生きてきたからね。
それは人族の身体を得ても変わらない、ビバ引きこもり、外なんかクソくらえだ。
「そう思いまして、私、独自に調査をして参りました」
「最近どこかに行ってるな、とは思ってたけど。何を調査してたのさ?」
ドラリン、こほんと咳をしてから、一冊の本を取り出してきた。
「それは?」
「人族の慣例について著されたものになります。これによると来月、つまり八月のお盆と呼ばれる時期に、死者が天から帰ってくると記されておりました」
「……え、それ、マジ? この世界って死者が勝手に蘇るの?」
魔力反魂の使い手の私からすると、何もせずとも死者が蘇るなんて想像も出来ない。
生物が生命活動を停止すると、その肉体から魂が抜け出る。
その魂は人、魔物、動物、植物、全てが一度天へと上り、新たな媒体を求めて再度この世へと舞い降りてくるんだ。その際に魂濃度を調整するために、動物だったり人だったり振り分けられるのを、魔力反魂は強制的に元の媒体へと戻すことが基本の魔法になる。
その難易度は魔法界隈でも屈指と呼ばれ、場所によっては禁呪とまで呼ばれる魔法なのに。
それが、自然に発生するというのか、この世界は。
「この本には細かい事までは書かれておりません。ですのでアズモンデオ様、一度図書館へと足をお運びになり、ご自分の目で調べてみては如何でしょうか?」
「……図書館? 何それ」
「人族の叡智、本が多数収められた施設になります。私の風体では残念ながら侵入した段階で確保、場合によっては殺処分でしょうが、一度人族と暮らしていたというアズモンデオ様ならば、問題ないかと思われます故」
本が多数、ものすっごく気になるし、行ってみたい気もするけど。
でも、人族怖いし、またきょどっちゃうし、この部屋涼しいし。
「このままではいつかこの山も人族に襲われる可能性がございます。ここはアズモンデオ様のような人型の魔物を仲間にした方が良策であると、僭越ながらこのドラリン、進言いたします」
めんどくさい……とは言ってられないか。
ドラリンの言うことは正論だし、このままがずっと続くとは限らない。
なんて言ったって絶対に負けないと思っていた戦いに、一度負けてるんだもんね。
しょうがない、行ってみるかぁ。
人族の街とか、もう行きたくないって思ってたけど。
★
「あの、なんでついてきてるの?」
「ギリギリまでです、そろそろ離れますので」
「……そう、あと、この服装で本当に大丈夫なんでしょうね?」
「はい、私が調べた本によると、アズモンデオ様のような風体の人族は皆、そのような出で立ちでございました。とてもお似合いでございます。では、私はここまで。いってらっしゃいませ」
う~、本当に? なんか白いヒラヒラした服だし、下着透けて見えてるっぽいし。
下はやたら短いスカートって奴だし、靴は履きづらいローファーとかいうのだし。
第一、歩いてるだけでそこら辺の人族の男がジロジロ見てくるんだけど。
ついてきてくれたモグタンのお陰で涼しいけど、それ以上に視線が嫌で鳥肌が立っちゃうよ。
モグタンもリュックの中で窮屈だろうし、とっとと図書館に行って用事済ませよう。
図書館図書館……えっと、ドラリンの地図によると、この建物かな。
「……っと、自動ドアか」
未だに電気ってものが理解できない。
なんで勝手に扉が開くんだろう? この扉がウチの城にもあったら便利なのにな。
なんて、扉で感心してるのなんて、人族じゃないよね。
あくまで平常心を持って、目的の本を探さないと。
棚、棚、棚、どこまで行っても棚なんだけど。
本ってだけでも何千どころか何万冊あるのよ。
凄いね人族、これだけの本を書き残すとか、どれだけの労力を費やしてるんだろう。
多分、ここだけなんだろうね。
こんな重要施設を自由に出入りできるとか、私の世界じゃ考えられないな。
これだけの知恵があれば、あれだけの戦闘機が作れるようになるのか。
いつかは私も……って思うけど。
でもね、私まだ漢字がちゃんと読めないんだよね。
そもそも本が見つからない、えっと、確かドラリンがこんなこと言ってたな。
『死、殺、亡、この漢字が書かれている本を探すといいでしょう』
んー、結構あるんだけど、どうしよう。
どれを読めば八月の死者蘇生が書いてあるのかな。
え、ちょっと待って、あの人族、本を数冊手に持ってどこかに行くよ?
――あの、すいません、この本借りたいんですけど。
――はい、かしこまりました。そちらにタッチをお願いします。
――確認しました、返却は一週間後でお願いします。
えー! 凄い! この本って借りてっていいんだ!
じゃあこの本とこの本と、これとそれとあれも持ってっと。
大量の本を持って、カウンターへと向かう。
あの人族の女の所に行けば、借りられるんだよね。
ドキドキする、楓子様以来だね、人族と会話するの。
「す、すすっすす、すません! わ、わた、私もここ、この、この本っ借りたっですけど!」
「……え、あ、はい、えっと、あの、大丈夫ですか?」
「え、え、え、ええ、っと、な、なにっ、まずい、ですか?」
「ああ、いえ、なんか、借りる本が不穏なのが多かったのと、緊張しているみたでしたので。えっと、自殺完全マニュアルに、死んだらどうなるのか、殺したいほど憎い、死こそ幸福、亡骸を抱いて……悩みがあるなら相談に乗りますよ? 自殺は両親が悲しみます、高校生の間は大変かもしれませんが、いつかきっと良い事ありますから」
あれ? なんで心配されてるの?
え、ちょっと待って、色んな人族が私を見てるんですけど!?




