⑤
「誠に申し訳ございませんでしたアズモンデオ様、このドラリン、腹を切って詫びたいと思います」
「別にいいってそんなの、みんな無事だったんだし」
ドラリン、魔力切れで地中深く埋められていたのをいいことに、そのまま眠りについて魔力回復に専念したのだとか。
キィ君が大穴の外へとモグタンを連れ出した後、しばらくして叫び声と共に穴の中からドラリンが出てきた時は、心臓が止まるかと思ったけどね。
私はもう完全に魔力切れで動くことも出来なかったし、二体目がいたら絶対に無理だったし。
ほっと胸をなでおろした後、ドラリンの背で運ばれ大穴の外から出て、今に至る。
「それよりも、あの可愛いの、どうやって飼おうかな」
「……飼う、のですか? あの生き物を?」
「そうだよ? その為に頑張ったんじゃん」
モグタン、キィ君に掴まれながらもジタバタと暴れて何とかして逃げようとしてるんだけど、ドラグル族のキィ君の力から逃げられるはずもなく。
たまにキィ君が力を緩めるみたいで、その瞬間に地面の中に潜ろうとしては、お尻を掴まれて穴から引き釣り出されてたりと、さっきから私の背後が怪獣大決戦状態で、にぎやかでしょうがない。
「試してみたい事もあってさ、モグタンにはその実験台になって貰おうかなって思ってるんだ」
「試したいこと、で、ございますか?」
ちょっとは回復したみたいで、立ち上がって歩けるくらいにはなってきた。
んーって伸びをしながら、どったんばったん遊んでる二人を見やる。
「そ、ドラリンとキィ君は、元々異世界の魔物だった訳でしょ?」
「そうですございますね、異世界というか、元の世界と言いますか」
「だけど、コッフちゃんとフーちゃん、それにモグタンはこの世界の動物だったんだから、私達とは根本的に何かが違うと思うんだ。コッフちゃんとフーちゃんには私の魔力しか注入していない。対して、モグタンはこの世界の『魔』しか取り込んでいない状態なんだよね。だから」
「おお! この世界の『魔』を取り込んだモグタンに対し、アズモンデオ様の魔力を注入したらどうなるのか! このドラリンも興味というものが沸いて来ましたぞ!」
それ、私が言いたかったんだけど。
でもまぁ、それだけの知能がドラリンにあるって事だから、良しとするか。
「どうせならば景気良く、パーっと肉体が爆破するまで注入してはどうでしょうか! この巨体、食べるには量が多いやもしれませんが、それはそれは盛大に爆発するでしょうな!」
「……ドラリン、実はモグタンのこと恨んでる?」
「いえいえそんな! 一撃で地の底まで運ばれたことなんぞ、気にもしておりませんぞ!」
絶対気にしてんじゃん、尻尾ぶんぶん振ってるし。
「残念だけど、もしそうなる予兆を感じたら、私が媒介になって魔力放出させちゃうよ。爆破なんて可哀想だし、そんな悲しい思いは、もう誰にもさせたくないんだからさ」
本当なら一晩寝た方が完全回復できるんだけど。
そんな時間をかけてたら、人族に見つかるかもしれないしね。
「じゃあ、やってみようかな。キィ君、ちょっとだけモグタン押さえといて」
「キィ!」
ズンッって両方の足でモグタンの上に乗っかって、更に翼で羽ばたいて圧力をかけてる。
キィ君が全体重を掛けちゃったらモグタン死なない? って心配したけど、大丈夫そうね。
苦しそうだし、早くやってあげよう。
精神集中して、身体の中の魔力をモグタンに。
『魔力注入』
魔力と『魔』が合体した生き物は、ドラリンとキィ君の二体だけだ。
その二体も元々が魔界の生き物だし、そもそもが魔力に対して免疫があるものと考えられる。
だけど、二体とも元々の身体とはかけ離れた、違う魔物へと進化してしまった。
対して、モグタンは魔力に対して何の免疫もない、だからこそ『魔』がこんなにも顕著に発現してしまった可能性が高い。この世界の生き物は、魔力や『魔』の影響が強く反映される可能性がある……だとすると、私がこの魔力を注入したらモグタンは一体どうなってしまうのか。
過去、好奇心が私を殺してしまった。
だけど、これだけは死んでも変わらない。
研究して、モグタンを生かす道を見出す。
モグタンがこの巨体のままでいるとしたら、生きるだけでもどれだけの餌が必要になるのか。
否、キィ君みたいに姿を消せないモグタンが、人族に殺されないはずがない。
害獣に分類され、駆除される未来しか見いだせないじゃないか。
そんなの、可哀想すぎる。
お願いだから、この子にも未来を。
★
「しかし、魔力と『魔』の混合した結果がこんなになってしまうとは、予想外でした」
「そう? 私の中では想定内の出来事だったけど?」
「――、そうでございましたか、さすがは我が主、このドラリンの考え、遠く及ばず」
結局、『魔』によって支配された身体は、魔力によって相殺されるということが分かった。
私の魔力を注入されたモグタンの身体は光に包まれ、ドラリンの予想した通り爆発するの⁉ って一瞬は危惧したけど、そんな事はなくて。
段々と発光が収まっていくと、そこに残ったのは小さくてこじんまりした、けれど他は何も変わらない、鼻をピクピクさせたモグタンの姿だった。
真っ白い体毛に包まれて、氷のつぶてを天女の衣の様にまとう。
周囲の氷のつぶては、もう見えないくらいになっちゃったけど。
魔力探知をすればそこにあるのは分かるんだから、魔法も問題なく使えるはずだ。
「それに、これから暑くなるって人族の本に書いてあったじゃない? この子の今の能力なら、この部屋を涼しくすることぐらいなら出来そうだし」
「……おお、確かに。はっ、まさかアズモンデオ様、出発前にお言いになっていた、もう一つの目的とは」
にひひっと口の端を持ち上げて、私は小さくなったモグタンにキスをする。
私の魔力を注入されたペットは、主に絶対なる忠誠を誓うんだ。
「我が家には冷房がないからね。期待してるよ、モグタン」
ふわっと室内の温度が一~二℃下がった気がする。
今年の夏は快適に過ごせそうだね、良かった良かった。




