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 モグタンがその変化に気づいたのは、私が気配を消してから一分くらい経過した後のことだ。

 不思議だったんだろうね、それまでいたはずの獲物が、突然消えてしまったのだから。


 多分、モグタンは元々はこの世界の生き物だったのだろう。

 それがドラリンやキィ君にように突然変異し、この大きさになってしまった。

 

 だから、まだ魔力というものに慣れていない。

 突然自分が得た力の全てを理解しないままに、ここまで来てしまったんだ。


「モーグタン」


 あまり時間はない、早めに仕掛けないと。

 

「追いかけっこしよっか」


 やっぱり、モグタンは音で感知するタイプなんだ。

 声を聴いたモグタンは弧を描くように飛び上がり、私へと長い爪を伸ばす。


「すご、そんな攻撃も出来るんだね!」


 地面を、岩盤を簡単に抉ってしまう鋼鉄の爪は、多分触れるだけで私の命をもぎ取る。 

 だから、絶対に当たれない、何が何でもかわす。

 飛んで飛んで飛びまくって、モグタンの攻撃の全てをかわし続ける。


 コッ、コッ、という音、鼻を鳴らしているのかな?

 モグタン、その身を弓の様に引いて、後ろ脚にめちゃくちゃな力をため込んでいる。


「ほらほら、モグタンどうしたの! 私はここだよ!」


 声を聴き、天井から降り注ぐ霜で私を感知して、モグタンは私へと跳躍する。

 これを避けて、この子を外へと連れだす、それが第一段階だ。

 なのに。


「え?」


 ぎゅっと動かない身体。

 降り注いだ霜が蜘蛛の巣みたいに張り巡らされて、いつの間にか私の身体を拘束し始めてる。

 

「凄い、こんな事も出来るんだ。モグタンなりに勉強してるって事かな」

 

 出来れば隠しておきたかった、でも、このままじゃ私死んじゃうから。

 痛いのはもう、嫌だから。


「モグタン、その魔力、全部貰うね!」


 私の体内に残っていた魔力、それとモグタンの身体を包んでいた、氷で出来た天女の衣。

 空に残る『魔』と同じモグタンの衣は、私の誘導にしっかと反応を示してくれた。

 魔力と『魔』の違いは、未だによく分かっていない。

 でも、この力は私にとって常に味方してくれる、大切な力なんだ。

 

 突っ込んでくるモグタンの身体を、天女の衣を使って強引に上へと逸らす。

 私の頭をかすめるように壁に激突したモグタンは、その反動で宙へと浮かび上がった。

 その力を利用する! 一気に飛び上がれ! モグタン! 


「まだだよ! もっと上!」


 ゴシャアアアアァァンッ! という爆音が洞窟内に響き渡る。

 うまい具合に、私達が入ってきた大穴の蓋まで、勢いを殺さずに持ち上げる事が出来た。

 モグタンがぶつかった衝撃で蓋がなくなり、大穴には太陽の光が差し込んできている。

 でも、まだだ、ここから更に上に連れて行かないといけないのに。

 

 蓋にぶつかったせいで、勢いが死んじゃった。

 重い、とてつもなく重い。モグタン、多分一トン近い体重がある。

 私の魔力と『魔』を相当に消費してるのに、全然持ち上がらない!


「うぐッ、ぐぐぐッ!」


 それだけじゃない、外にあった霜がモグタンの上に集まって、下に下にと重さを増してくる。

 私の身体にも巻き付いてくるし、穴をあけたのは失敗だったのかなって、後悔しそう。


 でも止まっちゃダメ、もっと上、もっと上に行けば、モグタンを仕留めるあの子がいるから!

 でも、メッチャ重い! 『魔』を使って持ち上げようとしているのに、持ち上がらない!


 このままじゃ、私自身の魔力もなくなっちゃう!

 モグタンの身体の周りにある『魔』ももう無くなっちゃうみたいだし!


「――――っ、このままじゃ、ダメだ、助けて――」


 重すぎて、持ち上がらなくて。

 スンッ――と、私の中の魔力が完全に無くなったのを感じると。

 私の身体とモグタンの巨体が重力に従い、穴の奥底へと自由落下を始めた。


 このまま落ちたら、モグタンの魔法以前に落下の衝撃で死んでしまう。

 だけど、私の身体だけは、途中で落下を止めたんだ。


 霜、モグタンの張り巡らせた霜が、私を包み込んでいる。

 凄い執念だ、絶対に逃がさない、その気迫が成せる技か。


 ……そうだよね、雪原に生き物、一匹もいなかったもんね。

 全部食べちゃったのか、全部逃げちゃったのか。

 モグタンは、お腹が空いてしょうがなかったんだ。

 

 食べなきゃ死ぬ、それは生き物全てに共通する。

 そして死ぬのが怖い、生きていたいと思うのは、やっぱり生き物なら当然だ。


「だから、いっぱい食べようね、モグタン」


 私へと向けて長い爪を伸ばしながら、鼻ドリルを目いっぱい回転させる。

 完全に勝利を確信したのかな、口からヨダレが沢山出ているね。

 でも、ごめん。


『…………?』


 モグタンの爪やドリルが私に届くことはなく、寸前で空振りすることに。 

 何が起こったのか分からないと、モグタンは全身を捻り暴れまくる。

 でもね、その子の爪は、絶対に外れる事はないから。


 段々と地上へと向けて運ばれるモグタン。

 それを見た私は、心の底からの安堵の息を吐くんだ。

 姿の見えない、私を思ってくれる大切なペット。


「ありがと、キィ君」


 モグタンよりもはるかに大きい翼をもつキィ君が、まるで獲物を捕らえた猛禽類の様に、後ろ脚で鷲掴みにして持ち上げ運んでいる。太陽の下に引き釣り出されたモグタンは暴れたりはせずに、そのままキィ君に運ばれ、私の視界からは無事消え去っていった。

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