②
青々とした森の中に、ポツンと真っ白な大地が存在する。
そこだけ雲がある訳でもないし、ましてや空の上でも快適なこの季節。
雪が降る訳がないし、空には太陽が燦々と輝いているのに溶ける気配すらない。
造られた雪原、まさにその言葉がぴったりな白銀の大地。
草木は青々としたまま凍り付き、動物の姿はどこにも見当たらない。
そんな大地にキィ君を近づけて、飛び降りれる高さでホバリングしてもらう。
触れたら最後、一瞬で凍り付く……とかだったら全員やられちゃうからね。
いざという時にはキィ君に助けて貰わないと。
「それじゃ、キィ君、私行くね」
「キィ……」
「ダメだったら、助けてーって叫ぶから」
「キィ!」
あはは、可愛い。
共通言語を魔力注入すれば、もっと意思疎通が簡単になるんだろうけど。
今のキィ君の身体には、人族の空にあった大量の『魔』が注入されてしまっている。
通常ではありえない変化を与えてしまったキィ君の身体に、果たして私の魔力が受け入れられるのだろうか? もし異常反応を示し、キィ君の身体にさらなる異変が生じてしまったら?
想定外の変化が発生した場合には、無理な魔力注入は控えた方がいい。
俗にいう様子見、ドラリン含めて、経過観察が一番最適だろう。
「っと、さすがに一瞬で凍り付くことはない、か」
シャリっと音を立てながら、地面に降り立つ。
凄いな……この冷気は、一体なんなんだろう。
近づくにつれ段々と寒くなっているな、とは思っていたけど、地面に立つとより一層寒い。
吐く息が真っ白になっちゃう、空気まで冷えてるってこと?
「ドラリンの言う通り、厚着してきて正解だったよ」
「いえ、この寒さは私の想像以上でした。事前調査の時よりも悪化しております」
ドラリンがどこからか拾ってきた毛皮のコートとブーツ、これが無かったら凍えてたね。
それにしても寒い、人族の身体の私には寒すぎて、全身が震えちゃうよ。
「うわ、この地面にあるの、霜ってヤツか」
「そうでございますね、雪ではない様子です」
「霜が辺り一面って、一体どういう異常現象なんだろ」
着地した瞬間、地面から霜を踏み砕く音が聞こえてきた。
草は踏みつけると、そのまま折れるぐらいに凍結してる。
周辺の樹木にはツララまであるけど、そのどれもがかなり大きい。
一日や二日でこうなったんじゃないね、もうずっとここだけこの寒さなんだ。
「アズモンデオ様、魔力探知の方は?」
「さっきからしてるんだけど、反応があり過ぎて逆に特定できないんだよね。探知した感じ、ここら辺一帯が魔力源って感じだよ」
「というと、この氷全てが魔力でできている、ということですか?」
「恐らくね。この薄い魔素の中で、よくもこれだけの魔力を放出してるもんだ」
体内蓄積型か、エコな魔力放出が出来る魔物なのか。
ともあれ探さないとペット化も何も出来ないなって思っていた、その時だ。
「辺り一帯の魔力が急に大きくなった……ドラリン!」
「ええ、周辺の空気が凍り付いています。アズモンデオ様、お気をつけ下さい」
地面の霜がパキパキと音を立てながら、空へと延び広がっていく。
何あれ、樹木が成長しているのを超スピードで見てるみたい。
枝葉の様に広がっていく氷、その先っちょが私達めがけて幾つも襲い掛かる。
「ちょ、ほ、あぶな!」
刺さる氷が地面を掘り進めて、更に地面から出てくる。
上下左右、至る所から氷の刃が迫りきては、それをギリギリでかわすんだけど。
全部はかわせない、何本かの刃は防御魔法で対応したけど、これじゃ魔力がもたないよ。
「アズモンデオ様、私の後ろに隠れてください!」
そんな中、ドラリンは一歩踏み込む。
交差した腕を前に出し、下げると同時にその口から特大のブレスを放出した。
ゴオオオオオオオオオオォ! という爆音とともに、氷の刃が水へと変化していく。
ドラゴニックブレイズ、ドラグル族の得意技、ドラリンも使えるんだね。メモメモ。
「アズモンデオ様に対する不敬、このドラリン、決して許しはせんぞおおおおぉ!」
「ドラリン頑張れ! 今のうちに私が索敵するから!」
魔法を使って攻撃してきたということは、私たちをどこかで見ているということ。
反応式の魔法もあるけど、これだけ正確無比な攻撃は、そんなアバウトなものじゃない。
魔力探知だとしたら、私の魔法とぶつかりあって場所が判明出来るはず。
どんなに目を凝らしても何も見えない、キィ君みたいに隠れてるってこと?
それならもっと巨大な魔力を感じられるはずなのに……あ。
「ドラリン、いったん空に逃げよう!」
「かしこまりました! では、私の背に!」
ドラリンの首に腕を回すと、彼の尻尾が私の身体にしゅるりと巻き付く。
「アズモンデオ様がッ! 私の背にッ!」
「ドラリン!」
「はっ、ただちに!」
ボッ、という音を立てながら、空気の壁を突破して空へと舞い上がる。
さすがはドラグル族の翼、キィ君よりも不安定だけど、速度はドラリンの方がはるかに上だ。
辺り一面樹氷と化していた大地が、私たちを追って高く高くその刃を伸ばし始める。
刃と共に踊り狂うドラリンの背で、私は頭の回転速度を加速させる。
――氷の全てから魔力を感じるのに、それを操るモノの魔力を一切探知できなかった。いや、探知させてくれなかった? それに私達を狙う正確無比な攻撃は、視覚か強力な魔力探知を掛け続けないと出来ないはずだ。しかして魔力感知は選択から外れる、なぜなら私がそれに気づかないはずがない。だとすると残る可能性は――
「して主ッ!私はどこへ向かえばッ!」
叫ぶドラリンの背で、私は親指をぐっと下へと向ける。
「ドラリン」
「はいッ!」
「地面の中、行くよ!」




