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 青々とした森の中に、ポツンと真っ白な大地が存在する。

 そこだけ雲がある訳でもないし、ましてや空の上でも快適なこの季節。

 雪が降る訳がないし、空には太陽が燦々と輝いているのに溶ける気配すらない。


 造られた雪原、まさにその言葉がぴったりな白銀の大地。

 草木は青々としたまま凍り付き、動物の姿はどこにも見当たらない。 


 そんな大地にキィ君を近づけて、飛び降りれる高さでホバリングしてもらう。

 触れたら最後、一瞬で凍り付く……とかだったら全員やられちゃうからね。

 いざという時にはキィ君に助けて貰わないと。


「それじゃ、キィ君、私行くね」

「キィ……」

「ダメだったら、助けてーって叫ぶから」

「キィ!」


 あはは、可愛い。

 共通言語を魔力注入すれば、もっと意思疎通が簡単になるんだろうけど。

 今のキィ君の身体には、人族の空にあった大量の『魔』が注入されてしまっている。

 

 通常ではありえない変化を与えてしまったキィ君の身体に、果たして私の魔力が受け入れられるのだろうか? もし異常反応を示し、キィ君の身体にさらなる異変が生じてしまったら?


 想定外の変化が発生した場合には、無理な魔力注入は控えた方がいい。

 俗にいう様子見、ドラリン含めて、経過観察が一番最適だろう。


「っと、さすがに一瞬で凍り付くことはない、か」


 シャリっと音を立てながら、地面に降り立つ。

 凄いな……この冷気は、一体なんなんだろう。

 近づくにつれ段々と寒くなっているな、とは思っていたけど、地面に立つとより一層寒い。

 吐く息が真っ白になっちゃう、空気まで冷えてるってこと? 


「ドラリンの言う通り、厚着してきて正解だったよ」

「いえ、この寒さは私の想像以上でした。事前調査の時よりも悪化しております」


 ドラリンがどこからか拾ってきた毛皮のコートとブーツ、これが無かったら凍えてたね。

 それにしても寒い、人族の身体の私には寒すぎて、全身が震えちゃうよ。


「うわ、この地面にあるの、霜ってヤツか」

「そうでございますね、雪ではない様子です」

「霜が辺り一面って、一体どういう異常現象なんだろ」


 着地した瞬間、地面から霜を踏み砕く音が聞こえてきた。

 草は踏みつけると、そのまま折れるぐらいに凍結してる。


 周辺の樹木にはツララまであるけど、そのどれもがかなり大きい。

 一日や二日でこうなったんじゃないね、もうずっとここだけこの寒さなんだ。


「アズモンデオ様、魔力探知の方は?」

「さっきからしてるんだけど、反応があり過ぎて逆に特定できないんだよね。探知した感じ、ここら辺一帯が魔力源って感じだよ」

「というと、この氷全てが魔力でできている、ということですか?」

「恐らくね。この薄い魔素の中で、よくもこれだけの魔力を放出してるもんだ」


 体内蓄積型か、エコな魔力放出が出来る魔物なのか。

 ともあれ探さないとペット化も何も出来ないなって思っていた、その時だ。


「辺り一帯の魔力が急に大きくなった……ドラリン!」

「ええ、周辺の空気が凍り付いています。アズモンデオ様、お気をつけ下さい」


 地面の霜がパキパキと音を立てながら、空へと延び広がっていく。

 何あれ、樹木が成長しているのを超スピードで見てるみたい。

 枝葉の様に広がっていく氷、その先っちょが私達めがけて幾つも襲い掛かる。


「ちょ、ほ、あぶな!」


 刺さる氷が地面を掘り進めて、更に地面から出てくる。

 上下左右、至る所から氷の刃が迫りきては、それをギリギリでかわすんだけど。

 全部はかわせない、何本かの刃は防御魔法で対応したけど、これじゃ魔力がもたないよ。


「アズモンデオ様、私の後ろに隠れてください!」


 そんな中、ドラリンは一歩踏み込む。 

 交差した腕を前に出し、下げると同時にその口から特大のブレスを放出した。


 ゴオオオオオオオオオオォ! という爆音とともに、氷の刃が水へと変化していく。

 ドラゴニックブレイズ、ドラグル族の得意技、ドラリンも使えるんだね。メモメモ。


「アズモンデオ様に対する不敬、このドラリン、決して許しはせんぞおおおおぉ!」

「ドラリン頑張れ! 今のうちに私が索敵するから!」


 魔法を使って攻撃してきたということは、私たちをどこかで見ているということ。

 反応式の魔法もあるけど、これだけ正確無比な攻撃は、そんなアバウトなものじゃない。

 魔力探知だとしたら、私の魔法とぶつかりあって場所が判明出来るはず。


 どんなに目を凝らしても何も見えない、キィ君みたいに隠れてるってこと?

 それならもっと巨大な魔力を感じられるはずなのに……あ。

   

「ドラリン、いったん空に逃げよう!」

「かしこまりました! では、私の背に!」


 ドラリンの首に腕を回すと、彼の尻尾が私の身体にしゅるりと巻き付く。

 

「アズモンデオ様がッ! 私の背にッ!」

「ドラリン!」

「はっ、ただちに!」


 ボッ、という音を立てながら、空気の壁を突破して空へと舞い上がる。

 さすがはドラグル族の翼、キィ君よりも不安定だけど、速度はドラリンの方がはるかに上だ。

 辺り一面樹氷と化していた大地が、私たちを追って高く高くその刃を伸ばし始める。


 刃と共に踊り狂うドラリンの背で、私は頭の回転速度を加速させる。

   

 ――氷の全てから魔力を感じるのに、それを操るモノの魔力を一切探知できなかった。いや、探知させてくれなかった? それに私達を狙う正確無比な攻撃は、視覚か強力な魔力探知を掛け続けないと出来ないはずだ。しかして魔力感知は選択から外れる、なぜなら私がそれに気づかないはずがない。だとすると残る可能性は――


「して主ッ!私はどこへ向かえばッ!」


 叫ぶドラリンの背で、私は親指をぐっと下へと向ける。


「ドラリン」

「はいッ!」

「地面の中、行くよ!」

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