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 都会にあった魔力は、私の想像を遥かに超越したものだった。

 ドラグル族のアンデッド化や転送、肉体蘇生にあてがっても、半分も減っていない。

 ならばと、私はゴブリン族へも、ドラグル族と同じ魔力を注入しようと試みた。


 街中で見たときにマーキングはしてあったから、そこに送るだけの簡単な作業。

 手応えはあったから、間違いなくゴブリン族の彼は復活しているはずだ。


「あ、本当だ、もうニュースになってる」


 ――死んだはずの未確認飛行生命体が何故急に動き出したのか。

 ――他にも死んでいたはずのUMA、未確認生命体が動き出したとの情報も入っています。

 ――視聴者の皆様、くれぐれもUMAの死骸を発見しても触れないで下さい。

 ――いつ動き出すか分かりません、発見次第、警察か消防までご連絡を。


 テレビとかいう薄い板の大きい版みたいなのに映る人族が、懸命に魔物に触れないよう呼び掛けていた。けれど、その呼びかけが終わると、すぐさま場面が切り替わり、どこか違う内容を語り始める。


 情報量が多いんだ、それでも必要最低限のことしか伝えていないのだから、その精度も相当なんだろうね。


「ほぇー、凄いね。ゴブリン族も転送魔法で移動させたの?」


 濡れた髪をタオルという布で拭きながら、先ほどまでとは違う装いの楓子様が姿を現した。

 ピンク色のもこもこした洋服は、保温性に特化したものなのだろう。

 私の借りた新しい洋服も、似たようなものだから分かる。


「い、いえ、さすがにそこまでは出来ていません。ただ、肉体強化の魔法も複合で掛けていますので、そう簡単にやられる事はないと思います」

「あはは、襲われること前提なんだ」

「魔物ですからね、えへ、えへへ」


 お風呂に入って分かったことだけど、体の痒みが嘘みたいに全部消え去った。

 髪もべっとりしてたのが今はサラサラだし、あの白い液体、結構凄いね。

 花の匂いが今も身体に残っているのは、鼻がいい私にはちょっと厳しいけど。


「それで、さっきのゴブリン族っていうのも、あの山に向かわせてるの?」

「は、はい、ですが、ゴブリン族は端的な命令にしか従わない習性がありますから、果たしてどこまで命令を聞くか定かではありません。……あの、楓子様、一点お願いがあるのですが」

「何よ、そんな改まって」

「スマフォの動画を、見させては頂けないでしょうか?」


 どう解釈したのだろう?

 楓子様は嬉しそうに瞳を三日月にすると、口元に手を当てながら私の隣へと座り込む。


「やっぱり、気になるって顔してたもんね」

「は、はぁ」

「それで? どの動画が気になるの? なんでも言ってくれれば、なんでも出てくるよ?」

 

 得意げに語り、さも自慢げにスマフォを見せてくる。

 凄いのはこのスマフォを作った人族であり、楓子様じゃないと思うけど。

 でも、そんな機嫌を損ねるような事を口にする必要はない。


「えっと……」


 あの人族が発していた言葉。


 ――異世界転生者としての使命。

 ――俺は元の世界に帰る。


「あの、異世界から帰ってきた人、で、何か出てきますか」 

「ちょっと待ってね……えっと、なんか、いっぱい出てきたけど」


 楓子様の言うとおり、スマフォには多数の人族の絵が整然としている。

 でも、私が知るあの人族の顔がどこにもない。

 確かにあの時はちゃんと映っていたはずなのに、完全に消えちゃってる。


「……見つからない感じ?」

「え、あ、は、はい、見つかりません」

「そか、じゃあ違う言葉で検索してみようか」


 その後もいくつかの言葉で検索を掛けてみたけど、どれもあの人族を映さなかった。

 意図的に消されてる可能性があるって、楓子様はいうけど。

 だとしたら、人族の中でもスマフォの中枢に触れることが出来る存在が、何かに気付いたということだ。


「ふぁ……、そろそろ寝よっか。アズちゃんも一緒に布団で寝よ」

「あ、い、いえ、私は床で」

「いいの、一緒じゃないと、居なくなっちゃいそうだから」


 手を掴まれて、白いもこもこへと強引に引っ張られる。

 そっか、これが布団って呼ばれるものなんだ。

 柔らかくて暖かい、巣、みたいなものかな。


「おやすみなさい、アズちゃん」

「あ、は、はい、おやすみなさいませ、楓子様」


 安心しきった顔、家に帰った後のご飯も、美味しくて珍しい食べ物ばかりだった。

 お風呂やお布団、ご飯に電車にバス、車、研究所。


 多分、ここは私の知る世界とは違う世界なんだろう。

 私を殺したことで、あの人族の願いが叶った結果が、今の世界なんだ。

 ただ、なぜかそれが歪み、融合という形で現実へとなってしまった。


 都会の空に蠢く圧倒的な『魔』の存在。

 あれが弾け飛んだ時、また何かが起こるのかも。


 結構使っちゃったけどね。

 たまに消費しに来てあげれば、楓子様、喜ぶかな。


 ふわっと、私の髪が風になびく。

 魔族の香り、強い魔力を帯びた魔物の匂い。

 出窓に移るシルエットは、私の想像を超えた姿をしているじゃないか。


『お迎えにあがりました、アズモンデオ様』

『ありがとう、そういう風に進化出来るものなんだね』

 

 私の魔力で復活したゴブリン族の戦士。

 どうやら、ドラグル族の魂を少しだけ注いじゃったみたいだ。


 ゴブリン族に似つかわしくない、屈強な骨格と爪を宿した翼。

 蟻のような統制力と、蜂のような攻撃力。

 そこに更にドラグル族の知性まで備わっちゃった、ゴブリンとドラグルの混合種。


 元々人型に近かった彼の背丈は、ドラグルの影響を受けたのか大きくなり。

 小さくなった私からするとちょっと見上げるくらいの、それこそ人族の雄に近い感じだ。


 何も生えてなかったはずの頭には紫色の髪が生え。

 彼の甲殻も、人族の貴族のような物に変わっている。

 

『ドラリン? ゴブグル? どっちがいいかな?』

『どちらでも、アズモンデオ様のお好きな方でお呼びください』

『そう……じゃあ、可愛いのが好きだから、ドラリンね』

『かしこまりました、ドラリンは、主に絶対の忠誠を誓います』


 闇夜に蠢くものは、綺麗な星々だけじゃない。

 覆いつくしてしまう程の『魔』が、ずっと貴女を見張っているからね。

 だから、私がいなくなっても、寂しいとか思わないで大丈夫だから。


「バイバイ……色々とありがとう、楓子様」



 風を感じて目を覚ますと、既に彼女はいなくなってしまっていた。

 開け放たれた窓に映る月が、とても綺麗で。

 それを共感できる相手がいなくて、寂しくて。


 白髪に青い瞳、角を生やした貴女ならば、探せば直ぐに見つかると思っていた。

 だけど、あの住処に行っても、どこで叫んでも、貴女は応えてくれる事はなくて。


「……どこに行ったのよ、こんな世界で一人にしないでよ。アズちゃん……」


 悲しくて、寂しくて、何日も泣きはらした。

 でもね、一個だけ、貴女に繋がる道が見えたの。

 

「空が、黒い……もしかして、あれが『魔』の存在なの?」


 貴女が残してくれた力? それとも一緒にいたから感染しただけ?

 でも、見えるから、それなら追いかけることが出来るから。

 

 いつか、貴女を捕まえて、その可愛い白いほっぺを叩いてあげる。

 その後、抱き締めて沢山泣いてあげるからね……だからもう、私は泣かない。

 逃げたりもしない、絶対に。

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