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鬼が出るか、蛇が出るか(7)

 エラルド公国の首都、リシュー。

 その象徴とも言える中央広場で、他国出身の王族の血を引く令嬢が、生まれ故郷の民に立ち去るように言い、エラルド公国が独立国であることを宣言する。


 この独立宣言は、かつてマーガレット妃がグニシアに舟を乗りつけて啖呵を切った時並みに「センセーショナル」なことだ。


「お嬢、そろそろ下がったほうがいい。」


 隊列が乱れたのを確認すると、サムが前に出て、エリザベスを守るようにする。


「分かった、下がるわ。」


 サムが「危険」と判断した時の約束事。


 エリザベスはジョーンズ少尉のところまで後退りすると、ようやくグニシア兵に背を向けて、その場を離れた。


「妃殿下、バリケードの裏へご避難を。」


 自警団の男たちが武器を手にして手招いてくれる。その後ろで高齢で前線には立っていないものの、後衛に当たっている者も、嬉しそうに笑うから、エリザベスは頬を緩めた。


(これでもう、お父様は容赦してくれないでしょうね。)


 エラルド公国の独立の生ける象徴になったのだ。

 少なくとも父のエドワード国王が在位中は、グニシアには戻れないだろう。


(・・・・・・お祖父様に咎が行かなければ良いのだけれど。)


 とはいえ、トムに「この事態を知ったら、エドガー様が辺境伯に依頼して、グニシアの王城を攻め落とせと命令しますよ」と呆れ口調で言っていたから、エドガーのことをグロースター辺境伯がしっかり庇護してくれることを信じるしかない。


「妃殿下。この場は我らにお任せ下さい。この国の独立は命を賭して我らが守り抜きます。」


 旗を立てに行く前は、厳つい顔をしていた自警団の団長ににこやかに言われて、首を横に振る。


「簡単に命を賭さないで頂戴。本当なら、誰一人傷付いて欲しくないのだから。公国軍の準備が整い、この広場にやってきたら、あなたたちも後ろに下がって。無理は禁物よ。」


 そして、「でも」と言うと、「もし、この戦いから皆を守り抜いて、公国としての尊厳を守り抜けた暁には、皆の力を貸して欲しいわ」と続けた。


「殿下も私もグニシア生まれだから。今までと違う大公家になると思うの。それを新しい風として、この国に吹き渡らせれば良いけれど、すでにこういう事態に陥ってしまっているし。」


 エリザベスが「盛大な親子喧嘩に巻き込んでしまって、ごめんなさい。生まれてこの方、言葉を交わしたこともないし、放っておいてくれればいいのに。困った父親よね?」とボヤく。


「歯に衣着せずに言えば、『クソジジイ、すっこんでて!』って気分だわ。」


 と、周囲からは「アハハッ」と笑いが起こった。


「良いねえ、『クソジジイ、すっこんでて!』か。」

「そう。『今更、父親面して出てくんな』でも良いんだけど。」


 およそ令嬢らしからぬ言葉遣いで罵り、ふふっと可憐に笑う。そして、「皆さんを頼りしていてよ?」とにこやかに話して、マーサーズギルドの裏路地に回り、建物の中に入るとサムが「お嬢」と声を掛けてきた。


「なあに?」

「いや、お嬢のことだから『相手は仮にも国王陛下だ』って窘める側かと思ったのに、そういうの、やめたんで?」

「ここは『エラルド』で、『グニシア』ではないもの。それにさっきので正式に『喧嘩を買う』って示したわけだし。こっちも『大公妃』なったのだから、ヘりくだる気もないわ。」

「・・・・・・おお、お嬢がグレた。」

「何をしみじみ言っているのよ。」


 ショートコントのような掛け合いをしながら、二階のギルド長室へと向かう。中では一部始終を確認していたヴィットーリオが待っていた。


「戻ったわ。」

「お帰りなさいませ。向かいの部屋で拝見しておりましたが、見事に自警団達のやる気に、火をお付けになりましたね。」

「公国軍がやってくるまで、あと、十五分から二十分。その時間を乗り切れば、救出作戦の時間を稼げると思うんだけど。」

「ええ、稼げると思いますよ。今の自警団は義憤に駆られていますから。」


 陽動と、時間稼ぎ――。


 大公家を包囲されたままでは、救い出したい人を救い出せない。


 広場で対峙しているのが、グニシア兵以外だったら、「港まで向かい、船の上から」と言われていたものの、民衆への影響度や象徴性の面で言えば、エラルド公国の象徴である中央広場で独立宣言が出来たのは重畳だった。


(ギルに汚名なんて、絶対ダメ。)


 異端者だの、悪女だの、誑かしただの。

 いつだって汚名は自分の方で、それですら心苦しいのに、ギルバートにまで大公位の簒奪者だの、王女誘拐だの、次々と与えられる汚名はきっちり返上しなくては自分自身の気が済まない。


 ジョーンズ少尉とヴィットーリオは公国軍が来るまでの間の対策について話し始める。エリザベスはその話し合いが終わるまでの間、ソファーに腰を下ろして待つことにした。


「救出作戦、上手く行きますかね? こっちにグニシア兵がこっちに移動してくれても、聖騎士達やノーランド兵が詰めかけているってことでしょう?」


 ぽつりとサムが呟くように訊ねてくる。


「ノーランド兵は南の襲撃もあるから、後退すると思うわ。でも、そうね。聖騎士達が引かないっていうなら、その時は教会の焼き討ちでもすればいいんじゃない?」


 エリザベスが何でもないことのように答えれば、サムは頬を引き攣らせて、苦笑いをした。


「『すればいいんじゃない?』って、えっと、お嬢、なんかふっ切れました? さっきから言うことが不穏な事ばかりなんですけど。」

「あら、サム。向こうが喧嘩を大安売りしてきたのよ? どうせなら喧嘩を買ってあげた後、高ァーーーーーく、価値を付けて売り返してあげた方が良くなくって?」


 散々、辛酸を舐めさせられてきたのだ。三国が仕掛けてきた攻撃を退けるついでに、貴賎や老若男女問わず、国内の求心力を上げてギルバートの治世の基礎を盤石なものにしたい。


「やるなら、徹底的にやり返すわ。」


 あまりにエリザベスがキッパリ答えるから、サムは「うわぁお」と言って笑った。


「何よ?」

「いやァ、別にぃ? ただ、今までのお嬢だったら、『何事もやられた分だけやり返す』って言ってましたでしょ? どういうご心境の変化かと思いまして。」

「そうね、私の事だけだったら、そうしたかもしれないわ。けど、ギルを危ない目に合わせたのよ? 絶対に許さない。サムだってクロエに何かあったら、許さないでしょう?」


 エリザベスに「想像してみてよ」と言われたサムは笑みを深めて、「まあ、それは確かに八つ裂きにして、犬にでも食わせますね」と答える。エリザベスは頷くと「私もね、今、まさにそんな気分ってわけ」と話した。


「お二人とも、何だってそんな殺気立ってるんです? 喧嘩でもなさったんで?」


 話が終わったのか、戻ってきたジョーンズ少尉が訊ねてくる。エリザベスとサムは、それぞれ、「ふっ、ふっ、ふっ」と悪い笑みを浮かべると声の主の方に振り返った。


「逆よ、JJ。珍しく、意見が完全一致したところだわ。ねえ? サム。」

「そうっすね。珍しく、完全一致でしたね。」


 目を据わらせている二人の様子に、ジョーンズ少尉は「お二人が喧嘩なさってないなら、よろしいのですが・・・・・・。話も終わりましたし、そろそろお(いとま)致しましょう?」と声を掛ける。

 エリザベスは「分かったわ」と立ち上がった。


(・・・・・・ここから先は、本当、鬼が出るか、蛇が出るか。)


 何が待ち構えているか分からない。


 ヴィットーリオとジョーンズ少尉の後に続き、階段を降りて裏口に回る。


 そして、裏路地沿いに進むと、古めかしい建物の裏口から声を掛けた。


「誰か、残ってるかあ?」


 中からおっとりとした顔立ちの、二十代後半くらいの女性が顔を見せる。


「こんな非常時に、雁首を揃えてどうしたんだい?」

「いや、非常時だから来たんだけど。」

「また、厄介事?」

「姐さん、厄介事しか持ち込んでないような言い方、よくないと思うんですけどぉ。身になる話も持ってきているだろう?」


 ジョーンズ少尉がクシャッと笑顔を作って話す。


 一方、女性の方は「十回に、二、三回くらいで威張らないの」と呆れ口調で答えた。


「JJも知り合いなの?」


 エリザベスが訊ねれば、「その子達も連れかい?」と女性が話した。


「連れというか、そちらのギルドへの依頼主だよ。」

「依頼主?」

「ああ、ちょっと人員確保をしたくってさ。アイリス姐さんなら、腕利きを知ってるだろう?」


 アイリスと呼ばれた女性は、エリザベスとサムも眺めみてから「一体、何をする気だい?」と訝しげにした。


「ちょっとした陣取りゲームをしてるんですけど。」


 サムが答えるとアイリスは首を傾げる。


「陣取りゲーム?」

「ええ。マーガレット妃殿下由来の地を押さえたくて。けれど、救済院は不届き者が占拠してるらしいじゃないですか。だから、助っ人を募集ってわけ。」


 サムの話にアイリスは呆れ混じりの笑みを浮かべると「そういうのはよそにあたるんだね」と肩をすくめた。


「ここはしがない町の酒場さ。飲んだくれを探そうってならまだしも、お門違いだよ。」

「ええ、そんなこと言わないでよ、姐さん。アイリス姐さんだけが頼みなんだから。」


 ジョーンズ少尉の言葉にもアイリスは首を横に振り、奥に引っ込もうとする。


 と、ヴィットーリオが「まあ、待て」というと、髪留めに加工されたコインと手紙を懐から取り出した。


「彼女は若様の代理人なんだ。」


 アイリスはその言葉に、閉めようとしていた裏口の扉を再び開ける。


 そして、にやりとするヴィットーリオを横目に見ながら手紙を読むと「若様はなんだってこんな男にギルド長を任せているんだか」と悪態をついて、「暗殺者なら奥にいる『隠者(ハーミット)』にお聞き」と話した。


「凄腕のが一人、グニシアから来ているらしい。」

「グニシアから? 信用、おけるのか?」

「よく分からないから、『隠者(ハーミット)』預かりにしているのさ。」


 アイリスは「いきなり公爵家に乗り込まれて、マスターに切り掛かられても困るだろ?」と話す。


「だから、先に『隠者(ハーミット)』に会ってもらっていたところさね。」


 ジョーンズ少尉は「それでその『隠者(ハーミット)』とやらはどこに?」と訊ねる。


「どこって、そこにいるじゃないか。」


 と、アイリスが示した先に不意に姿を現したのは、エリントン子爵邸にいるはずのハロルドだった。


「お久しぶりです、若奥様。」


 エリントン子爵邸で出迎えられた時と同じように丁寧な一礼をされるから、エリザベスが狐に摘まれたような表情で「ハロルド?」と訊ねる。


 と、アイリスも「若奥様?」と驚いた声を上げた。


「そうですよ、アイリス。エリザベス様は坊ちゃまの大切な奥様です。」


 そして、まだ目を丸くしたままのエリザベスの様子に、少し困ったような微笑みを浮かべると、ハロルドは目尻の皺を深くして「表と裏の『ハロルド』がおりまして」と続けた。


「表向きはエリントン子爵邸の家令、裏は秘密結社の構成員の一人『隠者(ハーミット)』として、仕事に従事しております。」


 混乱するエリザベスをよそに、サムは「お嬢、もしかして、ハロルドの腕っ節が立つって気付いてなかったのか?」と話す。


「全然。え、サムは気が付いていたってこと?」

「当たり前だろ。それに、そうじゃなきゃ、旦那がお嬢をマナーハウスに残して王城に入り浸りになると思うか?」


 うん、ちょっと待って。考えが纏まらない。


(でも、使用人同士の方が一緒にいる時間も長いものね、気付くのかも?)


 と、ハロルドは「何、それを言及してきて、手合わせを依頼してきたのは、サムくらいですよ?」と可笑しそうに笑った。


「『手合わせを依頼』って、サム、一体、何をしてるのよ・・・・・・。」

「いやあ、だってさ。歩き方一つとっても凄かったからさあ。」


 サムは「あの時ははぐらかされたけど」と笑ったが、歩き始めの瞬間の体重移動の仕方も家令のそれではないし、気配を消したハロルドは気を張ってないと気が付けないだろうと話す。


「うん、でも、『隠者(ハーミット)』か。確かに名前にピッタリだ。」


 サムはそう言って、一人納得した様子だったが、今度はジョーンズ少尉が「妃殿下、サムって何者なんです?」と耳打ちしてきた。


「うーん、元不良従者兼、御者見習い兼、庭師見習いだと思っていたんだけど。」

「お嬢、聞こえてますよ? 悪口は影で言ってくださいね。」

「うん、もう、本当、地獄耳ね。でも、私、事実しか言ってないと思うんだけど?」

「ひでぇ、手のかかるお嬢のお世話をこんなに色々焼いているのに。こんなに世話焼いてくれるの、俺くらいですよ?」

「お生憎様、私の世話はレベッカが焼いてますぅ。」


 売り言葉に買い言葉、二人がやいのやいのとやっていると、ハロルドはエリントン子爵邸で借りてきた猫のようだったエリザベスを思い出しながら、「すっかりお元気になられたようで、何よりでございます」と笑った。


「もう、ハロルドまでそんな風に言って。ああ、でも、この場合は『隠者(ハーミット)』の方がいいのかしら?」

「いいえ、奥様。私のことは、いつもように『ハロルド』とお呼びくださいませ。あなた様は坊っちゃまの奥様なのですから。」


 それから、丁寧な所作で「お話はあらかたお伺いしておりました。救済院に向かわれるのですか?」と話す。


「そうなの。ギルを助け出すためにも、救済院を自陣にしないといけないのだけれど、表立った戦力は使い切ってしまったから。動けるのは、ここにいるメンバーだけなの。」


 どうにかして大公妃の象徴である救済院は押さえないといけない。


「承知しました。シーク、坊っちゃまに調査報告をするのであれば、どうやら窮地からお助けするのが、先のようですよ?」


 と、人の気配が増える。サムは咄嗟にエリザベスの腕を引き、後ろに隠すようにしてから、「よう、また会ったな」と口の端を上げた。


「ああ、サム。こちらこそ、また会えて嬉しいよ。」


 カーラルでは感情表現が薄そうに見えたシークは、サムを前にした途端、おもちゃを見つけた子供のように、楽しそうにニッと口の端を上げる。


「サム、シークと知り合いなの?」

「・・・・・・お嬢、こいつを知ってるんですか?」

「ええ、カーラルで会ったの。でも、あの時はボイル公爵家のアルバート様と一緒にいらっしゃったように思うのだけれど?」

「ボイル公爵家?」


 サムが警戒する様子に、シークは「安心しろ、アルバート様は『白百合姫』に手出しをしない」と話した。


「それにそっちが生きていて、こっちが一撃で仕留める必要性もなければ、例の棒を使った体術で、手合わせしてくれる約束だったろう?」

「・・・・・・ああ、確かに言った。それは違いないけどよ。もしかして、それを今やれと?」


 今は戦えそうな棒を持っていないし、何なら、雇用主のギルバートの命が危ういときている。サムは好戦的な眼差しを向けるシークに「今は遊んでられるほど暇じゃない。立て込んでいるんだ」と答えた。


「立て込んでいるのは、こちらも承知している。それとサム、君を追ってきたわけじゃあない。ここに来たのは、エリントン卿にご報告することがあるからだ。」

「・・・・・・ギルの旦那に?」

「ああ、『主家であるボイル家を裏切らない仕事を掛け持ちしないか?』と依頼されてね。」


 人身を惑わす香水と、妖精の粉。


 シークが請け負ったのは、それらの出処の調査と、流通経路の調査だと話す。


「その件なら、主家も欲しがっている情報だったし、エリントン卿の薬への造詣の深さはよく知られているからな。」


 見返りはエラルドの薬学研究知識を使った中和剤制作。また、対処療法的にはなるものの、洗脳状態で不安定なソフィアへの薬草の提供だった。


「ですが、いかんせん、このことをお言伝ていただいておりませんでしたので・・・・・・。」


 対処に困ったハロルドは、ブライアンに相談して、真偽を確かめるのも兼ねて、こうしてエラルドに渡ってきたのだという。


「ですが、昨晩、大公家で火の手が上がりましたでしょう?」


 ハロルドは「どうやってお二人をお救いしようか考えていたところに、奥様がいらっしゃったので驚きました」と、穏やかな口調で話した。


 一方、ジョーンズ少尉はそんなハロルドの話を遮るようにして「もしかして」と目を輝かせると、興奮気味に「香水や妖精の粉の出処について何か分かったのか?」と声を弾ませた。


「JJ?」


 その目はいつもの彼とは違って嬉々としていて、炯々としている。


 マッドサイエンティストは、やせ細っていてヒョロヒョロとしているものと思っていたけれど、どうやらそうではなかったらしい。


「ああ、調べてきてはあるが・・・・・・。」


 シークがたじろぐ程の勢いで、ジョーンズ少尉はシークに詰め寄ると、「教えてくれ。あれの材料は一体なんなんだ? ここらの植生では見つけられない成分だったんだ」と話す。


 ジョーンズ少尉は「仕事そっちのけ」と言った表情で、嬉々としてシークに訊ねた。


「いや、その前にあんたは何なんだ?」


 シークはジョーンズ少尉を怪しい者を見る目付きになると、殺気を放ちながら訊ねるから、エリザベスは「JJ、ストップ!!」と声を掛けた。


「ごめんなさいね、シーク。こちらはジョーズ少尉。ギルとは古くからの友人で。医薬品や化合物に明るい人なの。」

「ジョーンズ少尉?」


 ジョーンズ少尉はうんうんと首を縦に振る。


「前情報でギルから『妖精の粉は新大陸の由来の成分ではないか』と聞いてはいたんだけど、どの植物から採れたものなのか分からなくて。それに『香水』は有機化合物系だと聞いていたんだ。とはいえ、人を錯乱させる効果まで強力なものがあるって聞かされたら、どんな配合なのか、とっても気になるだろう?」

「どうやら、あなたがジョーンズ少尉でまちがいないようだな。殿下が忙しいようなら、ジョーンズ少尉を頼れとバイロン卿がおっしゃっていた。サンプルもあるが役立つだろうか?」

「ビンゴッ! サンプルがあるなら、中和剤か拮抗薬が作れるかもしれない。」


 ルンルンとした様子のジョーンズ少尉に、エリザベスは思わず「JJ、でも、その話はいったん置いておいてちょうだい、後でゆっくりとね?」と話す。

 ジョーンズ少尉はそう窘められて、ハッとした表情になると、「ああ、そうですよね。今は殿下の救出が先でした」と眉尻を下げた。


「すみません、心から欲しかった情報だったもので。」


 しょんぼりとするジョーンズ少尉の様子に、エリザベスは苦笑する。


 裏の顔を持つマナーハウスの家令。

 サムと遊びたくって仕方ない暗殺者のシーク。

 さらには、毒のスペシャリストであるジョーンズ少尉と、このリシューに情報網を張り巡らせるギルド長のヴィットーリオ。


 どうもギルバートの周りにいる人間は、色々と曲者揃いで困る。


「お嬢、何、百面相しているんです?」

「え、ギルって、なんか凄いなあって思って。ハロルドに裏の顔があったり、知らぬうちにボイル公爵家(政敵の家)の刺客まで利用していたりするなんて思わないじゃない? しかも、みんな規格外っていうか、その道のプロだし。」

「何、言ってるんすか。自分が、一番、規格外だって言うのに。」

「・・・・・・そうかしら?」

「うわ、自覚ないんすか?」


 まあ、その辺は自覚がないわけじゃない。

 考えないようにしてきただけで。


「・・・・・・タチ悪ぅ。」


 うん、やっぱり、深く考えないようにしよう。


 エリザベスは心を無にして「シーク、悪いんだけど、あなたの依頼主を助けるの、手伝ってくれる?」と訊ねる。

 シークは「主家を裏切らない範囲なら構わない。エリントン卿は敵ではないからな」と応じた。

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