衝撃の事実
ささやかな祝勝会が終了した後、私と海心都先輩と湖透先輩が退出するみんなに手を振って送り出した。最後の一人だったココが意味ありげに笑いながら私に手を振って引き戸を閉めたとき、私はついにラファエルさん――湖透先輩が保留にしていた話を聞かされるのかしらと思って、心臓がドクンドクンと音を立てて、耳にまで聞こえてきそうになった。
湖透先輩の告白。どんな言葉をかけてくれるのかしら。想像しただけで卒倒しそう。
それとも、ここでハグされるのかしら。ど、どうしよう……。
「あの話をしたら?」
海心都先輩が湖透先輩の方を向いてそう促すが、湖透先輩は下を向いたまま、力なく言う。
「うん……」
「どうしたんだい? 気持ちの整理が付いたのだろう?」
先輩たちの一言一言に期待が膨らんで、鼓動が倍になる。発熱した時みたいに顔が火照ってきたので、真っ赤な顔や耳を見られているはずだ。
「アバターの方が恥ずかしくなくていいって?」
「アバターじゃ失礼よ」
「じゃあ、今ここで言うしかないだろう?」
湖透先輩が何か言おうとして言葉を飲み込んだ。
「僕から言おうか?」
「なんで海心都はそう急ぐの?」
「だって、本人より先に僕へ教えるって変じゃん。本人へ言ってあげなよ」
うんうん、そうです、そうですよ。
しばらく無言が続いた後、湖透先輩が顔を上げて、私をじっと見た。もう目をそらさない。決意が感じられる目だ。
「お母様からお写真を拝見していらっしゃいますか?」
「えっ?」
全く想定もしていなかった湖透先輩の言葉に、思考回路がショートした。
写真……写真……写真……写真…………。
突然、脳裏にあの幼児二人の写真が浮かんできて、体の中に電気が走るような衝撃を感じた。私の直感は、その写真の記憶から、ある結論を導き出したのだ。
でも、とても口には出来ない。
全身から血の気が引いていく。手足が痺れてくる。膝が笑いそうだ。
「お写真ですが」
湖透先輩が困惑顔になったので、今思い出した風を取り繕う。
「見せてはもらっていませんが……」
と言いつつ、それでは見ていないことになる。先輩に嘘はいけないと思い、
「置いてあるのを見てしまいました」
言い終えてホッとする。本当は床に落ちていたのだけど、そう言うとぞんざいな扱いをしていると思われて湖透先輩の心証を悪くするだろうから、そこは嘘をついた。
「あれは……」
先輩がうつむいて、言いかけた言葉を飲み込む。そして、床に目を落としたまま、
「赤ん坊の方が…………あなたなのです」
消え入るような声で伝えられた言葉に、思わず絶句した。
「もう一人が私。つまり…………私たちは姉妹なのです」
先輩は両手で顔を覆い、嗚咽がこみ上げる。
――湖透先輩と私は姉妹。
憧れの湖透先輩が、実のお姉さんだったなんて。そんな夢みたいな話に感動し、胸がいっぱいになり、堰を切ったように涙が溢れ出て止まらなくなった。
先輩は顔を覆ったまま、涙声で言葉を続ける。
「私に腹違いの妹がいるとは、少し前に知りました。それは、養子を引き取ろうという話が当家で持ち上がった時でした」
先輩は覆っていた手をソッと下ろしたが、床に目を落としたままだ。
「以前から学校で小海原さんの事が気になっていたのですが」
この言葉に、私はビクッとした。
「その小海原さんが私の妹だと知ったとき、顔を合わせるのが気恥ずかしくて、何度も声をかけていただいたのに無視してしまいました。本当にごめんなさい」
私はなんと言葉をかけて良いのかわからず、頷くばかりだった。
「父と何度かあなたのお母様とお話の場が持たれました。お母様が大層お困りのようでしたので、私はあなたのお母様に、『ご本人様の意志を尊重していただきたい』と申し上げました。その後、お母様からお断りのご回答をいただきまして、当家に引き取る話はなくなりました」
私は謝罪の言葉しか浮かばず、頭を垂れた。
「本当に申し訳ありませんでした」
「そんな……。私こそイヤな思いをさせてしまいました。謝罪するのは私の方です」
「いえ。妹と一緒に暮らしたかったお姉様の気持ちも知らずに断ったのですから、謝るのは私です」
「ご本人様の意志を尊重していただきたいと申し上げておりますので大丈夫です」
「ありがとうございます。では、こういたしましょう」
私が顔を上げると、先輩も顔を上げた。
「私は、清澄 睦海になることはありません。でも、湖透……さんが、お姉様であることには変わりません。他人としてではなく、姉妹として気軽にお話ししたり、お家を行き来したり、そういうお付き合いをこれから始めてもよろしいでしょうか?」
「それはもちろん、大歓迎です」
湖透先輩が晴れやかな顔になった。
「あと一つお願いがあります」
「何でしょう?」
「お姉さん。妹に敬語を使わないでください。私もやめますので」
「わかりました」
「それで……そのぉ……」
「何か?」
「お姉さん。今……抱きしめていいですか?」
「もちろん」
「いっぱい、いっぱい泣いていいですか?」
「いいですよ」
「お姉さん……お姉さん……会いたかった……」
「私もです」
涙が溢れる私は、姉を抱きしめて大声で泣いた。
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