聖剣エクスカリバーと月光のフランベルジュ
互いが同時に聖剣エクスカリバーを振りかぶり、一気に距離を詰めて袈裟懸けに振り下ろす。最高ランクの剣が激しくぶつかり合い、まき散らす火花は派手なエフェクトもあって眼前で爆発のように見え、思わず目をつぶる。
「おらおら!」
少年とは思えない力で剣を押しまくるヨシツネは、顔に迫る大剣で相手に恐怖を与えることを計算に入れているのか。私は歯を食いしばり、重心を移動させてこれに耐えると、つばぜり合いでこれ以上押せないと判断したヨシツネは、貯めた力で一度押した後にバックステップで間合いを開けてから剣を薙いできた。
私が剣を立ててこれを防ぐと、すかさず上段から振り下ろしてきた。剣を横にしてこれを防ぐと、今度は袈裟懸けに振り下ろしてきた。大剣を軽々と振るヨシツネは――私も同じように軽く扱えるのだが――考える隙を与えない。剣の軌跡を一瞬で予測して、その円弧の先に自分の剣の刀身を置きに行く。
これでは、防戦一方だ。
私は、ヨシツネが左上から袈裟懸けに斬りつけてきたとき、下段から剣を振り上げて弾き返そうとした。ところが――、
「えっ!?」
ガツッという音がして、柄を握る手に痺れるような衝撃が伝わり、剣が止まった。長すぎる剣が甲板にぶつかったのだ。そこへ左肩目がけて何にも阻まれない大剣が鋭利な刃を向けて振り下ろされた。
「きゃっ!!」
祝福の外套が直接攻撃を防御しているとはいえ、肩肉が抉られたかと思うほどの痛みが走る。これで、HPが100から一気に60へ下がり、体がブルッと震えた。ということは、あと2回食らったらゲームオーバーだ。後ろに跳んで彼の次の攻撃を避け、剣を右横へ構える。左手は痛みで力が出ず、握っていると言うよりは添えているだけだ。
獲物を追い詰めた獣のような目のヨシツネは、再び上段に構えて、ゾッとするような嗤いを浮かべると、先ほどと同じ袈裟懸けを狙ってきた。だが、私の直感はこれがフェイクだと教える。案の定、袈裟懸け斬りの軌道が途中から横薙ぎに変わり、私のがら空きの左側面を狙ってきた。
剣を勢いよく左方向へ振ってこれを防ぐと、ヨシツネの剣が弾き返された。ムウッと唇を横一文字に結んだ彼は、剣で空中に円弧を描くと、今度は反対側から袈裟懸けに振り下ろしてきた。これも横薙ぎで弾いた後、剣を振り上げて正面ががら空きになったヨシツネに向かって一足飛びで踏み込み、右から左へ剣を振った。
「うわっ!」
私の剣がヨシツネの脇腹を直撃すると、彼のHPも100から60へダウンした。
「この野郎!」
罵るヨシツネは、私の首の高さに剣を薙いできた。首から上は祝福の外套で守られていないので、直撃を受けたら即ゲームオーバーだろう。仰け反って、切っ先の軌道をすれすれに躱す。
だが、躱しただけで剣の防備はおそろかになっていた。そこを突かれた私は、ヨシツネの大剣でまた左肩を強く斬られてHPが60から20に減った。
「終わりだよ。降伏しな」
とどめを刺さずに敗北を促すということは、慈悲なのか、ヨシツネに余裕がないのか。そんな慈悲にすがるほど私の心は折れていない。今度は甲板にぶつからないように下段から剣を逆袈裟懸けに振り上げる。虚を突かれたヨシツネは後ろに下がったが、私の大剣のリーチは彼を確実に捉えて斬りつけた。これで、彼もHPが20になった。
「降伏を促した隙に斬りつけるとは、なんて卑怯な女だ!!」
ヨシツネが憤怒の形相で剣をめちゃくちゃに振り回してきた。こうなると踏み込んで斬りつける隙がない。私は剣を縦に横にと構えてこれを防ぐしか手がなくなった。添えるだけの左手が痺れて握力がなくなる。ついには剣が大きく弾かれて手から離れ、回転しながら宙を飛び、甲板の上に落下した後で乾いた音を立てながら転がった。
私は、遠くへ転がった剣を取りに走ったが、足がもつれてつんのめり、うつ伏せに倒れ込んだ。
「ハハハッ! 勝負ありだね!」
ヨシツネの声が背中を叩く。彼が聖剣エクスカリバーを大きく振りかぶってとどめを刺そうとしているのは容易に想像が付いた。急いで、体の正面を声の方へ向けると、そこには限界まで背伸びをして大剣を振り上げ、ゾッとする嗤いを浮かべたヨシツネがいた。
彼が全力で剣を振り下ろすのを待ってから、全身を右側へひねり、転がって回避する。この振り下ろす力は、勢いが付くと止まらない。そうなると、何が起こるか――。
ガシッ!!
甲板が揺れるほどの衝撃音がして大剣が斜め下を向いたまま動かなくなった。甲板に深く突き刺さったのだ。
これを引き抜こうとヨシツネが力を入れている隙に、私は画面から月光のフランベルジュを選択して装着した。聖剣エクスカリバーを拾いに行くよりは、こちらの方が早いのだ。
私は抜剣して、まだ剣が抜けないでいるヨシツネに2回斬りつけた。
「畜生!!! 覚えていろ!!!」
ヨシツネのHPがついにゼロになった。彼はヘナヘナと倒れ込み、斜めに突き刺さった聖剣エクスカリバーとともにフッと消えた。
勝利した私は、女神の見えない力にでも持ち上げられたのか、空中高く飛び上がる。すると、ヨシツネの戦列艦7隻が一斉に煙のように消えた。彼がゲームオーバーになったのだ。
長崎沖で残っているのは私の紅の旗艦を含むガレオン船8隻のみ。海面を見ると、壮絶な一騎打ちなど無関心であるかのように、波は穏やかだった。
甲板の上に置いてきた聖剣エクスカリバーはどうなったのかを画面で確認したが、ちゃんと元に戻っていた。空中で月光のフランベルジュを抜いてそれに感謝を伝えた後、鞘に戻してから聖剣エクスカリバーに取り替えた。
それから、ヨシツネがセーブデータをロードして復讐をしに私を捜し回る可能性があるので、急いでバタヴィアまで逃走し、戦利品をろくに確認せずセーブをする。
「そうだ。これを運営に送らないと」
私は、画面から運営宛の問い合わせフォームに撮影した動画を添付し、不正を働いていると思われるプレーヤーがいると手短に伝えて送信した。運営側は、具体的な証拠を出して欲しいと言っているので、この動画があれば大丈夫だろう。不正なチートツールは、サーバーに侵入してパラメータをいじっているので、それこそ大問題で、必ず対処に動くはず。
フォームの送信を終えた私は、まだ残っている左肩の痛みと疲労感にこれ以上ゲームを続ける気力もなく、ゲームを終了した。
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