ヨシツネとの駆け引き
これからヨシツネへ砲撃の嵐を御見舞いしようとした矢先に、不意打ちのような一騎打ちの申し込みが来て慌てたが、申し込んだ側は途中で引っ込めることが出来るので、相手を油断させることも可能だ。だから、決闘の申し出に投げつけられた手袋は、すぐに拾い上げる。つまり、受諾だ。
画面上のボタンをタップして受諾を宣言すると、私の体が矢のようにヨシツネの旗艦へ飛翔し、甲板上に足から落下してドスンと着地する。
対するヨシツネは、長崎の噴水で遭遇したときと同じくニヤニヤした少年で、もう祝福の外套を着用し、聖剣エクスカリバーを抜いて中段の構えになっていた。こちらがまだ準備もしていないのに斬りかかってくる卑怯者かも知れないので、表示した画面から手早く祝福の外套に着替え、動画の撮影を忘れずに開始する。
「仲間をたくさん引き連れて連続攻撃を仕掛ける悪党は誰かと思ったら、こないだの生意気な口を利く女か。初めてやられたよ。しかも、3隻も」
初の撃沈が相当応えたのだろう。だから、一騎打ちを仕掛けてきたのだ。
「準備はOK? いくら相手が悪党でも、無防備な奴を斬るのは寝覚めが悪いのでね。待っててくれたこのヨシツネ様に感謝しなよ」
やっと自分から名乗ってくれた。動画撮影中なので、これは好都合だ。
「一騎打ちの前に聞きたいことがあるの。いいかしら?」
私がそう問いかけた瞬間、ヨシツネの顔が歪んだ。
「もしかして、僕がどうやってレベル99になったかって話? なんで、みんな聞きたがるのかなぁ?」
「いいから答えて。大阪に遺跡はあるの?」
「なんだ、またか。髭面でマッチョみたいなバルバロッサっていう奴もおんなじこと聞いたけど」
まずい。バルバロッサの質問と被ったらしい。でも、それしか用意していないから進めるしかない。
「あるの? ないの?」
「あるよ。金閣寺がね」
「どうやったら扉が開くの?」
「東方見聞録さ」
「それはどうやって手に入るの?」
「あんたはどうやって手に入れたの?」
「質問を質問で返さないで」
「あんたの答えが正しいかどうかを答えてやる。どうだい?」
そう来たか。知らないからそう言うのだろう。こちらの顔色を見て判断するに違いない。
「その前に聞くけど、手に入れるために必要なアイテムは?」
「なんだい、知らないのか? もしかして、あんたはチートツールにお世話になった口?」
チートツールの話を知っていることも引き出せた。これは幸先がいい。
「何、そのチートツールって?」
「知らなきゃいいよ。えーと、必要なアイテムだっけ? 日本書紀と源氏物語と古今和歌集さ。それを持っていて、どうすれば手に入れられるか、あんたなら当然知っているよね?」
「ええ。お姫様がやって来て『盗まれたから返して欲しいって』言うので渡すとくれるのよ」
「嘘だぁ。侍だよ。やっぱ、あんたはチートツールでパラメータいじった口じゃないか?」
ヤバい。引っかからなかった。ここで、想定では「そうだよ」って引っかかるはずだったのに。
「おや? 脂汗かいているみたいな顔だけど?」
「そんな位置から見えないでしょう?」
「バレたか……」
「それはそうと、チートツールでパラメータいじれるの?」
「いじれるよ。レベル99になれるし、全アイテムが手に入る。日本も開国できる」
ついに、本人の口からその事実が漏れた。これは大きな収穫だ。
「そんなツールがあっても、私は使わない。卑怯だと思うから」
「へー。しらばっくれちゃって。そのうちバレるんじゃないかって、ガタガタ震えているように見えるけど」
「武者震いよ」
それにしても、まだ攻略サイトにもない情報を、ヨシツネはどうやって手に入れたのだろう? バルバロッサが同じ質問をしたから、そこで覚えたのか……?
ん? と言うことは!? 今彼が持っている知識は、バルバロッサの古い知識かも!?
急に私は閃いた。
「東方見聞録が手に入ったら、聖剣の地図がなくても扉が開かれるわよね? 後から入手してもいいのよね?」
「ああ、それ? うん、なくても扉は開くよ」
ついにヨシツネが嘘に引っかかった。
実際は、「聖剣の地図を持っている時に日本書紀と源氏物語と古今和歌集を発見すると、侍が東方見聞録と交換してくれて、それを持って噴水の所へ行くと金閣寺への扉が開く」のだ。つまり、聖剣の地図がなくて扉が開くはずがない。バルバロッサは日本書紀と源氏物語と古今和歌集を発見した後から聖剣の地図を手に入れたが、侍は現れなかった。
彼は金閣寺を発見していない。だから、レベル99になるはずがないのだ。
「もういいかい? 決闘がだらけるんだけど。それが作戦だったら、あんたはかなり卑怯だよ」
「じゃあ、尋常に勝負よ」
私は言い終えると同時に抜刀する。聖剣エクスカリバーは、抜いたばかりの時は全体が半分以下の長さと幅になっているが、斜め上に振り上げると光に包まれて元の長さと幅に戻る。自分の背丈ほどの長さだが、難なく振り回せるほど軽い。少し左右に振って格好を付けてから中段の構えを取った。
「フフッ。レベル99同士の対決なんて初めてだな。しかも、一人は本物、一人は不正を働いた偽物。どっちが勝利をつかむのだろうね」
「それは本物よ」
「だったら、僕だ」
不敵に笑うヨシツネを、私は睨み付けた。
「違うわ。正真正銘、本物の私よ」




