凄まじいチート能力
杭州に到着した私は、水と食糧と弾薬を補給してからセーブをし、噴水の所へ移動した。杭州で待機するメンバーには集合場所を伝えておいたので、すでにサルヴァトーレさんが待っていた。遅れてバルバロッサがやって来て、カエサルさん、シャルロットの順番に集まった。スティーブさんが最後にやって来たが、ついでに長崎の様子を偵察に行ってきたら、ヨシツネはしっかり哨戒中だったとのこと。
予想通り、ヨシツネは新しい哨戒機能を試していたのだ。あちこち移動して暴れ回られるよりは、このように長崎で哨戒してくれている方が作戦を立てやすい。
いざ海戦になるとチャットをしている時間がないので、私はここで自分の考えた作戦を伝えることにした。
スティーブさんは、ヨシツネは船腹を沖合に向けて7隻を一列にし、壁を作っていたと言う。これは哨戒が機能改善で手動になる前と同じ陣形だ。彼は手動になっても同じ作戦を採ったようだ。
この壁に舳先を向けて90度の角度で船を近づけるとT字戦法の形になり、突っ込んでいった方が負ける。だから、自分たちもヨシツネの艦隊と船の向きを同じにしないといけない。
そうすると、8つの艦隊が押し寄せたら密集して身動きが取れなくなる。全艦隊が8隻ずつあるので、64隻が展開することになるのだ。そこで、2つの艦隊が左右から近づいて砲撃し、中央で衝突しないように直角に離脱する。これを8つの艦隊で分担し、4回繰り返す。
これに対してスティーブさんは、1つの艦隊が砲撃し離脱するを8回繰り返す案を出してきた。だが、バルバロッサは私の案の方が敵戦力が二手に分かれるから、受ける攻撃が半減するはずだと主張し、私の案が採用された。なお、この時も彼の会話は私のチャット経由だが。
実は、後でわかることだが、ヨシツネ艦隊の前ではこの作戦は通用しなかったのである。
一騎打ちが先か砲撃が先かで揉めたが、砲撃で相手を損傷させて焦りを誘い、一騎打ちを挑む方が乗ってくるだろう、で落ち着いた。
さて、私たちの各人のレベルは以下の通り。
スカーレット(私):99
バルバロッサ:97
ユキムラ:95
ラファエル:93
スティーブ:90
サルバトーレ:89
カエサル:88
シャルロット:85
下から2つずつペアを組んで左右から近づいて砲撃することを決めた。この結果をチャットでユキムラさんと共有した後、一斉に出港した。
ゲームでこんな大掛かりな共闘をするとは思わなかった。複数のパーティーと協力してダンジョンに潜り魔物をやっつけるVRMMORPGをやったことがあるが、それとは全くスケールが違う。
紺碧の海を進む大船団をクイックモードで眺めていると、感動で胸がいっぱいになるが、同時に強い不安が襲ってくる。レベル98だった私を瞬殺したヨシツネの前に、仲間が全滅をするのではないかという恐怖。今からでも引き返して遅くはないと、もう一人の私が囁く。直感がそうさせるのかと思うと迷いが生じる。
だが、もう遅い。遠くにヨシツネの船影が見えてきた。
シャルロットが右側から回り込むために速力を上げて艦隊を進める。タイミングを計るため、左側から攻めるカエサルさんの艦隊が減速する。
ところが想定外のことが起こった。ヨシツネの7隻が一斉に動き出してシャルロットの艦隊を襲ってきたのだ。
「ココ! 逃げて!」
思わずココの名前を口にしてしまった。しかし、願いもむなしく、ヨシツネの一斉砲撃の大音響が海面を転がると、魔法でもかけられたかのように、シャルロット艦隊8隻が無抵抗のまま沈んでいく。
「嘘!?」
シャルロットのゲームオーバーを目の当たりにした私は、頭が真っ白になった。
ヨシツネは、今度はカエサルさんの艦隊に近づいてきた。カエサルさんは、砲撃しながら面舵で回避しようとしたが、これもヨシツネの一斉砲撃がこだまする中、8隻が次々と沈んでいった。
今度は、スティーブさんとサルバトーレさんの合計16隻がヨシツネに立ち向かう。味方の砲撃は当たっているはずだが、ヨシツネの百発百中の砲撃が勝り、二人の船が1隻また1隻と海中へ没していく。二人とも旗艦のみとなったが、それらも火だるまになるのは時間の問題だった。
ここまで30秒も経っていない。その間に32隻が撃沈された。
悪夢でも見ているのか。
茫然自失の状態で声も出ないでいると、私の横を駆け抜けていく2つの船団があった。ユキムラさんとラファエルさんの艦隊だ。先輩たちの船は、砲弾をかいくぐるかのように機敏に動いて果敢な砲撃で応戦していたが、こちらも次々と沈んでいく。
だが、先輩たちの艦隊が全滅したとき、ヨシツネの1隻が大きく傾いて、舳先を天に向けて海に飲み込まれていく。
初めて見た。ヨシツネの船が沈むのを。
これで一気に目が覚めた。
私より先に動いたのはバルバロッサの艦隊。彼は、大きく迂回して遠ざかる。すると、それに引き寄せられるようにヨシツネの艦隊が移動した。
「あれって、CPUと同じ動きじゃない……。もしかして!」
ヨシツネは、手動になっても、今まで全戦全勝のCPUの動きを真似ているのだ。敵が数多く現れても戦力を分断するのではなく、1つの艦隊に全力で攻撃する。何も高度なテクニックを使っているのではない。今までの自動での動きをなぞっているだけだ。
バルバロッサは蛇行してヨシツネ艦隊を翻弄しつつ、攻撃を重ねる。ただ、あまりに遠ざかるとヨシツネが修理のために寄港する可能性があるので、時には接近し、絶妙に距離を取って一斉砲撃する。
ダブルカノン砲の咆哮が消えると、最後まで残っていたバルバロッサの旗艦が海中に消え、遅れてヨシツネの火だるまになった2隻がゆっくり傾いて沈んでいった。
3隻を失ったヨシツネ艦隊に、長崎から3隻が出港してきて補充された。
七人の仲間を全員失った私は、怒りに燃え、ヨシツネ艦隊に戦いを挑む。
ところが、ここでも全く想定外の出来事が起こった。
ヨシツネから一騎打ちを申し込まれたのだ。




